133話ダニエルの提案
着実に俺の思惑通りに進んでいる。
そう確信を得る俺にもう一つ、俺が唯一見つけられない存在にある種の賭けをしていた。
そのことは二人には決して言えなかったし、言ったところで何も対処できなのは分かっていた。だからその存在に今回の決闘の結末を託したし、それまでは気づかれないよう俺も立ち振る舞わなければいけなかった。
そう、真の目的は決闘に勝つことなんかじゃない。
**********************
「それじゃあ気を引き締めなおして俺達も探すのを再開しないとな」
わざと呑気ぶって、そうウェダルフとキャルヴァンに声をかけると、ルイさんも俺たちがいることに気が付いたのか、ふんっ、と短い溜息をついた後、声をかけることはないままダニエルさんへ謝罪をし、その場に留まっていた使用人たちにダニエルさんの給仕の指示をしていた。
「何とかなったようでよかったわね、ヒナタ。今のところ思惑通りといったところかしら?」
その場を離れて少し先でそう声をかけられる。
その状況に少し驚き後ろを振り返ると実体化を解き、尚且つ内緒話をするかのように話しかけてきたキャルヴァンに、俺は少し返答に困りってしまい、眉だけが下がったぎこちない笑顔で何も答えられず、ウェダルフに呼ばれそのまま答えは流れていった。
――実際のところ表面上では確かに俺の想定していた事が起こり、そして想定していた通りに事を収める事ができたのは事実だ。
だが、先ほどの騒動での最中俺たちが捕まえた使用人たちを数えてみると、現状は芳しくなく、やはりルイさんたちが捕まえていた使用人が2人ほど俺達より多かった。
しかもこの屋敷内で隠れている使用人はざっと数えて6人。つまり2人は確実に捕まえないといけない上、あと2人も確実に取っていかなければ狙い通りの状況には持っていけないということを意味していた。
普通に考えれば無理ゲーレベルの難易度だし、もちろん最悪を想定してその後のこともある程度は考えていた。
「よし! それじゃあ二人には今からいうところに向かてもらおうと思う! ウェダルフはここから見えるあの角部屋にまずはファンテーヌさんだけ入ってもらう。そのあとはさっきやった通りやれば捕まえられると思うから頼む!」
そう小声で伝えるとウェダルフも目を輝かせて、音を立てないようファンテーヌさんと目配せすると、その場で行動を開始させるのだった。
「次にキャルヴァンだけど、これはむしろキャルヴァンじゃないといけない場所で、どうやら屋根にいるっぽいんだが、肝心の居場所が見えてるわけじゃないから一旦2階に行って分かり次第、さっきと同じようにネットでもって捕まえてもらえればと思う」
「分かったわ、それまで一緒に行動してヒナタのサポートに務めるわね」
「ありがとう二人とも。宜しく頼む!」
そうして屋敷を俺の能力で探知をしつつ、その間にも一人ルイさんに捕まり階下へ降りていくのを確認するのだった。
「やっぱり相手も強いわね。……ウェダちゃん大丈夫かしら?」
「それは大丈夫だと思う。ウェダルフはファンテーヌさんを霧状に出来るからな…。あれをやれば下準備には多少時間はかかるかもしれないが、部屋を霧で満たしてやればどんなに姿が見えずとも見えてくるようになる」
そう告げるが、キャルヴァンが求めていた答えではなかったようで、少し眉を下げて困った笑顔を浮かべていた。
その表情を見て、俺ははじめて自身に余裕がなくなっていたことに気が付いた。
「あ……ごめんキャルヴァン。そういうことじゃないよな……。確かにそのやり方だとウェダルフの負担が大きいのに俺、焦ってそこまで気が回ってなかったみたいだ」
俺の言葉に何も言わず優しい顔を浮かべ、首を振ると気を取り直してと言わんばかりに、話題切り替えルイさんがいるところとは違う場所へ向かう。
そうして俺達も一見すルト何の変哲もない部屋に隠れていた、小指姫ならぬ小指メイドさんを箪笥の裏側み見つけ、花を手渡していた時だった。
「ねぇ、ヒナタさっきの屋根の話なのだけれど…私いい案が思いついちゃったんだけれど…このメイドさんを連れていくついでに準備して来てもいいかしら?」
そう話すキャルヴァンの目はキラキラと輝いており、まるで悪戯でも思いついたかのようだった。
俺も俺で、小指メイドさんを見つけたときに脳裏に掠めたのは、屋根に潜んでいる人物が小さくなっていたりしたら見つからないのでは…という事だった。
「分かった。キャルヴァンに任せるよ」
そういって1分もしないうちに戻ってきたキャルヴァンの手には大袋に入ったクリーム色の粉だった。
「まさかと思うけど…これ小麦粉か? これを一体どうするんだ?」
「ふふふ……私もさっきの子を見て思ったの! もしかしてあのネットじゃ捕まえられないかもしれないって。だから的を絞って小麦粉を屋根に撒けば足跡とか画見やすくなるんじゃないかしらと!」
……なるほど。悪くはない案だけど……これには2つ欠点がある。
「いい案だけど、今回に限っては難しいかもしれない。というのも屋根にいるってことはおそらく風も強いだろうし、それ以上に撒いている間に間が気付いて逃げてしまう可能性がある。ただ………うん、それはそのままでキャルヴァンの発想を基にここにある布で代用しよう!」
「布……あぁそうよね!布なら網目から抜けることはないものね! たださっきヒナタが言ってた部分でいうと風の強さによっては思った方向に飛ばないんじゃないかしら……」
確かに言われてみればそうかと思い、ふと先ほど使ったネットに重石がぶら下げられているのが目につき、そうかとネットの重石に手をかけた。
「……うん、何とか外せそうだな。ちょっとだけ手伝ってもらってもいいか? これを布に括りつけようかと思うんだけど……」
そういって、無事ネットについていた重石を布に括りつけ改めて屋根に潜む使用人を探し、無事捕まえるのだった。
**********************
そうして俺たちが屋根の使用人探しに四苦八苦している間に先ほどの1人を見つけ、そこで限界を越したウェダルフが離脱したのち、何とかルイさんよりも先にもう1人も見つけ、無事目論見通りの理想の形に収めることができたのだった。
そして俺たちはルイさんが待つであろう客間へと戻ると、メイドさんに膝枕をされて介抱されていたウェダルフが目についた。
「ウェダルフ!! ちょ、おま……なんて羨ましい……じゃなくエイナにはとても見せられない事やってんだ?!」
一瞬嫉妬の炎で目の前が真っ赤になり、膝枕から引きずりおろしそうになった自身を寸で自制し、膝枕しているメイドさんに申し訳ないと言わんばかりに隣に座り、自身の膝にウェダルフを移す。
「うわぁ~ヒナタにぃありがとう……そんなに心配してくれてたんだ………。ごめんねヒナタにぃ、心配かけちゃって」
「うッ……おう、そうともさ! 勿論ウェダルフが心配でしょうがないから俺の膝枕でお前の体調を気にしたんだ!」
純粋無垢なウェダルフの言葉に思わず言い訳がましく言ってしまったが、実際問題俺は早くうらやまけしからん状況を何とかしてやろうという、醜い気持ちでもってわざと男の嬉しくもない、むしろ休めるには筋張って固い膝枕に変えてやる! と考えた自分が恥ずかしい……。
「………君達、そんなくだらない事をしているなんて随分と余裕だな。ふん……お互いイーブンとは随分と健闘しているようじゃないか。ただこの勝負……私の勝ちはどうやら確定したようだな」
俺達の騒ぎを聞きつけもどってきたルイさんはあたりを見るなり、勝利を確信したようで、俺の無様な様子を見てそれは楽し気に……そして、少し悲しそうな表情で見下ろしていた。
「さてどうでしょう……ルイさん。勝利を確信するにはまだ早いかも知れませんよ? だってルイさんが最後の一人がどこにいるのか検討ついているのと同じく、俺も最後の一人がどこにいるのか……目星はついているんです」
「ふむ……それは……」
先ほどまで口を挟まず優雅にお茶を啜っていたダニエルさんが、俺の言葉に興味を抱いたのか、手に取っていた茶器をテーブルに戻し、暫し思案する。
その様子にルイさんや俺は何事かつぶやくこともなく、ダニエルさんの言葉を待つが、彼から出てきた提案は意外なものだった。
「ではこうしようではないか。互いが最後の一人の居場所が分かるというならば、今からその場所を……おい、そこで突っ立ってるそこの使用人2人!! お前たちが今からルイとヒ……ヒヨコから場所を聞き出し、それぞれ私に耳打ちなさい。互いが同じならばそこでどちらが先に見つけられるか勝負すればよい」
よほど暇でつまらなかったのか、そう提案するダニエルさんは心底楽しそうに俺達を見やるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます