143話いざ、ギルド会館へ

 「とはいえ、だ。それでもズブの素人が扱うとなると自陣に被害を出してしまう可能性は十分ある。………はて、あれはどこにあったかのぉ」


 サラさんはそんな事を言いつつ、隣の倉庫となっている部屋でなにやら物品を探っていた。


 「はてのぉ……大昔に作ったきり仕舞い込んでいたから、どこに置いたか…………おぉ! あったあった」


 サラさんの手にはゴーグルのようなものが2つ握られていた。それはサラさんのいうとおり、だいぶ大昔のものだったようで、ガラス部分は埃やらで曇っており、頭部で結ぶための紐はボロボロになっていた。


 「ふむ……ちょい手入れすればなに、問題なく使えるだろうさね。ほれ、これさえあればヒナタとウェダ坊が卵爆弾の被害を被らなくて済むだろう」


 「ありがとうございます、サラさん! こんな便利なものここにもあったりしたんですね!」


 「ここにもって……これでも骨董屋だよ。ガラスなんて今の時代じゃどこもあるだろう?」


 「そうだよ、ヒナタにぃ! 教会の飾りガラス見た事ないの?」


 ウェダルフに言われ、そういえばそんなものもあったなと納得し、他にもガラス製のものがあったなと改めて鈍い自分に、自分自身呆れてしまう。


 「まぁ、いうてもこれの手入れには手がかかる。また明日には使えるよう調整しておいておこうさね。あとは卵爆弾の作り型だが、この道具で穴あけて中の具を出した後、シビレ草やらネムリ草やらの粉末を入れればいい。ただこの二つは自陣の被害が大きいから、オススメは調味料でも使う、マグマ唐が程よく戦闘不能にできていいさね」


 「マ、マグマ唐……それは効果抜群そうですね」


 確かに万が一シビレソウや、ネムリソウを吸い込んだ時よりマシそうだけど、それでも聞くだけで涎が出そうな激辛物を使えとはサラさん以外鬼すぎないか………?


 「ただ使う卵はコッコリーじゃなく、二回りほど小さいウーズの卵も用意したほうがいいさね。コッコリーの卵は室内で使うにはいささか向かない場面もあるからのぉ」


 「分かりました。前回といい、今回も力を貸していただきありがとうございます! また何かあったらこちらに訪ねてもいいですか?」


 「もちろん、アルグのことは個人的に心配してるから、いつでも訪ねておいで」


 サラさんの優しい言葉に、俺たち3人はしっかりとお礼を告げ、店を出ようとした時だった。

 それまでずっと黙っていたキャルヴァンが、思わぬことを俺にそっと告げてきた。


 『ヒナタ……。この店にはいないようだけど入り口出てすぐまで尾けてた魔属がいたの。ここに入る直前で姿を消したからわからないけれど、おそらく宿までついて来るつもりよ。どうする?』


 「ッッ…………店内にはいない。このまま気づかないふりして今日の夕飯を買うふりをしよう。その時にウーズの卵を買うからレシピはそれに沿ったものを買って、気づかないふりで宿に泊まる。今俺たちの能力をいられるわけにはいかないんだ」


 『分かったわ……私も引き続き姿を消しておくわね』


 ここにきて初めて付けられている事を知り、少し動揺してしまうが、それもすぐに平静を取り戻しなにをするべきかをキャルヴァンに指示し、ウェダルフにも一言見張られている事を伝え、夕飯の買い物へと店の外へ出て行く。


 「ウェダルフ、今日はオムグラタンにしないか? ウェダルフ好きだろう?」


 「わーい!!! オムグラタン、僕だーいすき!! そしたら今日頑張ったご褒美にあれも買ってー!!ね、いいでしょー?」


 「あぁ、ウェダルフが好きなアレなー。じゃあそれも買いに大通りへ行こう。買い物中はぐれぐれもはぐれないようにな」


 「もー、ヒナタにぃじゃないんだからはぐれたりしないよー!!!」



 ギルド関係の内容に触れようとしないウェダルフに俺も合わせて、至って普段通りを装い、買い物を済ませ、そしてそのまま宿へと戻ると先程まで買ったものをテーブルに置き、すぐ近くにある窓の外を見る。


 「………外で見張ってるみたいだ。宿の外で見張りが外れたからみんな安心してほしい」


 『洗礼はもう始まっている、ということかしら? まさかルイさんのお屋敷をですぐ尾けられるなんて……明日はもっと気をつけないといけないわね』


 キャルヴァンの言う通り、もう知られているだなんて思いもよらなかった。ただそれならそれで、俺達も考えがある。


 「怯えさせて済まないウェダルフ。ただ今からちょっと……ファンテーヌさんにお願いがあるんですが、力を貸していただいてもいいでしょうか?」


 『もちろんよ、ヒナタ。私はなにをすればいいのでしょうか?』


 「ファンテーヌさんには今からギルド会館へ向かっていただき、あなたの姿が見えるものがいるのかと、後会館の配置をざっとでいいので見てきてもらえませんか?」


 俺がそこまで言うと、ファンテーヌさんはすぐさまその場を離れ天井からスッと離れていった。


 「それとキャルヴァンにもお願いがあって、今この場で試してほしいことがあって、今実体化してないと思うが、その状態で一部だけ実体化ってできたりしないか?」


 『………手を実体化してみるわね。ちょっと集中してみるわ』


 これが出来るかどうかで、明日の作戦の完成度が変わってくる。もちろんできなくても代替案もあるので問題はないが、出来ればいくつかネタを持っておきたいのは事実だ。


 『———!!!! で、出来たみたい……!』


「おぉぉ!! じゃ、じゃあその状態で何かを持ったりとか出来そうか?」


 俺が興奮し気味にお願いすると、キャルヴァンも緊張した表情でベットにあった枕に近づきそれを掴んだ時だった——


 『!!! なぜかしら? 掴もうすると予想以上に腕力がいるみたい……あ、でも持てそうだわ』


 ……ふむ、やっぱりこれも想定通り、手だけを実体化すると必要以上に腕力がいるようで、軽いはずの枕でさえ少し手こずっていた。まぁこの原因は手だけ実体化したからだろう。


 おそらくだが、ものを持つや投げると言った行動には、手以上に腕の力が必要であるのはわかると思うが、それを実体化していないとどうなるのか?

 答えは簡単で、キャルヴァンの手には本来腕が負担するべき筋力が手でのみ支えている状態になるので、本来想定している以上の筋力が求められてしまうのだ。

 ただ、これも持つものが変われば別だ。


 「このウーズの卵はどうかな? 持ちづらいとかはあるか?」


 『……そうねぇ、枕よりましって感じね。これならなんとか投げられそうよ』


 そうこうしてる間に視察が終わったようで、再び天井から戻ってきたファンテーヌさんが俺たちにギルド会館での状況を伝え、それをもとに俺たちは夕飯を作りつつ、明日の作戦のための準備をするのだった。




 そして翌日。


 昨日ずっと窓の外で監視していた魔属を気にしないよう、いつも通りの就寝を心がけそしていつもより少し早めに宿を出た俺たちはゴーグルを受け取るためにサラさんのお店へ向かうと、そこには約束通り新品同然に手入れされたゴーグルが二つ用意されていた。


 「おはようございます、サラさん。少しの間ゴーグルお借りしますね」


 「あぁ、頑張っておゆき。何事も最初が肝要だからね」


 「はーい! 頑張っていきまーす!」


 「それでは、また後ほどお話ししに行きますね」


 サラさんからいただいたゴーグルを手にした俺達は、先に待っているであろう、2人の元へ尾行している魔属に襲われないよう気をつけつつも、急ぎその場所へ向かうのであった。

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