150話森の中へ
当初の予定では村で少し休息をしてから、次の村へ向かうはずだったが、予想外の歓迎に休むことを断念した俺たちは、村から少し離れた場所にあった小川で足を休めていた。
「まだ昼前だっていうのに……なんだか疲れたな」
独り言のように呟いた言葉だったが、それはウェダルフも同じだったようで、大欠伸をしながら俺の言葉に深く頷いていた。
「それにしても、なんだか異様な歓迎だったわね。それとも魔属に依頼するくらいだから、むしろ普通なのかしら?」
「そうだな……それは俺もちょっと不思議に思ったけど、今の現状は俺たちが思う以上に厳しいのかもしれないな」
「うーーーん……もう少し休んだら次の村へ急がなきゃだね。こうしている間にも苦しんでいる人がいるかもだし!」
お互い感じたことを共有しつつも、何かあれば即座に対応できるよう、再度地図確認を終えた俺たちは、休憩もほどほどにここから更に東にある村へ、途中休みを挟みつつも、三時間ほどかけて辿り着く。
そんな村は先ほどよりも様相がひどく、村人は誰もが疲れた様子で、雪が薄く積もっている畑の雪かきや耕耘を行っていた。
「おい!! やっと魔属が来たぞ!! みんな喜べ!!」
俺達に気づいた村人の誰かがそう大声で告げるとみな仕事も忘れ、歓喜の声を上げながら俺達へ向かってくる。
「おぉぉ!! ギルドから派遣された方々ですか!? やっと、やっと俺たちの村にも来てくださったんですね!!!」
「あぁ! これでやっと眠れるんだ!!」
「もう来てくれないかと思っていたわ……!!」
先ほどの村以上の歓迎と盛り上がりに、気圧されてしまうがそうはいっていられない。ひとまずは依頼主を探さねば。
「あ、えぇ……っと、依頼があったので来たのですが……依頼主はどなたになりますか?」
「おぉぉ……わしじゃよ。して依頼品はどちらに?」
村人が喜び勇んでいる中、1人だけ冷静な依頼主は自身を村長だと名乗った。
「あ、こちらになります…………? あの、どうされましたか?」
「………いあ、あなた達は………もしかして新しくギルドに入ったばかりなのかと思いましての……」
「あ、実はそうなんですが……何か問題でもありましたか?」
新人も何も、依頼主であるこの人はランクF向けに依頼を出したはずなのに、なぜこんな質問をと疑問に思うが、そこに触れることはせずに、依頼の品であるこれまた日常的に使われることが多い薬を渡すが顔が浮かない様子だった。
何かを言いたそうな様子で口を開けたり、閉じたりを数回行うが、それも諦めたように後ろで控えていた村人達に、依頼品を渡すと同時に何やら一言、二言告げると、村長の言葉を聞いた村人達の落胆が遠くにいた俺達にまで伝わるほどひどく、中には俺たちを睨みつけながら、先ほどまでやっていた仕事に戻っていくのを見て、俺たちはますます違和感を深めていた。
「村人が不躾な態度をして申し訳ありません。ですが……今日は申し訳ありませんが、すぐ出ていかれるのが賢明かと思います」
「………わかりました。では依頼完了のサインをお願いします」
「えぇ……」
力なく頷く村長になにがあったのか、なにが望みなのかと問い詰めたくなる気持ちを抑え、粛々とその場をやり過ごす。
そうしてサインが終わると、村長の言う通り村人の目に触れないよう村を急ぎでていくが、そんな俺たちの背中を物悲しげに村人達が見送っていたのだった。
**********************
「………このクエストには何かがある。いや、今回受けたクエストだけじゃない。おそらくギルド内には俺達が知らないルールかなにかが存在してる気がする」
先ほどの村から休むことなく歩くこと30分ほどして、休む場所を見つけ出した俺たちは昼ごはんを兼ねて見晴らしのいい場所で休息を取っていた。
「そうね、先ほどの村人の反応……あれはいくらなんでも異常だったわ。それに依頼主である村長さんが私たちのランクを知らないってことあるのかしら?」
「そうだな……ランクに関してはギルドの受付が勝手に振り分けてるから、で知らなくても納得できるけど、それ以上に気になったのはなぜ俺達が新人だってわかったのか……だな」
「それは単純に他の魔属に比べて年齢が若いからとかじゃないかなー? 特に僕みたいなエルフがいるってなると怪しさが増すとか?」
年齢……言われてみれば年齢だけで物事を判断する人にとっては、全体年齢が若いとそれだけ新人感が増すのはある。
だが本当にそれだけだろうか?
気がかりなのは村長だけごく冷静で、他の村人達はそれに気づく、いや気にも留めていない様子だった。
「何はともあれ次の村で最後よ。最後だから少し遠くはなるかもしれないけれど、今のペースであれば夕方までには十分間に合うし、気にせずゆっくり向かいましょう」
「………そうだな、気にしたって解決しないし、今からモンスターも動き出す時間に差し迫るからみんな気を抜かずに行こう!」
お互いモヤモヤしたものを抱えつつも、そうは言っていられない険しい道のりを歩くためか、次第に集中力も途切れ途切れになっていた。
そんな頃。かれこれ二つ目の村から歩いて三時間経ち、いよいよ村の手前にある森に差し迫ろうとした時、ある異様な臭気に気がついた。
「……みんな気づいたか?」
「……うん。すごい、獣臭い」
「これは……ひどい匂いね」
先ほどまでは感じなかった匂いが森の中からしてくるなどとは、予想だにしなかった。幸いにも森に入る手前で気付けたものの、ここで一つの問題点に突き当たった。
先ほどまで確認していた地図上では、この森の先にある村へ行くには森の中を突き抜けるのが早く、今更迂回するルートだと、どう考えても夜になるのは目に見えていた。
「どうする? 危険とわかりつつ森の中を抜けるか、それとも大きく迂回するか……正直どっちも危ないし、俺の一存では決められない。ここはよく考えてから進もう」
「………正直僕は夜をこの森の近くで過ごす方が危ないと思ってる。確かにこの森の臭気は異常だし、もし襲われたらって考えると怖いけど、それでも夜の不利を考えたら……って思うな」
「私はこの森を抜けるのに反対だわ。だって今の私たちには攻撃の手段があまりにないもの。確かにヒナタは弓と短刀、それに卵爆弾があるかもしれないけど……実戦向きじゃないわ。それならまだ少しでも安全な場所を今から探すほうが建設的じゃないかしら?」
まさか二人の意見が真っ向から割れるとは思わなかった。大抵こういう場合は俺が二人に反対されるばかりだったので、ここに来て初めての展開に、俺自身どうするべきか考えあぐねてしまう。
『………今、この森に住む精霊から話を聞いたのだけど、この森をまっすぐ一時間ほど歩けばすぐ村があるそうよ。その村まで案内もしてくれるそうだけど……どうかしら?』
いつの間にやら精霊に話を聞いていたのか、ファンテーヌさんと一緒にやんちゃそうな少女の精霊を引き連れそう俺達に話すと、時間に納得したのか、それならとキャルヴァンも少し不安そうにしながらも森を抜けることに承諾し、俺たちは最大の警戒をしつつ、森の中へ入ることとなった。
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