147、デートとローズ家の能力
サンチャゴさんと別れたあとのこと。
明日にも動き出すべく、Fランクでも他ランク同様の依頼者が出しているクエストを発見した俺達は、同ルート沿いで受けれそうなものがないか、入念に地図を確認しこのクエスト以外にも2つ、計3つの依頼を一緒に受注した夜のことだった。
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「今日もご飯おいしかったねー!」
「ん、ああ……そうだな。あそこも美味しかったな」
ここ最近の食料不足を感じさせない、フェブル国の飲食店に今更ながら疑問を抱きつつ、今日食べた魚料理も鮮度が良くまるでとれたてのようだった。
……そう、海が近くに全然ないのに、だ。
「魔属ってつくづく不思議だよな……」
「そうねぇ、同じシュンコウ大陸なのに他には見られない工芸品や料理……そう、特に料理はシュンコウ大陸どころか西大陸にはない調味料があるのよ」
俺の言葉に、元々東大陸に住んでいたキャルヴァンが反応を示す。
「あー……なんかそういうところにも秘密というか、機密が隠されてそうだよな」
「………領主様に会ったらその謎も解けるのかしら?」
「………………僕、ご飯食べたら眠くなってきちゃった」
珍しく不機嫌そうに俺の裾を引っ張り、早く宿に帰りたいアピールをしてきたので、俺も何も言わずウェダルフをおんぶする形で抱き上げ、宿に着く道のりまでキャルヴァンとたわいもない会話を宿に着くまでするのだった。
そうして、終わった初めてのギルド会館だったが、みんなも慣れないことに疲れていたのか、キャルヴァンもファンテーヌさんも少し眠たそうにしていた。
「よいしょっと……。今日はごめんなウェダルフ。頑張ったな」
「うぅ……うにゃ………」
「2人とも、ウェダルフのこと頼むな。俺はちょっと……フルルージュと話したいことがあるんだ」
「えぇ、わかったわ。………せっかくだし、露店を見ながらしっかりお話ししたらいいと思うわ」
キャルヴァンの予想外の提案に、驚きはしつつも俺自身夜の暗闇で暗い話をするのは無粋かと思い、そうするよと口を開こうとした時だった。
優しい光と共に現れ出でたフルルージュが、いつもの姿とは違いまるで人間の女の子のような格好で、足も鉤爪ではなくスラッとした綺麗な足に可愛いヒールを履いていた。
例えるなら、その姿はまるで日本の女の子のようだった。
「な……服も変幻自在とか……なんでもありだな」
俺の素朴な一言に、少しムッとした表情を浮かべるフルルージュを見てか、彼女が何かを言う前にキャルヴァンが嗜めるような口調で一言。
「ヒナタ、真っ先に言うべき言葉は気をつけないといけないわ。特に普段と違う女性の前では特に、ね?」
「あ、悪い。いつもより……あ、いや、なんていうかその、意外な一面で驚いてつい、というかいつも……和服だったから、そんな可愛い格好も似合うんだなって」
「ほ、本当ですか………? 流石にいつもの和服では目立つのでこの格好になったのですが、似合うと言ってくださるなんて思いもよりませんでした。………素直に嬉しいです」
素直に女性を褒めたことがなかったからか、思った以上にしどろもどろになってしまったが、そんな俺の言葉にもそれは嬉しそうにしていた。
その様子はいつものツンケンした顔からは想像できないくらい、花が咲いたかのような可愛らしい……本当に可愛い笑顔で、いつもと違うフルルージュの様子になぜか今更ながら俺も恥ずかしくなってしまう。
「さぁさぁ、ここで長々お話ししてたらウェダちゃんを起こしちゃうわ。ほら、ヒナタ。女性をしっかりエスコートしてあげないと!」
なんだかお見合いみたいな雰囲気になってしまったが、ここは人生の経験者たるキャルヴァンの言う通り、フルルージュが歩きやすいよう手を差し伸べる。
「…………その、慣れないヒールなので……良かったら腕を貸してくれませんか?」
「うぇ??! ううううう腕って?!! まさか腕組み?!」
予想外の提案に思った以上に取り乱してしまったが、そんな様子を側から見ていたキャルヴァンに、静かにするようにと再度嗜められ、腕の一本や二本貸してあげなさいと急かされた俺達は、あれよあれよとまるで恋人かのような密着度で、外へ向かうことになった。
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「………………」
「………」
き、気まずい! なんだろう?! めっちゃくちゃ気まずいし、気恥ずかしさも半端ないんだけど!!? 今の俺達って何?! どう見られてるの?!!!
「……あー色々店があるんだし……せっかくなら何があるのか、見ながら話しようか? フルルージュって何が好きなんだ?」
「そうですね……あ! あそこが気になります! 見に行きませんか?」
数店前にある花屋を指差すフルルージュに、俺も彼女が好きなものはあれなのだと理解し、人を避けつつ目当ての店にたどり着くと、これまた珍しく少しテンションを上げた彼女を横目に、俺は暫しなんでもない時間を楽しんだ。
「やはり春が来てないためか花の種類が少ないですね……。でもここのお店は珍しい加工の花があります! この技術は誰にでもできるわけではなく、花に対して相当な知識がなければこんなに鮮やかに色を残すことはできないんです! ………綺麗ですね」
「……確かに、綺麗だな………」
神秘性を感じさせるその微笑みは、はじめて出会った時とは違い、慈愛と優しさを湛えており、何に向けていったのかも分からないまま、言葉に出してしまった。
「なぁ、フルルージュ。そろそろ教えてほしい。以前ルイさんに言っていた俺の記憶を収奪って……どういう意味なんだ?」
「……そのままの意味です。ローズに連なる一族には程度はあれど吸血した者の記憶を奪う、もしくは弄ることができる能力があるんです。だからあなたの血を吸わせるわけにはいきませんでした。………特にあなたの記憶だけは、奪わせるわけにはいかないんです」
「ローズ家ってことは……勿論領主様にもその力があるってことだよな? じゃあ、もしかしてアルグが俺たちのことを覚えていなかったのって、その領主様に血を吸われた結果ってことなのか?!」
本当は気づいていた。
だけど同時に違和感も感じていた。ただの記憶がないだけで性格まで変わってしまうものなんだろうか、と。だから俺は単なる記憶喪失ではないと思いたかったんだ。
だけど真実はもっと酷かった。記憶が奪われたということは返してもらえるのか? いや吸血時に記憶を奪うということは食事と同じということだ。いずれは消化されてしまうなんてことだって……。
「記憶の収奪においては私は門外漢です。そもそもその能力自体秘匿とされているのです。おそらくルイに聞いたとしても答えてくれないでしょう」
「つまり……結局は黒幕に直接聞くしかないんだな」
「…………次は何を見ましょうか? あれなどはいかがですか? いろんなものを売っている雑貨屋のようですよ」
「いいな、じゃああそこに行こう」
重い空気を破るように、先ほどまで眺めていた花から顔をあげ、再びエスコートを求めてきたフルルージュに俺もごく自然な流れで手を差し伸べる。
最初こそ恥ずかしかった腕組も、会話をしたおかげで緊張はほぐれ少しだけ慣れることができた。そうして目的地である雑貨屋を目指しつつも、そのほか気になるお店へと寄り道しながら歩くと、とある露店に出ていた精霊の子供という絵本が目に入ってきた。
「……さっき聞きそびれたことがもう一つあるんだけど、憑霊術士ってなんだ? キャルヴァンと俺みたいな関係性って俺たち以外にもいっぱいあるのか?」
「ギルドの受付の方が言っていた憑霊術士と召精霊術士ですか……。そもそもそれぞれについてを軽く知らないと、比率を聞いたところでわかりにくいかと思いますので、改めて私から説明します」
雑貨屋までは後少し。
それまでに終わる話では到底ないと悟った俺は、腕の暖かさを意識しないよう目線を前に向けつつ、これまた長くなりそうな話を聞き逃さないよう頭を必死に働かせるのであった。
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