132話共通の敵と真の目的
効率的に探すため二手に分かれた俺達だったが、最初に言った通りルイさんの使用人たちはウェダルフにも見ることができない能力を持った魔属が殆どだ。
じゃあ分かれてもウェダルフには見えないから探すことは不可能かというとそうではなく、彼自身もまた他の人が持っていない特別な能力を持っているのを忘れてはいけない。
「………お、早速ウェダルフが一人見つけてくれたみたいだな。屋敷の右端の音が賑やかになった……ウプッ」
「じゃあ私達も頑張らないと……と、言いたいところだけれど本当に大丈夫なの? ヒナタ」
「………だいじょばないけど、大丈夫! 前よりちょっぴりだけ楽になってるからな!!! ………ウェップ」
前は音が痛覚を伴っていて立つのもやっとの状態だったけど、今回は日常的に使っていたおかげか、気さえ抜かなければ痛みではなく、酔いとして処理できるようになっていた。
「ひとまずルイさん達が来る前に外で隠れている人たちを全員見つけよう!! ざっとわかる感じだと10人もいないくらいだし!」
見つけやすいよう屋敷より少し離れた場所に出ていた俺達だったが、意外と外は隠れにくいのか、全体の半分もいかないくらいの人数が、綺麗に散らばっており、絶妙な遠さでもって息をひそめているようだった。
「移動するだけでも時間かかりそうだけど……しょうがない! 急いで探そう!!」
俺の言葉にキャルヴァンもしっかりと頷き、まずは一番近い位置に潜んでいる玄関口へと走り出すのだった。
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「で、玄関口近くに着いたのはいいけれど……この後どうするつもりなの? ヒナタ」
隠れている魔属に見えないように俺はキャルヴァンに実体化を解くよう促すと、彼女も意図を感じ取ったのか小声で俺に話しかける。
「今からわざと見つかるようにあそこへ行くからあの低木の真上まで移動してほしい」
そういって準備していたあるものも一緒に渡すと、合点がいったキャルヴァンは大きく頷き、それが見えないよう真上へと浮上したあと、指さした入口近くの低木の真下へと移動し、合図を待った。
そうして準備が整った俺は、計画通りわざと玄関口までコトコトと歩いていくと、思惑通り相手の音は緊張した面持ちで俺の様子を伺うように殊更音を立てまいと、そこにじっと佇んでいるのが聞こえてくる音でも確認できた。
「あっれー……おかしいな? 確かにこのあたりで音が聞こえたような気がしたんだけど………ここかな?」
なんてわざとらしく隠れていた低木とは反対の木へ近づき、ごそごそ探るフリをしたのち、隠れている場所へ向かおうとしたその時だった。
「……ッッ」
見つかると怯えたのだろう、それは音を立てないよう細心の注意でもって、その場を去ろうと真後ろへと移動していたが、それを待っていた俺たちはキャルヴァンに目線をやり、後ろだと口パクで伝えると、理解したかのように手に持っていた網を広がるように下に投げ入れ、見事隠れていた使用人の一人を捕まえるのであった。
「ナイス! キャルヴァン!! 低木近くだったからちょっと網を使うには難しい位置で参ったよ」
「なるほど……考えたわね、ヒナタ。これなら姿は見えずとも捕まえることは確かに出来るわ」
キャルヴァンの言う通り、魔属の能力の影響で姿は通常では見ることはかなわず、捕まえるのが非常に困難に思えるが、それもいる場所がある程度把握出来るなら話は別なのだ。
つまり見えないだけで、そこには確かな質量で持って存在し得ており、布や網、そして呼吸している場所さえ可視化出来てしまえば見つけるのはさほど難しくはないのだ。
「クッ……申し訳ありませんルイ様……。こやつらの口車にのった上、捕まってしまうとは………」
今にも自決しそうな恨みを持った目で俺たちを睨み、下唇に血がにじむほど悔しそうにしている初老の男性を見ていると、まるで極悪人にでもなったかのような気分になってくるが、今は耐えるしかなく、俺は声が震えないように気を張って、彼からオレンジのバラを受け取ると、初老の男性は面目なさげにすごすごと屋敷の中へと消えていった。
「確かに……彼らから見たら私達は悪に見えると思うわ。でもここで挫けたらヒナタが本当にしたかった事が出来なくなってしまう……そうでしょう?」
「あぁ、分かってるよキャルヴァン。俺だってただの悪人で終わるつもりはないんだ」
先ほどの男性のおかげで、ルイさんに仕えている使用人たちが、誠実でそして何よりも敬愛しているのだと思い知らされた。
そしてそれは俺自身望んでいたことであり、自身の真の目的に近づけている手ごたえを胸に、次なる場所へと足を進めるのであった。
そうして多少の苦戦はあったものの、外に隠れていた全ての使用人たちをルイさんたちが来る前に見つけ出し、それぞれ俺への憎しみをぶつけ屋敷へと去っていた後、いよいよ屋敷へと向かっていたその時、あることに気がついた。
「………やっぱり、か」
そんなことをキャルヴァンには聞こえないよう独り言ちると、珍しく腕輪の宝石が揺らめき、まるで俺の考えを肯定するかのようで、俺は決闘には関係のない考えがチラつき思わず足を止めてしまう。
「どうしたのヒナタ? 何か気になることでもあったのかしら?」
「あ……いいや、全然関係ないんだ。今考えるべきは決闘だったよな! すまん……ちょっと集中力切れてたみたいだ、気にしないでくれ」
そういうとキャルヴァンももう慣れたのか、大きなため息をつきながらも、終わったらしっかり話して頂戴ねといって屋敷の中へと急ぐのであった。
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屋敷の中に入って早々、女性同士の喧噪が先ほど俺達がいた客間のほうから聞こえ、俺たちも何事かと思い部屋へ入ると二人の女性を中心とした二グループが、今にも掴みかからんとする勢いで喧嘩をしていた。
「あなたたちがしっかり隠れないから見つかったのよ!! 大体私と同じくダウォット様の意見側だったのに、まさかあちら側に捕まるだなんて……本当はデビット様に与してたんじゃなくて?!!」
「そ、そんな!! 私はルイ様の意思を無視して吸血してほしいだなんて微塵も思っておりません!! それに捕まっているのはデビット様派にもいるではないですか?! まずはそこを詰めるべきではないですか!!?」
「まぁ!! それはつまりデビット様派はあの極悪人の手先とでも仰りたいのかしら?! まぁなんという短絡的思考、何たる侮辱!!」
なるほど、庭師のダウォットさん派とデビットさん派の戦いと思いきや、もっと事は複雑だったようで、最初は同じ派閥同士の二人だった喧嘩が至る所に火種を巻き散らし、もはや誰が誰に向けた言葉なのかすらもわからないほど混乱を巻き起こしていた最中、その渦中のど真ん中に涙をボロボロこぼし、声を殺し泣いていたウェダルフの姿があった。
「おーい……ウェダルフー聞こえるならこっちへ逃げてくるんだ」
ぎゃいぎゃい騒がしい中、ぎりぎりウェダルフにだけ聞こえるよう手を振りながら声を掛けるが、泣くのに忙しいらしく中々気づいてもらえず困り果てた時だ。ファンテーヌさんだけは俺達に気づいたらしくウェダルフに二、三言囁いたのち、無事に難を逃れることができた。
「大丈夫か、ウェダルフ? なんでこんな喧嘩になったんだ?」
「ウゥ……グズッ。えっとね、最初は捕まった人達がどんなふうに捕まったのかとか、どこに隠れていて捕まったのかとかを話してたみたいなんだ……。それなのにいつの間にかどうして僕達に捕まったのかっていう話になって………それで最後はルイさんに捕まった人が僕達に捕まった人たちを味方じゃないって喧嘩を……うぅ………」
ウェダルフの涙とは裏腹に、思惑通り計画が進んでいる事に内心安堵を隠しきれない俺は二人に知られないよう隠すため、ななんとなく、この喧騒に一切口を挟む様子のないダニエルさんに目線をやると、まるで聞こえていないかのように紅茶を楽しんでおり、意に返さない様子だった。
「すごいわね……あの状況で何事もなくお茶を楽しんでるなんて。本当に聞こえていないのかしら?」
誰に向けたでもないぽそっとつぶやいたキャルヴァンだったか、ダニエルさんはどうやら地獄耳だったようで、お茶を一口含め喉を潤わせた後、ごく優雅なしぐさで茶器を置き目線を合わせず俺達に話しかける。
「勿論聞こえているよ、Ms。だがそれがどうしたというのだ? この場を収めるべきは私ではなくルイだろう? だからしがない私はただの仲介人としてお茶を楽しむだけさ」
これは全面的にダニエルさんに同意だ。
本来収めるべきはここにいるダニエルさんではなく、ルイさんだ。だが、だからと言ってこんな喧騒に中お茶を楽しめるのは常人の感覚ではないし、事を急いていた俺は、解決よりも決闘を優先し何も言わずキャルヴァンを見つめ、この場を離れようとした時だった。
「客人の前で何をしているのだ?」
静かな声だった。
だが怒号が止まない喧噪の中でも響く低い声は、先ほどまで叫んでいた使用人たちを黙らせるには十分だったらしく、一瞬にして全ての使用人達は黙り、顔を青ざめたままその場で整列し顔をうつむかせる。
「なんの騒ぎだと聞いているんだが、誰もこの私に話せるものはいないのか?」
静かだが怒りを感じられる声にみんな圧を感じているのか、誰一人顔を上げられないまま身じろぎ一つ取れずにいると、ルイさんは溜息一つ付き、先ほど喧噪の中心にいた人物に近づいて再度説明を求める。
「何故このような騒ぎになったのか、説明も出来ないのか?」
「ぁ………、り……り、ゆうはその………何故あの者たちに捕まったのかという、事で………仲間割れを………」
「…………ふん。なんともくだらない。何故あそこにいる者共に捕まったのかなどと喧嘩をするくらいなら、私に捕まったものも同様に、何故私に捕まったのかを問うべきではないのか?」
「え?………いえ、そ、れ……は……」
「それはなんだ? もしかしておまえは私に勝たせるためわざと手加減をして、お前が仕えているこの私に捕まったとでも言いたいのか? それがどういう意味かも分からずに?」
「あ……………い、いえッ!!!! そそそんな滅相もッッ!!!」
自身の言い分にも非があると気づいた彼女達は、たちまち先程よりも体を深く折り曲げ、青い顔を一層青くさせ、ガタガタと全身を震わせていた。
「忠誠心と帰属意識の分別くらいはつけることだな。ただ群れるだけの能無しなんぞ、私には必要ない」
「ッッッはい!!!」
厳しい一言だったが、忠義心に篤いルイさんの使用人たちはこの言葉によって気持ちを改めたようで、皆顔を引き締めそこにはもう怒りや憎しみなんてなかったかのように顔を少しだけ上げ目を輝かせていたのだった。
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