最底辺の少年
ふよふよ
ふよふよふよふよ
「もう~ステイくん、いつまで揉んでるんですか」
「え?、あ、すみません、寝てました」
「またヒーローになる夢ですか?」
「は、はい」
「夢を見るのはいいですけど、寝るたびに揉むのはどうかと...」
「すみません」
「私はいいですけど、大人になってから他の人にしたら捕まってしまうからね」
「はは...その頃までには直しますよ」
「本当ですか?」
「も、もちろん。あ!稽古の時間だ!」
「ちょっと!」
俺は勢いよく建物を飛び出し、稽古場へ向かう。
俺の名はステイ、親の顔は知らない...いわゆる孤児というやつだが、農業を営むメロイ家に引き取られ、一応幸せに暮らしている。
メロイ家の一人娘、モエロさんとも仲良くやっている。モエロさんは年下の俺を、まるで弟のように可愛がってくれている。
だから先ほどのように、俺が寝相で胸とかいろいろ触っても何故か寛容だ。
おじさん、つまりモエロさんの父親は、俺の剣の師匠でもある。
なんと、元王国衛兵だそうだ。
「おじさ~ん」
「おう!ステイ、来たか!」
若干太めながらも、がっしりした壮年の男、メロイのおじさんが返事をする。
「ゴメン、遅れて」
「なんだ?またモエロの所か?」
「うん、また例のやつで注意された」
おじさんは快活に笑って。
「はは!お前もモエロも年頃なんだ。そろそろ控えないとな」
「はい......」
「ま、お前があいつを貰ってくれるなら文句は無いが」
「冗談は止めて下さいよ」
「さて、どこまで冗談かな?」
「はは...」
モエロさんは美人で気立てがよく、村の男からの評判もいい。はっきり言って素敵な人だ。
だけど、彼女は俺を弟の用に思っているし、俺自身、あまり彼女を女性として見れていない。
「まぁ、そんなことは今はいい。それより稽古だ。行くぞ」
「はい!」
俺とおじさんは木剣を構え、打ち合いを始める。
おじさんは元王国衛兵だけあって、常人を逸した動きをする。だが俺だってだてに今まで稽古を続けてきた訳ではない。
速度はおじさん以上、少しずつおじさんを推していく。
「なかなか腕を上げたな、だがまだスピード頼りだ!」
「それはどうかな?」
俺は速度を保ったまま、剣を降り下ろす。
「甘い!」
おじさんは俺の剣を受け流し、そのエネルギーを利用して切り上げる。
おじさんの剣先が顎をかすり、俺たちは距離をとる。
「まだ直線的すぎるが、それはあえて残した方がいいもな。さて次の稽古いくか?」
「よろしくお願いします!」
「よし!魔力構築開始!」
魔力構築とは、己に宿る魔力を魔法へと変えるための準備だ。
「『
おじさんの属性は『闘牛』、猛る牛のオーラを操る属性だ。
対して俺は。
「『
俺の属性は『鉄装』。この現代で最も不必要と言われている属性だ。
理由は、また後で。
おじさんを巨大な牛のオーラが包み込み、俺の木剣を金属が覆っていく。もちろん刃は潰してある。
「行くぞ!ステイ!」
「来い!」
猛牛のような突進と、金属剣による特攻が激突する。
「「ただいま~」」
「おかえ...どうしたの二人とも!」
稽古が白熱し過ぎて、おじさんも俺もボロボロだった。
「もう!早く着替えてきて!ご飯出来てるから!」
「「は~い」」
モエロのお母さん、おじさんの奥さんは、俺が引き取られる少し前に病気で亡くなったらしい。
だから、この家の家事の大半はモエロが担当していた。
「今日はステイくんの大好きな鹿肉シチューよ」
俺とおじさんは着替えを終え、モエロと一緒にテーブルにつく。
こうして皆で囲む食卓が、俺は大好きだった。
「「「いただき...」」」
食事の挨拶を言い切ろうとしたとき、ドアが勢いよく開けられ、誰かが入ってきた。
「メロイさん大変だ!村に化け物どもが!」
「何⁉」
慌てて家を出るおじさん。
モエロさんと俺も家を後を追おうとするが。
「二人は家に残ってろ‼」
そう叫んで、おじさんは先に行ってしまう。
「どうしよう...ステイくん」
「やっぱり...俺も行く‼」
「待ってよ!お父さんはここに残れって!」
モエロさんの声を振り切って、俺は家を飛び出す。
しばらく行き、人を見かけないことに気付く。
村の中央付近まで行くと、人を見かけた。否、人だった焼死体を。
思わず吐き気を催すも、こらえてさらに先へ進む。
村の中央に着くと、
そこには地獄が広がっていた。
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