162話計画を止めるために

 ハーセルフとの約束により、モンスター達がなぜ村々を襲っているのかについて探ることになった、その日の夕方。


 あの後2人で宿を抜け出したことをキャルヴァンとエイナにばれてしまった俺たちは、しこたま怒られた挙句夕食を食べに出かける際、ハーセルフはエイナが、俺はキャルヴァンとウェダルフの二人がかりで両脇を固められ、その状態でお店まで行く羽目となった。


 「いや……もう流石に一人行動する気ないからいい加減これ外してほしいんだけど………ダメ?」


 「ダメー!! ヒナタにぃはヒナタにぃの意思関係なく巻き込まれるから僕が守らなきゃでしょ!!」


 「おっしゃるとおりです……。でも、これ結構恥ずかしいんだけど………」


 特にキャルヴァン側が、だけどね!

 セズたちと別れて以来ずっと実体化を保っているキャルヴァンだが、ずっと幽霊だったせいか自身のプロポーションに関しては少々無自覚な部分があり、多感な青年である俺しては大変遺憾に思うところがあるって……ほんと自覚してっ!!


 「とにかく夜になる前にご飯を済ませて、エイナちゃんたちは明日帰ることにしましょうね。今日はもう出歩いちゃダメよ?」


 「はーい! わかったよ〜キャルヴァンお姉さん!!」


 「あら……お上手ね、ハーちゃん」


 いつもの調子を取り戻した様子のハーセルフにみんなどこか安心したようで、ご飯を食べ終わり帰るまでは極めて平穏そのものだった。そう……どこか物憂げなヴェルデ一人を除いて。


 事態が急変したのはご飯も食べ終わった時のことだった。宿へ帰ろうとしていた俺達だったが、一人浮かない顔のままだったヴェルデに気づき、先ほどのことも含めて話をしようと近づくと、彼も何か話があったようで俯き首を垂らしていた顔をあげたその矢先。ずっと探していた何かを見つけた彼の目は驚きと同時に困惑で大きく開かれ、何事かと話しかける間もなく、彼は目線の先にあるものへ向け走り出してしまう。


 「あッ!! おいヴェルデ!! 〜〜〜ッッ宿で待ってるから!! 帰ってくるの、待ってるからな!!」


 彼はもう帰ってこないかもしれない。

 そんな一抹の不安がよぎり、思わず出た言葉に俺自身驚いてしまう。待つって……そんな居場所にもなりえなかった俺が言うだなんて可笑しいにも程がある。

 だけど、だけどハーセルフがいった彼の本当の望みというのが、どうしようもなく気になったのだ。彼がなぜサンチャゴに付き、そして彼はモンスター殲滅計画に加担しているのかどうか、なんてどうでも良くなるほどに。


 「ッッ!!……………り……ご…」

 

 俺の言葉に走りながらも何かを呟いた気がしたが、喧騒に紛れてよく聞こえないままどこかへ去ってしまう。


 「ヒナタ。ヴェルちゃんは……行っちゃったのね」


 「あぁ。でも……彼は必ず戻ってくる。だからその時は俺達の仲間として迎えて欲しいんだ………」


 「えぇ。わかったわ」


 俺は彼の誠実さと優しさを信じたい。

 彼は心のどこか奥では、モンスターを討伐したくないんじゃないかって。彼自身その狂気に怯えているんじゃないかって信じたいんだ。


 「それと……みんなに話があるんだ。少しだけ……時間をもらってもいいかな?」


 「えぇ構わないわ。……ヒナタが先に話してくれるだけ進歩したんだもの。喜んで聞きたいわ」


 「ありがとうキャルヴァン」


 時間は待ってはくれない。モンスター殲滅計画はいつ動き出してしまうのか分からないのだ。





 *********************




 日はすっかり落ちたが夜はまだこれから。

 街は今から賑わいを見せるというのに、その賑わいを見せてあげれないまま、俺たちは宿へ戻りエイナ達を交えた話し合いをする次第となった。


 「エイナ達にも聞いてほしい話があるんだ」


 「………それはモンスター殲滅に関係することか?」


 察しの良いエイナはハーセルフが考えていたことも、そして俺が何をしようとしているということも気づいていたのだ。


 「そうだ。モンスター殲滅計画について……俺はこの計画を中止させるための手かがりを得るために…………ヴェルウルフに変身してなぜ人を襲うようになったのか、どうしたら止められるのかを探ろうと思ってる」


 「なぜって……それは食べるものがないから襲っているとかではないのかしら? それ以外に事情があるとヒナタは考えているの?」


 「………ヴェルデは言っていた。元は守護獣だったのが長い冬のせいでエルフ達を襲うようになったと。だけどこの間……サンチャゴさんの村が襲撃された時に聞こえたんだ。飢えに苦しむ以外の声が……………だから俺はそれを知るために彼らの事を知りたいんだ」


 「危険だよ、だめだよ!………って止めてもヒナタにぃは止まらないよね。………うん。わかったよ!! でも絶対無茶だけはしないでね! 絶対、生きて戻ってくるって……約束してほしいな」


 顔には行かないでと必死に止めていたが、その言葉を呑んでまで俺の背中を押す彼の優しさと強さに言葉もなく頷く。

 そんな俺達の様子を見ていたキャルヴァンは、餞別とばかりに俺とウェダルフを抱き締めてその気持ちを伝えてくれた。


 「ありがとう、二人とも。………それでここからが本題なんだけど、四人にはそれぞれお願いしたい事があるんだ。まずはエイナとハーセルフ……というより灰色の兄弟に仕事の依頼だな。君達にはこの手紙を届け終わった後、他の村の状況を調べてきてもらいたい。依頼料は少ないけど今払うから頼めるか?」


 「………お代はいらない。これは本来の仕事とは全く関連性のない依頼内容で、これじゃあ他の奴らにも示しがつかない。何より始めたばっかだっていうのに、何でも屋だと勘違いされても困る。………だからこれは灰色の兄弟独自で動いた事だからその金は他に使うこった」


 「ありがとうエイナ。……ありがたくそうさせてもらうな」


 「だぁから個人的な問題だって言ってんだろ? ………それに今はまだ調査段階だ。依頼するにはまだ早いだろ?」


 その眼差しはもっと先を見据えているようで、間違いなく彼女がリーダーとして、あの兄弟達をまとめているのだと思い知らされる。俺自身見えていないものを見ているかのような目は正しくカリスマともいえるもので、俺も不思議と勇気づけられる。


 「次にウェダルフとキャルヴァンなんだけど……二人には引き続きギルドメンバーとコミュニケーションを取りつつ、依頼をこなしてほしいんだ」


 「そうね。私もその方がいいと思うわ。……だけれど私達二人で受けられる依頼なんてあるのかしら?」


 「そうだな……確かにそこも問題の一つではあるけれど、もっと重要な事があるんだ。…………キャルヴァン、魂の預け場所について何か聞いたことはあるか?」


 「魂の……預け場所? …………あぁ、そういえば最初の頃オールからそのような事を聞いた事があったけれど……それがどうしたのかしら?」


 やはりというべきなのか、キャルヴァン自身その意味を深く知らないようで、自我を保てる範囲のことすら知らなかったのだろう。まるでなんのことやらといった様子だった。

 フルルージュめ………。

 彼女のことだ。あえてこの事を伝えていなかったのだろうことは明白であり、俺はこの間聞いた召精霊術士のことについて説明するとキャルヴァンは怒るでもなく、驚くでもないあらそうだったのね、くらいのあっさりとした反応で終わってしまい俺の方が驚いてしまうくらいだった。


 「……とまぁ、こういうことで依頼を受ける際はあまり街から離れすぎないようにしてもらえればと思う。それと……さっき伝えた通り離れる時期が長すぎても危険だから、俺がモンスターになる期間は今日の夜から三日目の夜までにしようと思うんだが——


 「今日から三日間って?! それは いくらなんでも無茶しすぎよヒナタッ!!! あなた昨日もまともに寝てないでしょう?!」


 予想通りキャルヴァンは悲鳴に近い声で抗議の声を上げ、ウェダルフは顔を真っ青にさせて涙を浮かべていたが、意外とエイナやハーセルフは冷静に二人を収めていた。


 「……二人とも落ち着けよ。確かに一見無茶のように思えるけど、確かに俺達の動きもある以上、あまり日を跨ぐのは得策じゃない。それにヴェルウルフは集団で移動するモンスターの中でも長距離移動を得意とする奴らだ。あまり時間を置くと3日の期限を超える可能性も出てくる」


 「……そうだね。それにヴェルウルフの縄張りを把握している僕たちがいないと、群れに遭遇するのも難しいと思うよ。動くなら確かに……今しかないと思うな」


 何もかもが急拵えで、杜撰としかいいようのない算段だが、相手の出方や計画の実行日が分からない以上、短い期間で状況把握する必要がある。ここでぐずっていたら時すでに遅し……なんて一番避けねばならない状況だと二人もわかっているのだろう。


 彼女達の言葉に何も言い返せないまま、俺たちはしばしの別れを惜しむように、今度は五人でお互いの想いを伝え合うように肩を抱き合うのだった。

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人類をかけて一日一善はじめます。 漠せいさい @seisai-oshin

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