第101話発想の展開と街に入る準備
ファンテーヌさんとフルルージュの能力の違いに気付いたあの日から、俺はずっとその意味を考えていた。
ファンテーヌさんが見え始めたのは何でもないウェダルフが仲間になってからだった。その能力もフルルージュ曰く、世界を正しく見るとのことだったが、つまり“正しく”見た結果フルルージュは見えない、という事なのだろうか?
……なんだかとんちみたいな答えで、ますます混乱してしまうが整理すると、だ。
ファンテーヌさんは常人には見えないがそこに存在しており、フルルージュは常人にも見えるがそこには存在していない、ということにならないだろうか?
でもそうだとしたならば何故彼女を側に感じ、弓の練習中も心の音が見えたり魂があるかのように景色が歪んで見えた?
俺はそこまで思案し、そういえば他の人間やエルフを見たらどうなるのか未だに試していないことに気づき、本当に何気なしに隣を歩くウェダルフを注視し、フルルージュを見つける時のように意識を集中させる。
「ん? どうしたのヒナタにぃ?? 急に立ち止まったりして……」
ウェダルフの心配する言葉を流し、俺ははっきりと見えた彼とフルルージュのその差に驚き、まじまじと見つめてしまう。
違いがあるどころかフルルージュとウェダルフは圧倒的に違っていたのだ。魂が持つオーラ、若しくは熱量はウェダルフを包み込んでおり、人の形を成していた。それに心の音でさえも、フルルージュとは違い鈴ではないもっと楽器に近い音、例えるならおもちゃのピアノみたいで、それは楽しげにポロンポロンと音を出している。
「……なんだか、楽しそうだなウェダルフ」
「えっ?! どうして分かったの! サリちゃんにからかわれない様にって隠してたのに」
「ちょっと……どうしてあんたが楽しそうだからってからかわなきゃいけないのよ」
「だって……明日ぐらいにはシェメイの街に着きそうなんでしょ? お父さんとエイナ達に会えるのが楽しみなんて知ったら、サリちゃんからかうに決まってるもん!」
あー……それは確かにからかわれること間違いなしだな。むしろそこからのウェダルフいじりにまで波及するだろうことが、目に見えてわかるのは何でもないサリッチだからかもな。
「でもヒナタ凄いわね。私にはいつもと変わらない様に見えたのだけれど、どうして気付いたのかしら?」
「私も気づかなかったです! 意外にウェダ君は演技派ですね」
「えへへ……そうなのかなぁ? でもそうなるとヒナタにぃはどこで僕の変化に気がついたの?」
正直心の音を聞いた、なんて言ってしまえば皆嫌がるに決まってるだろうし、一寸前の俺だったら間違いなく誤魔化していただろう。でもそれはいい結果に繋がらないというのはもう分かる。ならば嫌がられようとも言ってしまえ。
「ウェダルフには悪いことをしたけど、実は俺一寸前から心の声……とまではいかないけど音が聞こえるようになったんだよ」
「……………………」
俺の言葉に皆を塞ぎ暫しの沈黙がながれたが、その反応は意外なものだった。
「あんたねぇ……それ早く言っときなさいよ!! 仮にもあんた神様であたしたちは仲間なのに隠し事とかどういう了見よ!」
「そうですよ!!! 私達の心をの音を聞くなら一言声かけてください! こっちにも準備って言うものが……」
「セズちゃんそれはちょっと違うような……? というかひどいよヒナタにぃ!! いつの間にそんな成果をあげてたのさ! 一緒に練習した仲なんだから結果は報告してよ!」
もっと嫌そうな顔をされたり、引かれるかと思っていた俺は皆のいつも通りの反応にこっちが逆に戸惑ってしまい、思わずキャルヴァンを見る。
「……なにも驚くことはないわ。だってヒナタは神様候補で私達はそんなヒナタと一緒に旅することを選んだのだもの。これくらいどうってことないわ」
「そうですよヒナタさん。それに私達はヒナタさんがその能力を悪用したり我欲で使ったりしないって知ってますし!」
「というよりあんたは出来ないわよ、人を騙すとか出来そうにない大馬鹿お人好しなんだから」
「そうだね、それが僕たちが知ってるヒナタにぃだね! ……それよりもなんで今になって僕の心音を聞こうと思ったの?」
当然の疑問に俺はここ数日ずっと考えていた疑問を皆に話し、丁度いい機会なので何か思い付かないかと歩きながら聞いて見ることにした。
最初はフルルージュのことについての質問が飛び交っていたが、彼女が俺に今まで話していたことを伝えると、それぞれ考えごとしているのか沈黙が続く。
「……そういえばフルルージュと一番最初にあった頃こんなこといってたんだよ。腕輪の宝石になった元隕石はフルルージュみたいなもんだって」
「隕石……?はともかくとして、意味深な言葉ですね。普通に考えるなら変身とか分身とかの意味でしょうか?」
「というより魂の一欠片が込められてるとか言ってたな」
その言葉を言いながら俺はさっきみた時に感じた、ウェダルフとフルルージュの違いにやっと気づき、思わず足を止めてしまう。
…………道理でモンスターとフルルージュの見分けがつかないわけだ。俺たちが見ていたフルルージュは言ってしまえば不完全な存在なのだ。どういう原理かまではわからないが、少なくとも何故ウェダルフが仲間になった時ではなく、サリッチの時だったか。
それは魂が欠けていたからに他ならないのだろう。
フルルージュと俺の能力はお互い影響しあうといっていた。
恐らくだが本来だったらこうして姿を見せることすら難しい存在であるフルルージュは、俺の力を借りることにより見えていたとするなら、弓の練習時には見分けがつかなくて当然だろう。
でもそれじゃあ練習の本来の意味が損なわれるだけだ。何か他に方法が……………………。
「もしかして音も見ようと思えば見えるんじゃあ……?」
「立ち止まったかと思えば音を見る? なに意味わかんない事いってんのよ」
「音っていうのは心の音かしら? それを可視化するというのは具体的にはどんな方法でするのかしら?」
「俺の世界の理屈だったら……音っていうのは空気が振動するから聞こえるんだ。これが心の音に当てはまるか、やってみないことにはわからないけれど、空気を見ることが出来たなら自ずとどこが振動しているのか見えるんじゃないかと思うんだ」
「うーん……何となくわかるけど、でもそれだとモンスターや原始種属と見分けがつかないんじゃないかな?」
そう、そこは俺もネックだったのだが、多分大丈夫なはずなのだ。
「心の音は……皆それぞれ違うんだ。だからどの音がフルルージュかさえ分かれば見分けもつく、はず」
「若干のたよりなさがヒナタさんらしいと言えばらしいですが……無理は禁物ですよ?」
なるべく頑張ってみると苦笑いで答えるも、強烈な苦しみで会得したこの能力を、今再び違う形で解放するという意味を噛み締めていた。
……俺の目、爆発したりとかしないよな?
そうして、その日は明日街に入るため少しだけ長く歩き何時もより簡素な料理で腹と心をみたした俺は、もう寝ようかと話していた頃だった。
突然現れたフルルージュが俺を皆から少し離れた場所へ連れ出し、何やら神妙な顔で俺すら忘れていたことを告げる。
『明日シェメイの街に入られるとの事でしたが……そのままの姿で皆様に会われるおつもりですか?』
「そのままの姿って…………あ、そういえば俺前はエルフの姿に変身してたんだった! うわ、どうしよう!! なぁどうしたら変身できるのか位は教えてくれ!!」
『一夜漬けでどこまで出来るのか私もわかりませんが、致し方ありません。まずはあのときの姿を思い浮かべてください』
フルルージュに言われるがままにエルフだったときの俺の姿をイメージするが、変わる様子はない。
『考えるだけでは足りません。これになるのだという意思と覚悟を決めてください』
意思と覚悟、と言われても焦りばかりが募り中々集中出来ない。なんだが不眠症の時のようでもどかしい感覚さえする。
『…………弓の練習を思い出してください。焦りと恐怖に打ち勝つには呼吸が大切です』
フルルージュの声にあわせてするゆるゆるとした呼吸が、全身に行き渡り緊張が解されていくのを感じる。…………今ならいける、そう確信した。
『……おめでとうございます。これで明日は安心して皆様に会えますね』
フルルージュの言葉と共に俺の顔を擽るさらりとした感触が落ちてきたのだった。
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