剣の示すもの

そこは炎に包まれた地獄だった。

女や子供はすでに非難したらしく、そこにいるのは数人の男だけだったが、うち何人かはすでに焼死体か肉塊に変わっている。

彼らを物言わぬ死体へと変えた者の正体は、揺らめく炎の中にたたずんでいた。

炎と見間違えそうな、真っ赤に輝く皮膚と鱗を持つ巨大なトカゲ。


そのトカゲに相対する男達の中に、目当ての人影を見つけた。


「おじさん!」


人影がこちらに気付く。


「ステイ!なんで来た!」


「それよりなんだよこのトカゲは!」


「サラマンダーだ。まさかこんな辺境の村に出るとは思わなかったが」


「サラマンダー⁉霊獣の⁉」


霊獣とは、神獣、聖獣に次ぐ高位生物だ。

その中でもサラマンダーは、『灼熱』属性を持ち、起こると、その国ごと全てを燃やし尽くすと言われている。

そんなものがなぜこの村に。


「とにかく、下がれ!こいつは炎から、自分の分身を作り出す」


よく見ると、炎の中から、小型のサラマンダーが出てきていた。


「モエロはどうした!」


「すまねぇ!」


そう言いながら、さっきまで俺達の家にいた男が走ってきた。


「モエロちゃんが、せめて、多くの人の治療がしたいって、止めても聞かなくて」


モエロさんは『祝福』属性。治癒魔法が使える。


「言い訳はいい‼モエロはどこへ行った‼」


「怪我人が非難している、大倉庫に」


すると、サラマンダーの分身を相手にしていた男の一人が。


「さっき、分身の1体が大倉庫の方へ向かったぞ!」


「何⁉」


おじさんは向かおうとするが、サラマンダーの相手で手が放せない。

そんな中駆け出したのは。


「モエロ!」


俺だった。













「大丈夫です、すぐに痛みは消えますから」


モエロが怪我人達に治癒魔法をかけていると、突如として大倉庫の壁が、炎と共に崩れ去る。

そして、炎に包まれた大型のトカゲが姿を現す。


「早く!皆逃げて!」


怪我の痛みに耐えながら必死に逃げる人々。

だがとうとう限界が来て、トカゲ、サラマンダーに追い詰められる。


怪我人を守るように立ちふさがるモエロだったが、サラマンダーの舌先からこぼれる炎が、彼女の服を焦がしていく。

誰もが死を覚悟したとき。


「『メロイ流 フルスラッシュ』!」


サラマンダーの舌が、頭ごと切り落とされた。


「ステイくん」


「モエロさん!大丈夫ですか!」


汗だくで現れた家族、ステイに、モエロは涙を浮かべた。


「うぅ...私...」


「モエロさん?」


「怖かったです~~~~!」


「うわ!抱きつかないでください!」


俺は、モエロさんに抱きつかれ慌ててしまう。それは、モエロさんのいろいろが当たっているからでも、周りの目が変に優しいからでもない。


「こいつを倒さないと」


サラマンダーは、すでに頭を再生させ始めている。さすがはトカゲと言ったところだ。

対して俺の剣はサラマンダーの耐熱で表面が溶けてしまっている。

金属を覆い直すとして俺の魔力残量的に、後一回が限界だ。

恐らく、サラマンダーを倒すには、体の中心にある魔力コアを狙うしかない。


「ステイくん」


モエロさんが、突然に俺を、自分の方へ向かせる。


「私にできることは、これだけだけど」


モエロさんが、自分の唇を俺の唇に重ねた。


最上級の祝福ハイネストブレッシング


唇を通して、モエロさんの魔力が俺に流れ込む。

体力、魔力、防御力、全てが上昇していくのを感じる。


唇が離れ、二人とも顔を赤くする。


「ま、魔力供給に口が最適なのは知ってますけど、いきなりは......」


「そ、そうですよね。すみません。時間がないと思って」


確かにギリギリだった。

サラマンダーが完全に頭を再生するのと、俺が構えるのは同時だった。

サラマンダーが口の中で、炎のブレスのエネルギーを溜める。

俺の剣は、大量の魔力によって、金属を纏うだけでなく、身長の2倍はある大剣へと姿を変える。


「『メロイ流奥義 ギガントフルスラッシュ』‼」


俺の剣は、吐き出されようとしていたブレスごと、サラマンダーを真っ二つにした。

コアは分身だから無かったようだが、真っ二つのダメージは大きく、再生で補えない。サラマンダーは、灰となって消えた。


「あ~疲れた!」


「ステイくん、お父さんは?」


「‼」


慌てて俺とモエロさんが中央広場に向かうと、そこにおじさんはいた。

ただし、心臓を巨大な燃える爪で貫かれた状態で。


「おじさん‼」


「お父さん‼」


爪を引き抜いたサラマンダーの本体は、気が済んだとでも言うように、その場を去っていった。

いつのまにか、たくさんいた分身は全て消えていた。

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