第33話

 誰が、誰を撃ったのか。最初分からなかった。ガクッと膝を折り、スローモーションのように長門が前のめりに倒れ込んだことで、ようやく長門が撃たれたと分かった。


「長門!!!」


「動かないでキョン君。動くとあなたも撃ちます」


 俺が横を見ると森さんが俺に銃口を向けていた。


「やめて!!」


 ハルヒが叫ぶが森さんは聞く耳を持たない。次の瞬間俺は変な音を聞いた。


カチカチカチン


ビュンッ


パシ


カラカラカラ


 俺は手首を押さえて睨む森さんを見て、ハルヒが隠し持っていた仕込みステッキで森さんの銃をはたき落したことを理解した。だが今はそれどころじゃない。


「長門しっかりしろ」


 ガシっと俺の袖が掴まれた。そして何かを俺に言おうとしているのだが声が小さくて聞き取れない。俺は耳を長門のそばに近づけやっと言葉を聞き取った。


「…………………………」


 長門は俺の袖から手を離し、ある人物を指差して力尽きるように脱力した。



 驚くほど無機質な目をした森園生さんを指差して。



 俺は長門がさっきまで持っていた紙を見た。この建物の精密な見取り図だったが、さっきの行き止まりのところが地上へ出られる階段となっていた。つまり、長門は偽の見取り図を見て、罠にハメられていたのだ。


「キョン君、よく聞きなさい。あなた達が信じるべきなのはどっち?犯罪を憎んでいる私か、犯罪者の彼女か。それに、本当に死んでいるのかしら。彼女、死んだふりしてるのかもしれないわよ。一昨日の夜だって、二人の警部に撃たれても平気だったんでしょう」


 俺は急いで長門のズボンの裾をまくりあげた。すると薄い鉄板が何枚か張り付けてあった。新川さんが言ってた、脚に鉄板でも付けているのかもというのが、当たっていたということだ。つまり、今の長門は普通の人間と同じ力しか持っていない。



 森さん、さっきいいましたよね。二人の警部に撃たれても平気だったって。


「ええ、そう言ったわ。だから今も死んだふりをして逃げる機会をうかがっているのかもしれない」


 どうして、二人だと思ったんですか?ハルヒも気がついたようだった。


「あら、あなたたちも見たでしょう。ルパンが二人の警部から撃たれているのを」


ハルヒが銃を森さんの方へ向けた。


「たしかにその場には新川警部と鶴屋さんの二人の警部がいたわ。けどね、新聞には新川警部のことしか書いてなかったし、実際に撃ったのは新川警部だけ。鶴屋さんがその場に居たことを知っているのは、あたしたちと、ルパン側の人間だけなの」


 森さんは悲しそうに左手を目元に持って言った。静寂という言葉がぴったりの状況だったが遂にそれが破られた。




「ばれちゃったか」

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