145話質と評価
「つまり、表で受け付けたクエストが、チスイさんやドウジさん達の采配によってF〜Bランクに振り分けられていくんですね。それを後ろにある、ランク別に分けられた掲示板で各々できそうなクエストを探す……と。ここまで分かりましたが、どうしたらランクが上がるんでしょうか?」
A〜Sランクが省かれている理由はさておくとして、報酬は荷物運搬等ならサインを、魔物討伐なら指定された部分の一部を持ち帰ることによって得られるらしい。だがこれでは肝心のランクが上がる方法がわからないままだ。
「あー……ランク上げってことは皆さんSランクを目指しているとかですかぁ? ははッ……アンタら結構メチャクチャ言うね」
これに反応を示したのは意外にも気弱そうに見えたドウジさんで、何がおかしいのかケラケラと一笑いしたのち、急に俺の目を覗き込んで何かを探るかの様にじーっと見つけてきた。
「ハハっ、こいつぁマジで言ってんのかぁ……。なるほど、なるほど……その意気込みが如何なものか、そいつぁみものだなぁ」
何が楽しいのか、軽薄な薄笑いを浮かべたまま食えない表情で俺を見るドウジさんに、俺も引き攣った笑いを浮かべ、微妙な空気が流れる。
……なんかこの人、苦手かも。
「ドウジのことはほっといてください。こいつは何考えているのか分からないのが常なので。気にしたら負けです。………で、ランクの上げ方ですが、これについては明確に説明することが難しいですね」
「ええぇー!! なんでぇ? いっぱいクエスト受けて、いっぱい頑張ったらなれるんじゃないの?」
すごい子供らしい言い分だが、ウェダルフの言い分は最もだと思う。そうでなければ如何にしてランクを上げるというのか?
「事はそう簡単ではないと言う事です。まずランクの概念を理解しなければランクを上げることすら叶わないでしょう」
「ランクの……概念? えぇっとそれはどういう意味かしら? F〜Sランクというのは単なる階級じゃないという事かしら?」
「えぇ、その通りです。ランクは階級的な意味合いもありますが、それだけではなく、ギルド会員の質も問われるものです。どれだけクエストを受け、報酬を受け取れたとしても、質が悪ければ意味がありません。ギルド会員の質が高く、そして成功が多ければ多いほど、ランクは上がっていきます」
分かりますかと小首を傾げるチスイさんに、俺達も暫く各々で考える。
ルイさんは信用だと言った、そしてチスイさんは質が大切であり、クエストの成功だけでは上がらないとも。
つまり、ランクを上げる際に求められるのは結果だけではなく、その過程やクエストの依頼主の評価も大いに影響される……つまりそう言う事なのだろうか?
例えばの話だが、クエスト内容が運搬であったとして、それをただ依頼された場所に運ぶだけではいけないのだ。そこには品質も評価の対象になり得る。どれだけ早く運べたとしても、運ぶ対象が雑に扱われていたら意味がないのだ。
これは逆のことも言える。スピードも上げつつ、品質も維持出来れば評価は自ずと上がるだろう。
「依頼者の評価ですが、段階的な評価のされ方をする、と考えていいのでしょうか?」
俺の質問に、ドウジさんはほぉ……と感心したかのように、眉を少しあげ、また薄ら笑いを浮かべる。
「………それは言えません。が、大きく間違った解釈でもない、とだけお伝えしておきます。他に何か質問はありませんか? なければ早速クエストを受けることも可能ですが……」
「みんな、何か聞いておきたいこととかあるか?」
「んーん!! 僕は今の説明で頭が一杯一杯だからないよー! キャルヴァンさんはー?」
「……一つだけ。最短でSランクになった人物の、その期間を聞いてもよろしいでしょうか?」
「ふむ………まぁそれなら規定に違反しないでしょう。そうですね………過去英雄と言われた人物にはなりますが、その方がおよそ1ヶ月だと聞き及んでおります。これは他のSランク者に比べて3年、長くて数十年単位でなる者と比べても、圧倒的な差と言えるでしょう」
「す、数十年……ありがとうございます」
英雄ということはラルコとかだろうか……? それにしても圧倒的な差に、俺達全員開いた口が塞がらないまま、アルグに辿り着くための道がどれほど困難かを思い知っていた。
「それで……? 質問が以上ならクエストをちゃっちゃっと受けて、キビキビ働いてください。これ以上ここに並ばれては他会員にとっても迷惑です」
「うっはーー! 相変わらずチィちゃんきびしぃー! もう少し絶望させてあげればぁー? そうそうこんな表情見えないよ? プークスクス!!」
「ドウジうざい。お前も遊んでないでさっさと働いて、さっさとそこら辺でのたれ死んでろ。目障り」
「うわぁーこぁいんだー」
呆然とする俺たちの目の前で繰り広げられる、会話の殴り合いに恐ろしくなったウェダルフが、おずおずと俺の服の裾を引っ張り、俺もおとなしくFランクとかかれた掲示板まで行くことに。
「さ、さてと!! 気分を入れ替えて早速クエスト見ていこう!! ウェダルフもキャルヴァンもじゃんじゃんいいやつ見つけてくれ!」
「おー……頑張るぅ………」
さっきのやり取りなのか、それとも長い道のりを思ってなのかは分からないが、珍しくしょげた様子のウェダルフにキャルヴァンもいつもより明るく振る舞う姿を横目にクエストを眺めていた。
ふと視界に影が落ち、影の原因となったものを辿り目線を上げると、そこにはどこかで見かけたことがある人物がなぜだか嬉しそうに見下ろしていた。
「あ……、ええっと……こんにちは?」
「こんにちは。まさかこんなところで再会するだなんて思いもよらなかったです! しかも先ほどの見事な洗礼……。以前お会いした時は“純粋な人間”だとお見受けしたのに……まさかの憑霊術士とは! いえ、人は見かけによりませんね〜」
青灰色の短い髪と、キラキラと輝く羽飾り……あぁ! 思い出した!! いつぞや迷子になった時にお世話になった、確か名前は……
「サンチャゴさん!! あの時は大変お世話になり……
「いいよ、お礼なんて!! あの時も言ったけどただのお節介だから気にしないで! それよりもすごいね、君達!! あの伝説の! 英雄サラ様の推薦というだけでもギルド中大騒ぎだったのに、まさかあの気難しいで有名なルイ様に決闘したばかりか、推薦までもらってくるだなんて!! とんだ大物だね!」
「あー……あははは。偶然が偶然を呼んだというか、運がよかたのかなぁーなんて……す、すみません!! 生意気言って本当にすみません!」
居た堪れなさに思わず謝ってしまったが、そんな俺の様子にも動じることなく、笑顔で受け流すサンチャゴさんは先ほどまで見ていたクエストに目をやり、少し考えた後俺に目をむけよく分からないことを質問する。
「あー、ヒナタ君はギルドに入って何がしたいと思っているのかな? 良かったら僕にも教えてくれないかい? もしかしたら何かしら役立つ事も言えるだろうし、どうだろう?」
少しだけ気まずそうに聞くサンチャゴさんに嘘は見えないと感じ、アルグのことはボカしつつも、領主様に会いたいが故にランクを上げたいことを告げると、何かに納得したのか、うんうんと頷きまっすぐ俺の目を見据える。
その瞳の奥には、優しさの中にも厳しさがあり、俺の思わず息を呑み言葉を待つ。
「かなり無謀なことをしている自覚はありますか? これは説教とかではないので、今のあなたの気持ちをそのまま伝えてください」
「無謀は……散々言われてきましたし、理解もしています。………俺も実際無茶を言っているのは承知の上なんです。それでも、それでもどうしても会わなければいけない理由があるんです!」
俺の、心からの言葉に優しい笑みを浮かべると意外な一言を俺たちに告げるのだった。
「あなた達の覚悟はわかりました。では……ギルドの先輩として、僕からあなた達にアドバイスがあります。ただ……ここではあれですので、少し場所を変えましょう。ついて来て下さい」
サンチャゴさんの言葉にさっきから気にしていた2人もクエストから目を離し、サンチャゴさんと軽い自己紹介を交わし、ギルド会館を出たすぐのカフェへと昼食がてら向かうのだった。
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