141話ギルドランクとクエスト


 サラさんとルイさんからの推薦状を無事貰えた俺たちは、これ以上お邪魔にならないようにと、話もそこそこに切り上げようとしていた時だった。


 「あ、そういえば大事な話をしていなかったワ。アンタたちギルドの階級についても何もしらないでショ?」


 「そういえばそうですね。でもそれってギルド会館へ行けば聞けますよね?」


 「んー、それはそうなんだケレド……もしかしたらに備えて私の方でも軽ーく話しておくワ。ただ今日の話でわからないことや、詳しい話があったらサラ様に聞いてちょうだい。私も運営側にいるから内情とかまでは事細かに説明できないコトもあるノ」


 あ、やばい。そういえばサラさんに挨拶してなかった……。

 ルイさんとか、ギルド入会でめちゃくちゃお世話になったのに、挨拶もなしなんて失礼すぎる。今日帰りにでも寄って報告しなきゃだな。


 「それでまずはギルドについて絶対に知っておいてほしいこと。それはギルドはこの国の主な収入源になっている、ということヨ!」


 「あぁ、それはなんとなく聞いてたので知ってますが……そこまで念を押す意味は?」


 「収入源ということは、それだけ国のお金がソコで動いているっていうことと、ギルドがないと国の運営ができないってことヨ。だからギルドは今まで“国外の種属”を入れたことはないノ」


 「そ、それってつまり………」


 俺が初めてってことですか?!

 いや、まぁサラさんの口ぶりからそうじゃないかなーなんて思ってたけど、初めてだとは思わなかった。


 「ヒナタが異例中の異例だということは、理解してもらえたかと思うケレド、ここで驚いてちゃダメヨ。アンタ私に何したか分かってる? 今まで貴族に決闘して負けたくせに、ここまでしてもらえている人物なんていなかったノヨ?」


 うわ、言われてみればそうだ……。

 俺、お貴族様に喧嘩を売った上に負けたんだった。それなのになぜかギルドに入会するための推薦状を貰ってるって、はたからみれば意味不明すぎる。


 「だからおそらく、イエ絶対洗礼は受けると思ってちょうだい? だからそのための対策はサラ様のところでしてネ。そしてここからが本題……」


 ここまでは前置きだったのだと、息を呑んでルイさんを見つめていると、ルイさんも俺の目を見つめたまま一向に次の話題が出てこない。

 なんだ? そこまで溜めるほど物凄い話なのか?!


 「………ルイ様、お三方も待っておられます」


 「ッは……??!! ヒナタが見つめてくるからツイ……!」


 ついで見つめ返すってどういうこと? と、思いつつもツッコんでいたらキリがないので、あえて突っ込まずにいると焦れたキャルヴァンが至って冷静にルイさんへ返す。


 「それで本題というのは? そこまで躊躇われる内容のものなのでしょうか?」


 「そうね、躊躇うというよりは話すのが難しいというのが正解ネ。というのもギルドという組織についての話になるワ。そうネ、まずギルドは元々下剋上をよしとしたおば……領主様によって作られたのはもう知っているワネ?」


 「はい、サラさんから聞きました。下剋上をするための一つの手段でしたよね?」


 今更だが、下剋上にいくつもの方法があるフェブル国って世紀末感あるな……。なんだ下剋上の手段って。いつでも桜田門外し放題じゃないか。


 「それはギルドが出来た経緯であって今はそうじゃないノ。今はローズ家の血族が管理していて、下剋上も出来ないことはないがする者は稀ネ。どちらかというと大抵の人はSランクを目指して入ることが多いんじゃないカシラ?」


 「え?! Sランクって……まるでギルドじゃないですか?!」


 「いや、まんまギルドだって言ってるじゃナイノ……。今更何言ってるのかしラ」


 いやいやいや!!? ルイさんの言っていることはごもっともだけど、だけどまさかランクなんていう単語が出てくるなんて思いもよらなかった。

 まさかゲームとか漫画で出てくるようなイメージのギルドだったなんて俺だってびっくりだよ!! 何それちょーかっこいい!!


 「まぁ、ともかく今言った通り、今のギルドはローズ家……つまり領主が管理する事業の一つでしかないワケ。そうなってくると大事なのは如何にランクを上げるかなのヨ!」


 「と、ということは……!! クエスト! もちろんクエストを受けてランクを上げるんですよね?!!」


 食い気味に話す俺に引いた様子のルイさんだったが、中々冷静に話すことは難しい。だって、だってやっぱりこういうの憧れちゃうのはしょうがないでしょ?!


 「ヒナタにぃ、ちょっと落ち着こうよ。ルイさんもほら………困ってるよ」


 「イエ……私は別に……強引なヒナタもこれはコレで……って。イエイエ、そうじゃないワ!! なんでそんなことまで知っているのヒナタ!?」


 「えッ?! い、いや〜そんな感じの物語を見たことがあったんで、これもそうなんじゃないかな〜っと………!!」


 興奮しすぎて口を滑らせてしまったが、これは決して嘘ではない! こっちの世界のではないが、事実見たことあるが、実際のところどうだろう? 俺が今まで寄った国にはギルドはなかったので、実際そんな内部事情を書いた物語なんてあったら、今頃大騒ぎのような気がしないでもない。

 誤魔化し切れるか……?


 「あぁ〜……サン家の英雄、ラルコのことね。でもあれにそんなこと書いてあったカシラ?」


 「僕もラルコの物語好きだよぉ〜! ギルドのお話しはドキドキワクワクするよねっ!」


 「そうそうっ!! いいよな、あれ!」


 ウェダルフの好きなラルコの話になって良かったと思いつつ、家名がサンだとは知らなかった。それにラルコの話について、全然知らないんだけどなんとなく乗ってしまったが、この機会を逃さないようウェダルフと適当に盛り上がっていると、その様子に呆れた様子のルイさんがまぁそんなことはいいと、予想通り話を遮ってくれた。

 ありがとう、ウェダルフ!


 「ともかく、ギルドで大事なのはランク。ランクが低いとクエストの内容も質が悪かったり、大したお金にならなかったりするワ。ランクを上げるということは信用を上げるということ。勿論ランクを上げることによって幹部級の魔属に会うことも可能ヨ」


 「なるほど……。ちなみその幹部級の魔属ってローズ家の血筋だけなんですか?」


 「いいえ? ローズ家はギルドの管理、運営で関わっているケレド、幹部はギルドから成り上がってきたものがほとんどヨ。例えばラルコ様の血筋であるオヌ族や、サラ様のようなエンコ族、まとめて妖魔と言われる血筋の者たちもいれば、エルフとか幻獣のような“国内の種属”も勿論いるわ。それこそ身一つで成り上がることができるのがギルドの強みよ」


 これまた色々出てきたなー……まずオルコの血筋のものはオヌ族って言われてて、その中でもサン家は本家みたいな感じか? それでサラさんはエンコ族で、それ以外にもそう言った血筋の者たちがいて、それら全部まとめて妖魔と言われるってことだな。

 その中には勿論エルフや幻獣がいるって……国外と国内ってどういう違いなんだろうか? ただ単純に大陸にいればいいというニュアンスではなさそうだが……今はそこじゃない。




 ……重要なのはアルグだ。


 アルグは恐らく幹部級だ。

 それは単なる勘とかではなく、昨日のフルルージュとルイさんの会話で確信した。ただそれについて聞く相手は、ルイさんではないことは分かっていた。


 「ギルドについて色々話してくださり、ありがとうございました。それでもう一つのお話であった決闘の報酬について話していきたいのですが……」


 幻獣の話やら、ギルドの話やらで忘れてしまいそうだったが、俺たちの話にはもう一つ大事なものがあったのを忘れてはいけない。ワザと負けたにしろ、その報いをしっかり受けるためにも話はしないといけないよな。

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