146話知名度と同じ依頼
ギルド会館の真向かいにある、他の建物と比べても少し古さを感じさせる外装は、昔ながらといった雰囲気が漂っており、なんでか懐かしい。
サンチャゴさんの後をついて中に入ると、中は意外と賑わっており、少し騒がしくも落ち着いた空気感と内装も相まって、みんな楽しそうに話していた。
そんな中を奥までズイズイ進むと、6人座れるほどの広さがあるテーブルが3つほどあり、そこに各々腰をかけ昼食を注文すると、わずか数分で注文した料理が届けられた。
「ひとまず食べてから話をしようか。ここのは安いのに美味しいと評判の店なんだ! さぁ食べよう!」
「いただきまーす」
「わーい! お昼ご飯だー!!」
ここの世界には勿論いただきますだなんて言葉はないが、こればかりは日本人としての習性なのだろう。いつものように、本当に何気なく言った言葉だったが、サンチャゴさんにはよほど不思議に見えたのだろう、食べる手を止めて俺を見てきた。
「いただきます? なんだいそれ?」
「あー……俺の国っていうか、村の風習みたいなもんですね。こう食べ物って命をいただく行為なので、そのことに感謝しながら食べましょうねっていう感じの……挨拶ですかね?」
国単位だと誤魔化させないと思ったので、咄嗟に村単位の規模にして誤魔化したが、それでもそんな村あったっけなーと引っ掛かった様子のサンチャゴさんに、いやーとか、乾いた笑いしか浮かべるしかできなかった。
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最初気まずかった昼食会も、サンチャゴさんのコミュ力の高さによって、最終的には皆んな楽しみながら食べ終わり、食後のティータイムを楽しんでいた。
「さて、楽しい昼食も済んだことだし、本題にうつろうか。僕は先ほど先輩としてのアドバイスがあると、ヒナタくんに告げたのはなんでもない……今の現状では到底Sランクは難しい理由を伝えたかったのと、それでも目指すなら受けるべきクエストがある、というギルド運営では教えてもらえないだろうことを話したかったんだ」
「今の現状……ってもしかして魔物討伐してないって話と関係してますか?」
「ほぉ、ヒナタくんはすでに知っていたのかい。……そうだね、それもある。だけど1番はそこじゃない。ギルドは知らない者からしたらだいぶ不利に働く側面もある。……それが知名度だ」
まさかの知名度が理由で、Sランクになれないと言われるとは思わず、豆鉄砲を喰らったかのような微妙な空気が刹那流れ、その空気にすぐさまサンチャゴさんも慌てたかのように補足する。
「いや、知名度って君たちが考えているような人気とかではないんだ。どちらかというと伝手、と言った方がわかりやすいかな? 知名度があれば掲示板のような形ではなく、指名された形で依頼が届くようになる。そのために手っ取り早かったのが討伐依頼だったんだ」
「なるほど………腕っぷしの強さは分かりやすい。だから指名されやすいけれど、今はそれが受けられないので、討伐以外で知名度上げないといけない……つまりこういうことでしょうか?」
俺の答えに深く頷き、その通りだと返すサンチャゴさんは、穏やかでまるで先生のようだ。いや、もしかしたら本当に先生なのかもしれない。話し方にくどさがなく、聞きやすい会話のスピードは、いつも人に聞かせているかのように流暢だ。
「だけどここで諦めるのはまだ早いさ。さっきも言った通り、ギルドは知らない者には不利に働くが、知ることで強さにつながる。Fランクは皆誰しもが通る道だが、そこからの道筋は選ぶクエストによって様々異なっていく。それを決めるのは君たちであり、そして………依頼者だよ」
質も評価も、そして知名度も全ての決定権を握っている依頼者というのは、地球でも通じる話だ。結局はお客様次第なのだ。
「依頼者というはある程度固定化されている。中にはSランク級の依頼をする依頼者が、ランクを落とした状態で掲示板に晒される事もあるんだ。……ここまで言えばヒナタくん達も察すると思うけど、つまりその依頼者の名前をまずは知ること。これが1番大事なんだよ」
「き………貴重な情報をありがとうございます!!! で、でもいいんですか? こんな企業秘密じみた情報を、こんな得体の知れない人間なんかに渡しちゃって……」
自分でいうのもなんだが、相当怪しい集団に見えるだろう俺達に、なぜ会って間もないのに教える気になったんだろうか? 裏がある、とまでは言わないが正直親切心だけでもないように思えた。
「自分で言っちゃうんだから世話ないよ、ヒナタくん。でも、そうだな………信じる根拠じゃないけれど、今日の君たちの洗礼を見て……信じたくなった。魔属以外にも、どんな種属にだって可能性があるって思わせてくれた君たちを」
「………? それってどういう意
「さ! もういい加減クエストを探さないと夜になっちゃうよ! あ、依頼者の名前は自分達で見つけて見てね! これは僕からの宿題さ。………君達には本当に期待しているんだ、これからも応援してるよ」
聞かれたくなかったのだろう、わざと俺の言葉を遮って話を切り上げたサンチャゴさんは、今日はお祝いだからと言って昼食までも奢ってくれた。だからか、何から何まで優しいサンチャゴさんの事を俺も信じたくなった。
「それじゃあギルド頑張ってねー!! また会おう!」
「本当にありがとうございました!! 今度は俺に奢らせて下さい!」
「サンチャゴさんありがとー! 元気でねー!」
「またお会いしましょう」
人の波で消えていくサンチャゴさんを見送った俺達は、先ほどの情報を元にクエスト依頼を受けるべく、ギルド会館に戻ると、先ほどより増えた人に圧倒さながらも、それぞれまだ受けることができないB、C、D、E、Fランクに張り出されている全ての依頼に目を通すこと二時間半。
休憩を挟みつつ情報の統制を図ると、とある法則があることに気がついた。
「このBランクのクエストにも、ここのFランクにも同じ依頼者で同じ依頼内容が張り出されているわ。しかもこの依頼者、お金持ちなのか、これだけの報酬のものを同じBランクだけでも3、4個出してて、依頼内容も少しだけ変えて張り出しているみたいなのよ」
「あー言われて見たらこの依頼者、Dランクにも同じ内容で依頼出してるっぽいな。というより同じ依頼者でランク違いの同じ依頼って結構あるっぽいな……どこでランク付けされてんだ?」
「んー………んん? ねぇねぇヒナタにぃ、同じ場所へ、同じ品物を運搬に見えるけど、よく見れば補足でそれぞれルート指定が小さく書いてあって、それの違いっぽい気がするー!」
言われてよく見てみれば、確かにウェダルフのいう通りほぼ同じ内容に見えた依頼も付記としてルート指定があり、その難易度の違いに見える。
Dランクに至ってはルート違いでの同じ依頼が3個もあるものもあった。ただ不自然なのは……
「何かしら……ルートの違いで変わる報酬と危険度?」
これにはキャルヴァンも疑問に感じたようで、俺と目を見合わせギルド受付に目をやるが、おそらく聞いた所で答えてはもらえないだろう。
「兎にも角にも、受けるべき依頼者は見つかった。あとは明日動くべく早速クエストを受注してこよう」
「えぇ、そうね。私たちには一刻の猶予もないもの」
——俺達の胸に残った小さな疑問は、このあと大きな問題となって立ち塞がり、思いもよらない形となって、セズへと繋がっていくのだった——
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