開幕「不敵な笑み」
赤いドレスの女は高らかに笑みをこぼす。
有名な絵画みたく微笑めばまだマシなのだが、その高揚はただ
「ぎゃははははは! サイィィィッコウに楽しいわ!」
人の心臓を何らかの術式で貫いて笑みを浮かべるとか、気が知れてる。
だが女の殺戮衝動は冷め、油断した今が最後の好機だった。
仕上げの台詞を、俺が語らねばならんのだ。
―――弔いと汝が事柄に我が対価をくべる
*波紋の無い湖面を思い、静観とした心に詩を浮かべる。
*視覚の周辺がぼやけ、やがて暗闇が覆い始める。
*聴覚も鈍り、ドレスの女の叫ぶ笑いがトーンを外していく。
*身体は力も入らない。痛覚も今は無くなった。
*ただただ悪寒だけがジワリと魂を蝕む感触がする。
―――空白を埋め、齟齬を埋め、消失を埋めよ
淡々と言葉を並べ意識を集中させる。だが限界だ。酸素の足りない脳が思考の放棄を始める。もはや白黒に点滅するノイズを見ているようだった。
「―――
「……え? 生きてるの? 驚いた。心臓ガッパリ抉り飛ばして、喋れるとか、流石は
勿体ぶる女は演唱を始めた。次こそ俺の体が消し炭になる。
急かす意思とは裏腹に声は掠れ、口も
無き心臓が脈打つように、振った
「
「
女の声が場を轟かせ収束されていく。
肌を焦がす火災の熱など生ぬるく感じるほどの灼熱と殺意が俺を狙う。
青白く死を覚悟した
先に語り終えたのは女だった。
「塵も残さない!
けたたましい轟音と共に眩い輝きを放つ熱波が襲い来る。
迫りくる炎の奔流は、
先程までの技とは桁が違う。あれだけ追い込まれていた時間が子供の火遊びに思えた。そしてこれが、この女の全力であってほしいと切に祈る。そうでなければ、俺の妹は確実に勝てないのだから。
「
膨張を重ねた熱の脅威を前にして、俺は笑みを浮かべていた。後で考えても、あの時の口角の引き上がる感覚に自発性は無く。
「―――
叫んだ自分の声に覇気は無く。
―――ニパァ……。
それでも勝機の笑みは覆らなかった。
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