第112話飛躍する噂話と男の矛盾





 果たして黒装束の男は俺たちがよく知っているアルグなのか、 それともブラウハーゼに仕えていたグインと言う男なのか。なんて考えを巡らせた所で真相がわかるはずも無く、これ以上の収穫はないと判断した俺とセズは、明日もまた港町へ向け歩くため早々に切り上げ、他の仲間達が待つ宿へと帰る事になった。


 「それにしても先程の噂話……やっぱり可笑しいとは思いませんか? 角の事はさておいても、何故わざわざ目立つ様な格好で聞いて回っていたんでしょうか?」


 「ん? 言われてみればそうだな。顔が思い出せないの所で引っかかってて、格好の事は気にもしてなかったけど、確かに変装にしてももっと馴染みやすい格好があったはずだな。恐らくだがそいつ自身、自分の顔が認識されないと分かってて聞き回っているみたいだし……」


 いくつもの可能性を考えるが、どれも期待と希望混じりでちっともまともな推測が思い浮かばない。

 そんな感じ思考も放り投げた俺は、明日港町で詳しい話を聞くとだけ決めて、キャルヴァンやサリッチ、ウェダルフには聞いただけの情報を話し、4日ぶりとなるベットで疲れた体を投げ出し目を瞑る。



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 「………ナタ、ヒナタ。もうみんなはとっくのとうに準備を終わらせて待ってるわ。貴方ももういい加減目を覚まして準備をしてちょうだいな」


 「んぁ……も、もうそんな時間? 母さん今何時………ってごめん、また寝ぼけて間違えた」


 また、というのは実は何度か同じやり取りを繰り返しているという事に他ならないのだが、それは最早どうでもいいではないか。だってキャルヴァン実際お母さんだし! 俺のお母さんではないけどお母さんんだし!!

 ………………うん、誰も来ないうちに早く着替えよ。


 「それにしても昨日のヒナタ達の話は不可解な事ばかりね。セズちゃんの言うとおり、矛盾が多いのに何故かしら? 全て計画的に見えるからこそ、その矛盾は意味がある様な気がするのよね」


 計画的というのには服装や俺たちを探る様な行動から、概ね納得できるがだから矛盾に意味がある? というのはとどのつまり、目立ちたいけど顔バレしたくはない心理であって、そんな裏腹な事を考えるという事はつまり……


 「黒装束の男は芸能人ってことかっ!!?」


 「芸能人……って何かしら? 芸能って語感から察するに秋の種属が収穫祭で行う舞を指す言葉かなにか?」


 うぅーん?! なーにか聞き捨てならない単語が飛び出してきたけど、それより俺が言った言葉は1000%適当なゴミみたいなボケなんですすみませんでした!!!!

 そんな丁寧に返されるとは思わず本当に適当こいてすみません、もう金輪際口にはせず心の中にとどめておくから許してチョ…………なんていうのはもういいか。


 「いやさっき言ったことは気にしないでくれ……。それより皆ももう待ちくたびれたと思うし、矛盾の意味は港町についてから考えよう!」


 俺の着替えも終わり宿の入り口で待ちぼうけを食らっていた仲間が俺を見るなり、まるで出待ちのファンのように取り囲み各々言いたい放題言ったうえ、待っていたはずの俺を置いて宿の外へ出て行ってしまう。


 この漁師の町からシュンコウ大陸へ船を出している港町はゆっくり歩いても夕方前には着くとのことで、その道中は地元の人が普段から使っているのか、道は整えられておりまた所々海が見渡せるのでちょっとした観光旅行の気分で俺達は港町までおよそ半日かけて歩きながら、港町からくる人々の様子を窺うが、監視は港町まで行ってはいないようで原始種属を従えた人はいなかった。


 そんなこんなで予想よりも早く、昼頃には港町に着いた俺達は早々に宿を取ると明日出航の船の予約を取るため、俺とキャルヴァンは船着場に向かい、仲良し三人組は休息を兼ねて街を散策する事に。


 「いいのヒナタ? いくらシェメイを出たからと行ってこの町に監視がいないとも限らないのよ?」


 「それは…………大丈夫じゃないか? 見る限り監視っぽそうなのもいないし何より……」


 何やら町の人たちは神様より、黒装束の男の方が気になるらしく、先程から黒い服を着た旅人を見かけるたび、ヒソヒソと好奇心のままに噂話に花を咲かせているのが、遠巻きからでもよく見える。


 「やっぱり可笑しいと思わない? シェメイではあんなに旅人を警戒していたのに、ここはこんなにのんびりしてるだなんて」


 「何処にいるかも分からない神様より、みじかに潜んでる不審者の方が話も盛り上がるんじゃないか? それに黒装束の男の方は目撃もされてるわけですし」


 「そうだけれどもそれにしたって監視もいないのは変じゃないかしら?」


 キャルヴァンの言うことも一理あるが、事実いない存在を下手に勘繰って不審な動きを取るのはもっとまずい。そんな事を言って彼女をなだめた俺は、目的であった明日出航する船の予約をギリギリのところで取り付け、乗船客の証である朱印が押された木札を人数分受け取ると、受付の二十歳前後の男性から少しおかしな事を聞かれてしまう。


 「あんちゃんら……そんな大人数で旅だなんてまさかユノ国から来たんじゃねえよな?」


 「へっ?! な、なんでそう思ったんですか?」


 思わぬ質問に若干声を上ずらせてしまうが、受付の男性は気にしない様子で質問の意味について事細かに話し出す。


 「いや……まぁ見るからにあんちゃんらじゃねえとは思うんだが、何しろ噂が噂なもんでさあ。つい先日ほどシェメイにユノ国国王を名乗るいかちい用心棒を従えた女が現れたとか、実はそれがにせもんで、とっつかまえる為に黒装束の男が聞き込みしてるなんて思いきや、これら全ての真相の裏には神様を名乗る奴の陰謀が隠されている、とかなんとか……ともかく挙げたらきりがねぇ」


 あ、これは俺のしでかした事を全部総括した感じですねぇ…… つまりは最後の神様の陰謀は当たらずとも遠からず、むしろ複雑性を増した事実とも言えるわけで……何が言いたいか俺自身わからないけど、これだけはわかった。

 ……本当軽はずみで世直しの旅ごっこしてすみませんでした!!

 まさかまさかこんな突拍子も無い噂へランクアップするだなんて思いもよらなかったんだよぉぉぉ!!


 「ただ……俺達船乗りの話だとその黒装束の男をシュンコウ大陸の港で乗せたなんて話があってそりゃ可笑しなこったと、少し話題になってたんだ」


 「シュンコウ大陸から来るのが可笑しい、とはどういうことですか?」


 俺の後ろで控えていたキャルヴァンが男性の言葉が気になったのだろう、質問を投げかけると男性はキャルヴァンの容姿を見るなり態度をコロリと変え、照れ臭そうに先程の質問に答える。


 「い、いやですねぇそれというのもその男を見かけたっていうのがここ三日前で、黒装束の男の噂もそれと同時期なんすよ。でで、それ以前に見かけた話はないんす。ここからが可笑しな所で、実はシェメイで見かけたって言う噂もあるんすけど、この町よりももっと前の日らしいんす………ね、可笑しいでしょ?」


 た、確かに可笑しい。

 時系列がごちゃついてはいるので分かりにくいとは思うが、整理するとだ。この男性の話を全て信じるとして、一番最初の黒装束の男の目撃はシェメイになるんだが、この噂は俺たちが街を出た後、つまり早くて五日前には男はシェメイにいたことになる。その後俺たちより早く、どういう手段を使ってかは分からないがシュンコウ大陸へ一度渡ったあと、再び船でこの港町に着いた男は人々に話を聞いて回り、その1日後には漁師の町に移動していたことになる。

 ………これは男が二人いるか、それとも噂にデマが混じってなければおよそ無茶苦茶な移動だ。




 「そうねえ……確かに不可解だわ。でもだったら私達は尚更関係ない話ね、ヒナタ」


 「あ、あぁそうだなキャルヴァン。受付のお兄さんも話してくれてありがとう。これは情報料として受け取ってくれ」


 チップを少しばかり渡し、その場をあとにした俺とキャルヴァンはさらに深まった黒装束の男の謎を解き明かすべく、宿に帰る道のりでお互いの考えを話し合うこととなった。

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