160話モンスター殲滅計画
「今から話すことはあくまで調査段階の話だ。だが、ほぼ確実に近日中に起こり得るとされる信憑性の高い話となる。……だからその前に伝えるべき相手を確認しておきたい。……特に君たち、獣人の子らには辛い話になるだろう。それでもいいと覚悟があるならばどうか聞いてくれ」
のっぴきならない切り出し方に、俺は元よりそれ以上に幼い三人を見やるが、どうやら杞憂だったようだ。
「俺達に関わる話ってんなら、なんでも聞いておきたい。それがとんな辛い話だったとしても、知らずに嘆くよりは知って後悔する方がマシだ」
「ボクもリーダーと同じだよ! 知らない方がよっぽど怖いっていやってほど思い知らされたんだもん!」
「………君たちの覚悟はよくわかった。では話を続けよう。…………ヒナタは聞いた事がないか? ギルド内に反乱分子がいるという噂を。そしてその者達が商人たちと結託し、とある計画を進めていると……」
反乱分子という単語に動揺しそうになるが、なんとかすんでのところで耐える。サンチャゴさん達のことを庇うつもりはないが、今対立するのは得策ではない。そう考えて敢えてそのことは伝えず、知らないという意味で頭を横に振る。
そんな俺の沈黙に、同じく事情知っているウェダルフも何も言わないままルイさんの話を待っていた。
「そうか……………。まぁいい、どうせヒナタのことだ。そのうち巻き込まれるだろう。その計画というのは今、シュンコウ大陸を荒らしまくっているヴェルウルフをはじめとした、村々を襲うモンスターの殲滅を計画しているようなのだ」
「なッ!!! 何馬鹿なこと考えてやがんだお前らッッッ!!! そんなことしたらシュンコウ大陸の生態はどうなると考えてやがるッ!!」
「落ち着けエイナ!! ルイさんが計画してるわけじゃないのにここで怒ってもどうしようもないだろ!」
「グゥゥゥゥ………ッチ。んで……続きは?」
エイナどんどんボロが出てるけど、ルイさん怒ってないよな?
そう思い、顔色を窺うがルイさんは気にした様子はなく、寧ろなぜか先程からエイナを止めるため羽交締めにしている俺を睨んでくる。………いやなんでだよ!
「エイナ。君の言う通り、これほど愚かな計画はないと私を初めとした上層部は考えている。だが、申し訳ないことにこれを阻止する手立てを持てていないのが現状だ。それというのも先ほど伝えた通り、反乱分子が主犯である以上、その規模を知ることすら困難を極めている。ただ制限を掛ければ良いという単純な話でもないのだ……」
なぜ反乱分子が生まれたのか。
その理由は反乱分子であるサンチャゴさん自身、今回の制限……つまりはモンスター討伐禁止にあると言っていた。
制限が元で起きてしまった反乱を、より重い制限でもってかけても更なる反乱分子を産むだけの結果になるだろう。
ではどうする? どうしたらこの計画を止める事ができるのだろうか?
「だが、計画の実行日さえわかれば、それに向けて手を打つことも可能になる。ということで、ヒナタ。今回君に話した理由についてだが……ヒナタにはこの計画の実行日、もしくはそもそも計画を中止にできる手立てが他にないかを探ってほしい。勿論こちらでも引き続き調査を進めるが、なにせ上層部と実際活動している者とでは入ってくる情報がそもそも違う。なに、そこまで大きな情報でなくても良いのだ。………誰が関わっているのか、それさえも貴重な情報となり得るだろう」
うーん……バレている。
これは完全に俺が巻き込まれているのがわかっているのだろう。だからこそ話せない。いや………ルイさんに話すには、情報がまだ足りない気がしてしょうがないのだ。なんの? と問われてしまえば、わからないとしか答えようがないが、それでも……だ。
分からない事があるうちは誰を敵に回し、誰を味方にするのかを判断したくはないし、そもそも……もっと大事な事が今の話には欠けている。
ルイさんでも気づかない事だったが、彼女……ハーセルフは俺と同じだったようで、何かを言いたそうに俺の目をまっすぐ見据えていた。
「………すみませんルイさん。ルイさんにはとてもお世話になっているし、そのことに対して恩を報いたいと思っております。だけど………今はまだ話せません。俺もモンスターが殲滅されることが正しいとも思ってません。だからルイさんが言っていた計画中止について、俺なりに何かできることはないか探してみます。………すみません、俺にはこれしかできそうにないです」
「…………ヒナタらしい答えで安心した。わかった。君が反乱分子に回っているならと思い、説得しようと思ったがどうやらその心配もなさそうだ。………君は弱い。無茶だけはするな」
「はい。ありがとうございます……。 また何かわかればお伝えしますね」
そうしてルイさんとの話し合いは終わり、屋敷を出て俺は反省してみんなから少し離れた場所で独りごちていた。当初似たもの同士だと感じた、ヴェルデとルイさんはお互い最悪な印象のまま終わり、浅はかな仲良し計画は完全に失敗してしまった。そもそもなんで俺はヴェルデがなぜこの街に来たのかを忘れていたのか。それさえ覚えていればルイさんと会わせようだなんて思いもしなかったのに……。
それにモンスター殲滅計画さえどこかのタイミングで知っていたら、ヴェルデはヴェルデで疑われることもなかったのだろう。そう考えると俺のやったことはただ二人を苦しめるだけで終わった気がして、どんどん気が重くなっていた。
そんな時。
「ねーねーヒナタお兄ちゃん……」
「ん……? そうしたんだハーセルフ? なんか元気ないな?」
珍しく元気がない様子で俺に話しかけるハーセルフに前を歩いていたエイナも心配そうに見ていた。
「えっとね……さっきのお話なんだけどね……。あれってやっぱりヴェルデお兄ちゃんのこと言ってたの??」
「そうだなぁ……ハーセルフはどう思ったんだ? やっぱりヴェルデのことだと思った?」
答えをいうのは簡単だが、おそらく彼女はそれを望んでいない。だけど、ここでとぼけるのも何か違うと思った俺は、彼女自身どう思っているのか、確認の意味も込めて問うと、彼女は先ほどよりもより暗い顔で悲しげに俺の手を握り答える。
「ボクは……ボクは思いたくなかったけど、そうなのかなって……考えちゃったんだ」
そう小さく呟くように話すハーセルフは今にも泣き出しそうな顔で、握る手に力をこめて精一杯感情を抑えていた。
………小さい子を前にやはり話をするべきではなかった。
いつもは明るく前向きなハーセルフが、人を疑ったことにこんなにもショックを覚えてしまうだなんて、思いもしなかった。………もっと俺が気遣いできていれば、こんなことにはならなかったのに。
「………ッチ!! あんにゃろー……待ってろハーセルフ!! 俺が今すぐにでもあいつの口から吐かせてやるッ!!」
彼女の普段見せない姿に、仲間思いのエイナが耐えきれず、宿に向けて呻き声をあげるが、それを止めたのはウェダルフでもなく俺でもなく、ハーセルフの流した涙だった。
「……てよ…………やめてよリーダーァぁぁ!! ボク、ボクそんなの望んでないよぉぉぉ!! ボクは信じたいの!! ヴェルデお兄ちゃんだってきっと、本当はそんなの望んでないって……!! だって、だってお兄ちゃんくれたんだよ………これ、これをオウセにって!! まだ近づけないけどお詫びにってぇぇェェェエエンン!!」
声をあげ、顔を大きく歪ませて泣くハーセルフの姿には、先ほどまで憤っていたエイナも虚を突かれたようで、普段はかっこいいエイナが、俺たちには絶対に見せないであろう、お姉さんモードでハーセルフをあやしていた。
「ごめん、ごめんなハーセルフ。そうだよな。お前は人一倍人が好きで、人一倍モンスターが大好きなんだもんな……。ごめんな、辛かったよな………」
そう言ってハーセルフを抱きしめ、背中をゆっくり撫でるエイナの姿に感動しつつも、人目も憚らず泣いたせいか周りの目が痛い。このままでは悪目立ちすると、エイナに耳打ちすると、本意ではないとエイナもハーセルフを連れ出し、一旦街の外で落ち着かせることとなった。
最初俺たちも一緒に街の外へ出て行ったが、それも邪魔ということでエイナとハーセルフ、そして彼女を心配したオウセの三人だけとなり、俺とウェダルフは当初の目的であった手紙を書くため宿へと戻ることとなった。
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