131話当主の座と無法者
ルイさんの言葉にデビットさんは感情をむき出しに口を開くが、言葉は出てこない様子で歯を強く噛みしめて、ただ一言かしこまりましたとだけ言って、早々と決闘の準備に取り掛かる為、この場を去ってしまう。
「それにしても……君は今回の決闘を行うに当たって、私の使用人たちが私にだけ手を抜いてしまう可能性は考えなかったのかね?」
「勿論考えました。でもそれは絶対にあり得ないのは分かりきってます。そんなことをして勝っただなんて知れ渡ったら、それこそ一生の恥として、この家の存続すること自体危うくなるでしょう?」
そう、これはあり得ない事なのだ。たとえこの屋敷の使用人たちがルイさんが勝つように働きかけたとしても意味がない。なぜならば今回の決闘状、ルイさんたちもご存知の通り正式な手続きでもって行われているのだから。
一昨日サラさんから聞いた決闘のルールは至って簡単だった。
今ではもはや誰も行わない、決闘手続きの受付窓口はギルドが兼任しており、これならわざわざギルドに入会しなくても、誰でもどんな種属でも受け付けてくれるということだった。必要なものも決闘内容と条件、そしてこれは任意らしいが勝利した場合の内容を記した決闘状をギルドに送ってもらい、返事を数時間まてばあとは終わりだったのだ。
なぜこんな簡単なのか、それというのもラミュ様のどんな決闘でも須らく受けて立っていた影響が強いらしく、決闘状を送られた貴族はどんな内容だったとしても、受けて立つのが当然、という暗黙のルールが存在していた。無論、決闘を断る貴族も過去存在していたが、魔属は好戦的であるが故、決闘という戦いの場から逃げるものは魔属として認めてもらえず、結局没落していったという。
そして不正が出来ないもう一つの理由はギルドにある。
決闘を受けた時点で公正性を保つため、ギルドから決闘の勝敗を見届ける人材が派遣され、不正等が行われていないかも判断しているそうだ。
だからルイさんたちの使用人たちは間違っても手を抜いてはいけない。
「ほぅ、随分とサラ様から知恵をつけてもらったようだが……果たして君の思惑通りにことが運ぶと思っているのかい?」
「…………ちなみにですが、今回かくれんぼをするにあたってもう一つお伝えがありました。先ほど出した条件以外なら、なんでもありで申請しました。だから使用人の皆様も各々能力を持っているのならばそれを駆使して頂いてもかまいません」
俺の言葉に周りに控えていた使用人たちは僅かばかり反応を示し、一気に闘争心を燃やし俺達を睨みつける。
「ふん、いいだろう。神様候補とやらがどれほどの実力か、私が魔属を代表して試してあげようじゃないか」
始める前から火花散るなか、今回の決闘のジャッジメントを執り行う魔属がデビットさんとともに現れ、使用人たちは一斉に顔を下に向けルイさんは迎え入れる為立ち上がる。
「ようこそ、急なお願いにも関わらずご対応頂きありがとうございます、ダニエル様。急なお目通りをお願いしてしまい、申し訳ありません。久しくお会い出来ませんでしたがお加減いかがでしょうか?」
ダニエル様と呼ばれた老紳士は、魔属らしくないすらりとした体躯と甘いマスクの男性は、ルイさんを見るや否や大きな溜息を一つこぼし、やれやれといった様子でルイさんに近づいていくのが見えた。
「お前も相変わらずのようで何よりだ。平気な顔して騙るのはいいが、久方ぶりの再会になった原因は、お前が私を避けていたせいだと思ったが……まあそんな些末なことはどうでもよい。して、今日は何をやらかして決闘などと古風な事を始めたのだ?」
キレキレの返答に顔を引きつりながらも、笑顔は崩さず会話を続けるルイさんを傍目に、俺も内心いつどんな風に飛び火するのか、ハラハラするがダニエルさんは俺には一切目もくれず、まるで俺達なんか存在していないかのような振舞いで、話を進める様子に違和感を感じるが、何故だか口を挟めずにいた。
「………なんです、ですから……………と、一先ずこの話は終わりにして決闘をそろそろ始めてもよろしいでしょうか?」
「おぉ、そうだったな。して今回の無作法者は、先ほどから我々の吸う空気を汚染するのが取り柄の若者達か?」
わぁーすごい。俺初めて人にブラックジョーク言われたぁー……もうめげそう。
「えぇ……そうです。志高く、無謀にも魔属に挑まんとする愚者たちですが、ここは公平無私の精神でもって決闘を見届けていただければと思います」
「私を誰だと思っている。無論そんな家名に傷をつける事はするはずもないし、お前にそんな義理もない。…………おいそこのもじゃヘアー、名を名乗る場を今ここに与えてやろう」
「……俺はヒナタです。ここにいる二人は」
「あぁ……よい。これだから無作法者は嫌なのだ。聞かれたこと以外で言葉を発していいなどと誰が許した? いいか、その舌は私の知りたいことを、伝えるためだけに存在しているのだ。決してお前の言葉をピーピー喋るためにあるわけではない、ヒヨッコよ」
本物だ……。マジもんのお貴族様だ………!!
名乗らせたのにヒしか合ってないとか、俺様ドS様な所とか……色々ツッコミ所満載だけど、これだけは言っときたい!!!!
サリッチって本当は話しやすい、いい王様だったのか!!!
いやー、離れてみて良くわかったよ……。ファーストインパクトがあれだったから気づかなったけど、サリッチって意外と偉ぶらない…訳ではないけど、冗談も……言ったら締め技されるけど、だけど………だけどこんな高圧的で平民を人とも思わない素振りなんて、一つもしたことがなかった。
ムカつく……という感情も芽生えるけれどそれ以上に、なぜこの人はこんなにも辛辣なのだろう? という疑問が頭を掠める。
あまり仲が良さそうではないルイさんでさえ、まだ情のようなものが見えたのに、俺達に至っては憎しみすら感じられる話口調で、果たしてこの人に公平な判断が出来るのだろうか、少し不安がよぎる。
「さて……今回の決闘内容はなんだ? 一騎打ちか? それとも盤上での頭脳対決か?」
「いえ………それが……か、かくれんぼでの決闘となります」
言い淀むルイさんの言葉に、予想外の決闘内容をきいたダニエルさんの表情は嫌悪を隠しきれないようで、まるで汚物を見たかのような目で俺たちをみる。
「…………ハァ。ただの無法者かと思いきや、夢に狂った痴れ者達が……。決闘内容になんの誇りも矜持も感じられないのに、それでも受けねばならないというのは難儀なものだな、ルイよ」
ルイさんですらなんとも言えない顔で乾いた笑いを浮かべる中、他の使用人たちは衣擦れの音すら立てず、粛々と準備を整えるため部屋を出てゆき、そうして俺達三人とルイさんたち三人を残していなくなっていた。
「さて、改めて今回の決闘について確認しよう。まず決闘内容だが……全23人がこの屋敷内にて身を隠しルイかデビット、もしくはそこにいるヒヨッコ共に見つかるまでその場にて待機。日没までに使用人を見つけ出し、より多くのオレンジのバラを持っていた方が勝者とする。そして賭けるものは己自身。勝者は敗者の全てを入れることもできる……なにか異議はあるか?」
ダニエルさんの言葉に、この場にいる全員がいいえと答えた。
その様子にふむ、と一言だけ発したのち胸元の内ポケットに入れてあった時計を見やり、しばしの沈黙30秒ほど過ぎたころ。
「カウント5,4,3、2……はじめ。各自健闘を祈る」
静かな始まりとともに、ルイさんは直ちに部屋を出てどこかへ消え、ダニエルさんはやれやれといった様子ですぐ近くにあった椅子に腰掛け、優雅にティータイムをしていた。
「…………フゥ」
俺達のことなんてまるで意識にいないような振る舞いを横目に、何も言葉を発さないよう、キャルヴァンとウェダルフに目だけで部屋を出るよう合図し、二人も何も言わないようそっと部屋を出る。
「……ふぅ。一先ずは外へ出よう。そこからいよいよ作戦決行だ!」
俺の言葉に頷いて、いそいそと外へ出るがやはり皆上手に隠れているようで、道中で見つけることは叶わなかった。
そうしてちょうどよく開けた中庭にたどり着いた俺達は、大きく一息着くのだった。
「はぁぁ………。キンチョーしたねぇ!! ダニエルさんずっと怒ってて僕本当に怖かったぁ~」
久しぶりに涙目のウェダルフとそれを慰めるように、エアーよしよししているファンテーヌさんと珍しく苦笑いを浮べてそうね、といい淀むキャルヴァンだったが、ここで悠長に会話している暇はない。
「さて急いで作戦開始といきたいが、二人が事前に根回ししたおかげでここまでスムーズに進めた……まずはありがとう。それでここからの話なんだけど、やっぱり事前の調査通り普段見えない魔属と同じような能力持ちが大半みたいだ。だからここから先のことなんだが……」
ここから先は実に簡単で、俺にとっては地獄の苦行再びの神の能力、なんでも聞こえてしまう聴覚能力を駆使して、見えざる魔属を手当たり次第探すのみだ。
だがこの能力には欠点しかなく、普段は声を無視することでその欠点を交わしていたが、今回は無視することをやめて全ての声を聞くことで魔属の居場所を当てていくのだが……。
「ヒナタにぃ………本当に大丈夫なの?」
「オ、オウさ………ウエップ。ちょ、ちょっと身動き取れないだけで使用人達の隠れ場所は大体わかったから……ちょ、やば……エチケット袋ください!!!」
キャルヴァンが素早く出してくれたおかげで、ルイさんの屋敷を汚さずに済んだ俺は、背中をさすられながら大まかではあるが人のいた場所を、外と屋敷内それぞれ指示を出した後、屋敷はウェダルフとファンテーヌさんに、庭などの外回りは俺とキャルヴァンで二手に分かれて探すこととなった。
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