第32話

「なんであいつこんなにもこの建物に詳しいのよ」


 ハルヒが迷路のような建物の角をまがりながら呟いた。


「恐らく事前に下調べでもしていたのでしょう。私たちスタッフに化けて見取り図を見たのかもしれません。ですが私もこの建物の内部構造は熟知しています。この先は行き止まりになっていますからハルヒは銃を用意しておいてください」


 そう言いながら森さんは自分も銃を取り出した。カチャッという音が後ろで聞こえたから振り向くと森さんだけでなく古泉も銃を構えていた。


「何でお前も持ってんだよ!」


「護身用ですよ。朝比奈さんが狙われたのなら僕やあなただって狙われてもおかしくありませんし」


「そう言われればもっともだな!」


 角を曲ろうとした長門は驚いた風に立ちつくし、辺りを見回してから近くの部屋へ逃げ込んだ。俺たちは扉を開けようとしたが鍵がかけられて開かない。しかし森さんがマスターキーを持っていた。


「いいですかハルヒ。扉が開いた瞬間向こうが発砲する可能性もあります。一気に片をつけますよ」


「分かってるわ」


 森さんがカギをカチャリと開けると同時に、ハルヒが中に入った。続いて森さん、俺が入る。だが長門は撃ってこなかった。


 長門は拳銃をしまって一生懸命何かの紙をめくっていた。ガチャリと古泉が扉を閉めた音がして驚いて俺達を見た。


「年貢の納め時よ!よくもみくるちゃんに酷いことしようとしてくれたわね!!!」


 長門は黙ったまま俺達を、いや、誰かを睨みつけていた。


「違う」


「何が違うっていうのよ!『私はルパンではなく切り裂きジャックです』とでも言うつもり?」


「私はハメられた。あなた達にはすまないことをした」


 そう言って俺を見た。何を言っているんだ、長門。


「キョン君、騙されては駄目!!!彼女は朝比奈さんを殺そうとしたのよ!勘違いなんかで済まされないわ!!!」


 森さん、何かおかしい気がしませんか?


「そう。私はただの駒でしかない。妹を人質を取られて仕方がなかった」


「妹を人質に? 」


「キョン!情に流されちゃだめよ!!!こいつは犯罪者なんだからね!」


 !?待てハルヒ。探偵事務所で暴れた奴を思い出せ!


「暴れた奴?」


 ハルヒの目がみるみる見開いていった。


「あの時の依頼人!そう言えば妹を探しているとか言ってたわね。じゃああれはあんたの変装だったの!?」


 言ってハルヒは銃口を床に向けた。


その直後


バン バン バン


三発の銃声が響いた。

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