140話監視と推薦状
ダヴォットさんの能力と俺がどう繋がるのか、それは考えるまでもない答えだった。
「…………幻獣の思考が流れ込むということは、なにか……いえ端的にいいます。俺について彼らは何かをしているということですね?」
フルルージュと以前話していた時から、覚悟はしていた。今の俺の状態ではおよそ、彼らを見分ける事も見つける事もできない。
だから接触があるとすれば必ず彼らの方だと考えていたけれど——
「………つい昨日、お前達が帰った後のことだった。俺は植物になって夜を過ごすのだが、その時が一番声が聞こえやすい。昨日も夢現といった形にはなるが…………お前とお前の仲間を確かに監視していた。それも単体じゃない、複数の思考が共有されているようで、いつも以上に何を言っているのかわからないほどだった」
監視されているのは? と考えてはいたが、まさかの複数人体制とは………それほどまでに警戒する理由はなんだ?
理由1—— 神様候補である俺の能力を警戒してのこと。
……1番明確でわかりやすい理由だ。ただしこの場合、幻獣は俺の能力について知っていない、もしくは俺の何かしらの能力が実は幻獣にとって脅威である場合のみ成立する。
理由2—— 俺以外の“何か”を警戒してのこと。
……この場合考えらえる理由はなんだ? たとえば玉上佳兎。
この場合は、何かの企みを阻止するためと考えられるが、俺が幻獣に見守られる理由が見当たらない。そもそもそこまでの関係値が結べていない時点でこの線は薄いだろう。
それ以外の警戒となると俺の知らない何かが隠されており、それを監視している。という大雑把な理由づけしかできない。なのでこの線は少し理由としては薄いのではないだろうか。
理由3—— 俺と接触するタイミングを見計らっている。
……これは1番あり得ないと思える。これは考えるまでもなく、複数人でやる意味がわからないし、この理由だった場合、よっぽど幻獣は尾行が下手くそなのだろう。
まぁ理由はなんであれ、接触の時は近いと考えて然るべきだろう。
「ありがとうございます、ダウォットさん。幻獣については俺も心当たりがあるからこれからはより一層注意して動こうと思う。ルイさんも心配かけたみたいですみません……ありがとうございます」
申し訳なさを誤魔化すように笑いかけるが、ルイさんの態度はなぜかぎこちなくなってしまい、あーうん、みたいな反応で済まされてしまう。心なしか目も泳いでいる……。
やっぱり誤魔化し笑いはダメだったみたいだ……。
「それでは、ダヴォットの話も済んだようだし、ヒナタの仲間の元へそろそろ帰るとしよう。ダヴォットも仕事がある中、ここまでご苦労であった」
ルイさんが立ち上がり、俺も最後のお礼として一礼をし、その場を去っていくと、紳士モードが解けたのかさっきのそっけない反応とはうって変わり、緊張が解けたかのように大きなため息の後いつも通り俺を横目に話しかけてきた。
「アンタってつくづく心臓に悪い男ダワ。そんな無闇矢鱈と笑いかけるのは自重してちょうだい!」
「え、えぇ………そんなにダメでした? すみません、今後気を付けます」
「………そう意味じゃないけど、気をつけてホシイところだワ………」
いきなりのお説教に若干の理不尽さは感じたが、やはり不誠実はよくないと改めて思い直し、気を取り直し今日のルイさんの服装について触れてみることにした。
「ところで今日のルイさん、昨日と比べておしゃれになってますね。その……俺は貴族の服装とかわかんないですが、色が鮮やかになったというか、うん。今のルイさんっぽくて素敵ですよ」
会った時から気付いていたが、触れる機会がなかったため今更ながら話題を振ると、急に立ち止まりなぜか分からないが思いっきり背中を叩かれてしまう。
「そこヨッ! 急にほめるのやめてチョウダイ!! これだから天然は嫌いなのよッッ!!!」
「え〜……なんで褒めたのに怒られるんですか? 良いじゃないですか、明るい雰囲気あって。俺は好きですよ」
照れ隠しなのは見てわかったので、怒りはないが魔属ゆえか腕力は強いようで、思いっきり叩かれた背中はヒリヒリと痛み、内心涙目だ。
だがこういう良いと思ったものにはちゃんとその意思を伝えるのも大事だと思い、俺は痛みを隠したまますぐそこまで見えていた仲間達のところへと歩みを進めていく。
そこにはもうデザートはなく、他の使用人も席から引いていたようで、その場にはデビットさんしかいないようだった。
「みんなデザートはもう良いのか? ………ん? 俺の顔に何かついてる?」
キャルヴァンもウェダルフも何も言わずに俺の顔を見つめたま、ティーカップを持つ手を止めている様はまるで時間停止でも受けたかのようだった。
「………ヒナタにぃ。実はわざとやってるの?」
「ウェダちゃん、ヒナタは至って真面目にバカをやっているのよ。あれがわざとだったらもっと世渡り上手なはずよ」
「それもそうか………僕たち大変だね、キャルヴァンさん」
「えぇ、そうねウェダちゃん。ダメな子を持つと大変なのよ」
なんで俺罵倒されてるんだろう………
「ともかく。ルイさんになに言ったかわからないけれど、ヒナタにぃはもっと自分に関心持って欲しいよ。だからいつも僕達振り回されちゃうんだから!」
「え、あぁ………うん。ごめん気をつけるよ?……はは」
わからない、会話の全てに置いてけぼり感を感じる。
だがそんなことを言えばたちまちお説教モードに突入することは、火を見るより明らかだ。深くは突っ込むまい。
「ところでルイさんこの後の話………って?! どうしたんですか、そんなところでうずくまって??! もしかして具合悪かったんですか!?」
いつまで経っても来ないと思ったら、後ろで膝を抱えたままうずくまっていたルイさんは、具合が悪いからか肩をプルプルと小さく震わせており、相当しんどそうだった。
「ふっーーーーー。ある種具合が悪くなりそうヨ。倒れるかと思ったワ………」
「え?! 大丈夫ですか? 体調が優れないなら今日はもう帰りましょうか……?」
「いいえ、もう慣れたカラ……えぇ。もう傾向はわかったワ。もう次はないんだからネ!!」
「あっ……はい? お身体には十分気をつけてください?」
やっぱり血を飲まないとしんどくなる時があるのだろうか。そんなことを考えていると、デビットさんが、普段見ることがない主人の様子に少し心配そうな顔で、手を差し伸べていたがルイさんにも意地があるのか、その手は受け取らず俺たちの方へスタスタ歩き、先ほどと同じ配置で席に座る。
「それで、今日アンタたちを呼んだのにはお礼の他にもう一つあるノ。デビット、あれを用意してちょうだい」
「用意してございます」
仰々しく差し出された台の上に載っていたのは手紙のようで、それを俺の目の前に差し出す。
「昨日は決闘で疲れちゃってたから、渡せずじまいだったけれど、これがないとアンタギルドにも入れないから仕方なく急遽書いてあげたのヨ。十分に感謝ナサイ」
「これは……もしかして推薦状ですか? そういえば俺ってギルド入会の推薦状もらうためにルイさんに決闘を挑んだんでしたよね………」
ギルドに入会する。その意思や目的自体を忘れたことはないが、ルイさん自身の問題や決闘など、改めて遠回りしてきたのだなと実感した。
やっとギルドへ入ってアルグへ一歩近づける。そう喜ぶ自分もいれば、それだけじゃなくルイさんのこともなんとかすることが出来たんだ………という達成感? それとも感動? なんとも言えない感情がこの手紙には詰まっている気がしたのだ。
「………ありがとうございます、この御恩絶対に忘れないです。必ずあなたが納得する人物を見つけてきます………。それまで待っててくださいね!」
おそるおそる手紙を受けとった俺は、感動で胸が詰まりつつも約束は忘れていないことを伝え、ルイさんへ頭を下げる。
そんな様子にルイさんも何も言わず、俺の肩へ軽く手を置く姿はまるでこれからのことを知っているかのようで、目には慈愛に満ちていた。
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