142話条件と爆弾

 「あー……忘れてたワ。建前上、決闘の報酬の話って言ったけれど、そうねぇ〜〜……まずは男であること! 女なんて絶対いやヨ。それから………ヒナタと仲良くて、気が合う子じゃないとダメ。あ、でもそこの坊やみたいな子はイヤ! 年齢は若くもなく、老いてもないくらいじゃナイト! 顔は……イケメンじゃなくてもいいけど、オヌ族みたいな強面は無理。優しい雰囲気の子がいいワ」


 建前という割には結構条件あるな……と思いつつも、ちょっと前までは血すら飲まないと言っていたのだ。そこから考えれば前進はしているのだろう。


 「わかりました……それ以外は何かありますか?」


 「そうね………それと………それと、毎日じゃなくてもいいワ。ヒナタが来れるタイミングでいいから、私のところにきて、進捗状況を話してほしいノ……。だめ、カシラ?」


 乙女なルイさんらしい仕草で、最後にお願いする姿はいじらしく、そんな様子に少しは心を開いてくれているのだろうと思うと俺も嬉しくなってしまう。


 「勿論、毎日は難しいかもしれませんが、夜とかでも大丈夫であれば、ぜひ立ち寄らせてください」


 「………ありがとう」


 こんな感じでまとまった話は、最後サラさんの店に寄るということで、おすすめのお茶請けを教えてもらいその流れでルイさんとはお別れとなった。


 「それではルイさん。このお礼はまた今度しますので。 デビットさんも美味しいお茶ありがとうございました!」


 「長居してすみませんでした。また伺わせていただきます」


 「ばいばーい!! お昼ご飯美味しかったよー!!」


 少し急ぎ気味に、大通り沿いにお菓子屋さんへ足を運ぶ。

 先ほどルイさんにオススメされたのは1番人気だという水羊羹のようなお菓子を手土産にサラさんの骨董屋があるところまで、裏路地は通らず、そのまま大通りから向かうこととなった。


 「明日からいよいよギルドな訳だけど、ルイさんの言ってた洗礼ってやっぱり良くない意味だよな………?」


 『そうねぇ〜ヒナタの予想通り、暴力沙汰になるんじゃないかしら………?』


 「ピャ……ぼ、暴力はイヤだよぉ〜〜〜!!!」


 大通りのため、キャルヴァンはその姿を隠し、俺たちと会話を進めるが、先ほどからしきりに辺りを気にしているようで、その返答はそぞろだった。


 「ルイさんはサラさんに聞けって言ってたけど……俺も正直あまり血が流れるやり方だと困るんだよな………。2人はなんか良い案あったりしないか?」


 『そうねぇ。相手が武力行使をしてくる以上、血を流さずというのは至極困難だと思うけれど………例えば攻撃される前にその手を封じてしまえれば、血は流さず済むかもしれないわ』


 「そうだよな、先制攻撃をこっちが取れるかで変わるよな……ウェダルフはなにかいい案あったりしないか?」


 子供とはいえ、意見を聞かないのはフェアじゃないと思い話を振ると、ウェダルフは眉を下げながらも懸命に何かないか考えているようだった。


 「うーんと、うーんとね……昨日のかくれんぼの時僕思ったんだけれど、お母さんを霧にしたお水をネムリ草とか、シビレ草とかが入ったお水に変えれば、もっと楽なのかなって思ったんだけど………それだと僕も吸っちゃうからダメだな〜って思ったの」


 「ネムリ草とシビレ草……」


 聞かなくてもわかる壊滅的なネーミングセンスに脱力しつつも、ウェダルフのアイディアは思いのほかいい線をいっていた。


 「ウェダルフ、ちなみになんだが例えばなんだが部屋全体を霧に包むんじゃなく、ごく一部だけを霧に変えることって可能か? しかもそれを思う場所へ動かしたりとかは……?」


 「うーん……? やって見たことがないから分からないけれど、お母さんのままの姿にすればできるのかなぁ?」


 なるほど……試してみないことには分からないが、ただ水を振り撒くよりかは望んだ場所に水を振り撒ける方が楽だし、自分達に及ぼす影響も抑えられるだろう。


 「ウェダルフにお願いがあるんだけど、後でどのくらい水が必要で、維持できる時間とかを確かめてくれないか? 後キャルヴァンにも聞きたいことがあるんだが……」


 そこまで言ってキャルヴァンはいつになく真剣な面持ちで、口元に人差し指を当て、後で話しましょうと呟き俺たちもその指示に従い、サラさんのお店に着くまでウェダルフとなんでもない話をして、その場をやり過ごすこととなった。


 そうしてやってきたサラさんの店は相変わらず、人を寄せ付けない雰囲気で店内にもサラさんすらいなかった。


 「すみませーん!! サラさんいらっしゃりますかー‼︎」


 「おばあちゃーん! 遊びに来たよー!」


 いや、ウェダルフ………俺達別に遊びに来たわけじゃないぞ。


 「随分遅かったじゃないかい。客もいないし、そのまま奥の部屋へおいで」


 「ではお言葉に甘えて……お邪魔します」


 「わーい! お邪魔しまーす!!」


 『…………』


 奥の部屋へ入ると、サラさんがちょうどお茶の用意をしており、俺たちが買ったお菓子がそのまま出される形となった。


 「それで? 随分挨拶が遅くなったようだが、ルイのことはちゃんとできたんだろうね? まぁ、お前さん達の顔を見れば答えは言わずともわかるが……」


 「そうですね、その節はありがとうございました。ちゃんと……かどうかはわかりませんが、なんとかなったみたいです。ちょっと想定とは違いましたが、推薦状もきちんといただけましたし」


 「そうかい。まぁ推薦状の一つも取れないようじゃ先が思いやられるさね。何はともあれ頑張ったね」


 「ありがとうございます。それで今日はそのお礼ともう一つ話がありまして……」


 「………ほぅ? ことと場合によっちゃあ知恵をかさんでもないが……なんだい?」


 俺のもう一つの話に、片眉をあげ見つめてくるサラさんに、ウェダルフも空気が変わったのがわかったのか、お菓子を食べる手をとめ真横にいる俺に顔を見る。


 わかるぞ、ウェダルフ。……怖いのはわかるが、そんな顔で見ないでくれ。


 「俺達の聞きたい事は一つです。ギルドで受けるであろう洗礼の切り抜け方。もっといえば武力行使に対抗し得る、非武力行使について何か知恵はありませんか?」


 「こりゃまた……無茶を言わなきゃ気が済まない性分かなにかかい? 少し考えればそんなの無理だって思わないのかねぇ。まぁ、素人でもできる何かを考えてくれと言われれば……あるにはある、さね」


 サラさんでもやっぱり難しいのか、ひどく驚かれたが流石というべきか、すぐに案が思いついたようでいささか歯切れは悪いが何か思いついたようだ。


 「そ、それは……?」


 「…………爆弾。“それ”であれば、素人でも扱えて且つ相応の威力が見込める。ただ、ちとばかし問題もあるが、作り方自体は簡単で、今すぐにでも作成可能さね。それ以外は時間や技術が必要じゃ」


 「ばばばばば?!?!ば、爆弾って!!!? そんなの使ったら暴力どころの話じゃすまないんじゃないですか!‼︎?」


 「ほほぉ……? なんだおまえさん、爆弾が何か知っているなんて、どこで知ったんだい? そんなもの」


 あ、やば……この世界の爆弾って、地球でいう秘密兵器だったのかも。それを知ってるってなると俺相当怪しくない? なんて誤魔化すべきか………


 なんて考えていたら、その様子がおかしかったのかいきなり大笑いし出すサラさんに、俺もウェダルフも目を点にしてしまう。


 「“卵爆弾”を知ってるだなんて……ヒナタ、おまえさん相当な悪ガキだったんのかい!! こりゃ見た目によらないねぇ‼︎」


 「たまご……爆弾? って………なんですか?」


 「卵爆弾は卵爆弾さね!! 一般なのはコッコトリーの卵に泣く子も黙る、ありとあらゆる刺激物を詰めて投げる、あれ以外の爆弾があるものかい!!」


 えー……なにそれ、初めて聞いたんだけどー。

 こっちの爆弾ってそんな子供の悪戯みたいなもんだったの? あ、だからサラさん俺のこと悪ガキって思ったのか。いや……納得だけど、納得いかない。


 「いや、卵爆弾は分かりましたがそれでどうしろっていうんですか? そんなの近くの奴らだと俺たちも被害を食らっちゃうじゃないですか?」


 「そうさね、だからそれが問題の部分。だけどそれを除いても効果は絶大さね。なにせこれを食らった魔属、いやほか種属でさえも動けなくなる。戦闘不能状態にできるんだ。その意味が……重さがわかるかのぉ?」


 「それは…………そうですね」


 サラさんの言う事は最もだ。非暴力で戦闘不能にしようとするなら、それ以外の方法はないのだろう。いや、あったとしても現時点で思いつかないし、サラさんの言う通り、技術や知識がなければまともに扱えない可能性が高い。


 俺達には他に選択肢がないだ。

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