第27話

「手がかりっていうか逆に手がかりがなくなったんじゃないの?唯一の情報だった青髪っていうのもカツラだったってことじゃない」


 ハルヒは不機嫌そうに言った。


「今回の事件はただの事件じゃないね。あれは切り裂きジャックじゃなかったよ」


 鶴屋さんが確信があるように話し続けた。 


「あたしが掴みかかった時、ルパンと同じ匂いがしたんだ。あれは切り裂きジャックに変装したルパンだよ」


「そんなことをしてルパンに何の意味があるのよ」


「例えば切り裂きジャックが怪我をしたか死んだけど、それを誰かに知られたくなかったとか・・」


「根拠のない仮説は聞きたくいわ」


 ハルヒは明らかにイライラしていた。ここが元の世界ならさぞ大きな閉鎖空間ができていたことだろう。府と古泉を見るとぐったりと壁にもたれかかっていた。大丈夫かと声をかけると、鶴屋さんとハルヒもそれに気がついて会話をやめた。


「ちょっと疲れが出たようです。申し訳ありませんが、先に自分の部屋で休んでも構いませんか?」


 そうしろ、さっさと寝てなおせ。古泉が部屋を出ていくとハルヒは黙り込み、鶴屋さんと新川さんにも帰るよう言った。二人とも異論はないらしく丁寧に頭を下げて出ていこうとした。と思ったら鶴屋さんが俺のところに来て懐からパンを差し出した。


「猫ちゃんにあげとくれ」


 それだけ言うと足早に部屋を出ていった。


「何よ。うちは猫なんて飼ってないのに」


 ハルヒはぶつくさ言っていたが、俺は苦笑いをしていた。鶴屋さんはいつシャミセンに気がついたんだろう。


 それから俺とハルヒは朝比奈さんの部屋へ行った。朝比奈さんは起きていて、ベッドでまどろんだ様子だった。一部始終を説明して、ハルヒが猛烈に腹を立てている側で、朝比奈さんは対照的にぼんやりと、と言えばまだ薬が効いているように聞こえるが、なんの関心もないような風にただ話を聞いていた。朝比奈さんは今日は涼宮さんたちももう寝ましょうと言って、俺達を自分の部屋へと促した。


「やっぱり警察は嫌いよ。何考えてんだか分かんないわ」


 そう言ってハルヒは自分のベッドにもぐりこんだ。




 この世界が長門による改変世界なのだとすれば、そろそろ何かしら手を打たなければまずい。前回は「John Smith」が突破口だったが。どうしたものか。


「まず根本から問い直す必要があるのではないだろうか。あの彼女が、再び過ちを犯すとは私にはどうしても思えんのだ」


 ベッドの下から低い声が響いた。俺は喋るなといったはずだが。


「安心したまえ。隣のベッドからはすでに寝息が聞こえてきている。我とわが主以外にこの話を聞く者はいない」


 実際、ハルヒはすでに眠っているようだった。ならいいか。あと、鶴屋さんからお前にパンの差し入れだ。シャミセンは目の前のパンをスンスン匂いをかいだ。


「先に話してからにしよう。さっきも言ったがあの彼女が同じ過ちを犯すとは思えん。それに、そのようなことを彼女の主が許可するだろうか」


 むぅ、そう言われればたしかにそうだ。喜緑さんが来たのは長門の再暴走を防ぐ目的だったと思っていたが、防ぎきれなかったのだろうか。


「まあ何にしても本人に会って聞くのが最善だ。明日にでも会いに行こうではないか」


 そうだな、見つかればの話だが。


「心配する必要はない。すでに私は彼女の職場で彼女と会話をした。君もぜひ会うといい」


 え?お前、長門の場所知ってるのか?長門は今どこにいるんだ?


「大英博物館図書館で司書として働いておるよ」

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