第91話それぞれの想いと覚悟




 もう何度目かになるフウアの問答に、あたしはめげることなく何度目かの言葉を彼に伝える。


 「”どうしてもヒナタ達と行きたいの“何故かは何度も説明している通り、ヒナタ達とならあたしはあたしが望む王様に成れると思うからよ」


 ソルブはあの時全てを理解してくれた。あたしが 神様のヒナタを知らないで頼った私と、神様だけどヒナタだから旅についていく今のあたし。

 ソルブは運命だったのだと言ったけれどあたしはそうは思わない。だって間違いなく自分の意思でどちらも選んだことだから――




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 普段とは少し違う朝食を取り、今日することを確認する為自室に向かう途中の事だった。

 いつも通りフウアがあたしのところに来ていつもの言葉をあたしに投げかけてくる。


 「どうしても行かれるのですか? どうしてもあの方達でないといけないのですか?」


ヒナタ達と旅したいのだと理解した上で、それが許される環境を用意してくれた。それは今ここに居るフウアも同じだ。だからあたしはフウアが納得してくれるまで何度だって言葉を伝える。


 「フウアの心配は分かっているつもりよ。何たってあたしの国で、あたしの目の前で開戦宣言していったのよあいつ!! 無能な王と侮辱したも同じ事をされた以上、あたしには変わる為の劇薬が必要なの。王の死に替えてもユノ国はあたしが守るの!」


 「…………そうですね、我らが王が毒を食うならば我ら家臣は皿を食いましょう。それが国を守るという事ならば私はもう何も言いますまい。ただ私個人のお願いです。必ず生きて帰るとそう一言言っていただきたいのです」


 180度人が変わったかのようなフウアは最初こそ戸惑ったが、こうして話し互いの気持ちを晒しあった今、彼は懐に入れた相手に極端に弱いということに気付いたのは、良い変化と言えるのではないだろうか?

 それだけでもあたしの選択には意味があったのだと、前とは形が違う自信になる、勇気に変わるわ。


 「……約束するわ、私はユノ国の王として必ず生きて帰ってくると」


 「……その言葉を胸にタウ・フウア、この国で貴女様の帰りをいつまでも待っております」


 人目が無いとはいえフウアは廊下のど真ん中で膝を折り、あたしの右の手の甲にあの時とは違う本当の忠誠の証を示す。

 その行為に嬉しさを感じるが、それ以上に人が通らない事を祈っていたあたしは、フウアの事を想うアンユの姿が何故か目に浮かび、声に出すつもりも無かった言葉をぼんやり呟いてしまう。


 「何でくっつかないのかなぁ……」


 「……はて? 何がくっつかないのですか?」


 気づいた時にはもう遅く自分の失言の言い訳をする為の方便を一瞬の思考の中で探り、やっとの思いでひねり出した人物はアズなお姉ちゃんとフウアの使用人のことだった。


 「あ、あぁほら! あれよ、アズナおね、アズナとフウアの所の使用人のことよ!! フウアを見てたらそれ思い出したからっ、それだけよ!」


 「あぁ、あの2人のことか。確かに…………………」


 無理矢理フウアを納得させたあたしはそのままフウアのお節介焼き話を一通り聴いた後、昼食を取るためみんなが集まる部屋へと急いで向かう。


 「あれ? またヒナタ来てないの? 朝も来てなかったのに……大丈夫なの、あいつ」


 「そうなのよ、私も朝食後部屋を訪ねてみたのだけれど誰もいなかったのよ。ヒナタを見た人によれば弓を持ってフルルージュ様とともに城下街へ行ったということだったけど……」


 不安げにキャルヴァンは話しており、何時もは元気の二人さえ落ち着かない様子だった。


 「まぁ、夜になっても帰ってこないなら国のみんなに手伝って貰えばいいわ! それにヒナタにはフルフル?、いやルル……?様もいる事だし平気よ!!」


 ヤバ、あの光る人名前なんだったっけ?? ルが二つあったのは覚えているんだけど……ダメ、長い事と何処かにルルがあった事くらいしか思い出せない。


 「そう、ですよ……! 今回はヒナタさん一人じゃないんですから心配せずに帰りを待ちましょう!」


 「ヒナタにぃだけだと不安だけど今回は大丈夫だよ! ……たぶん!」


 若干不安が残る言い方をするウェダルフはさておき、セズの言葉に納得したのか、キャルヴァンはそうよねと一言呟き何故か自分は座ることが出来ないソファへと手招き座るよう促してきた。


 「せっかくだからこの三人で話し合いしましょう。そうね……ヒナタがいると出来ないお話とか、どうかしら?」


 キャルヴァンのその言葉に二人はさっきまでののんきな顔を引っ込め、空気が少しひりつく。

 その剣呑な雰囲気にあたしもなにを話し合う気なのかと色々勘繰りを入れてしまうが、当の言い出しっぺはなんとも穏やかな表情であたしたちの着席を待っていた。


 「そんな顔をしなくても大丈夫よ。別にヒナタの悪口とかそんなネガティブな話し合いじゃないから安心して? ただ三人にはヒナタの旅についていくことについて、お互いの意思確認をしておきたかっただけなの」


 言葉自体は穏やかだったが、そう語るキャルヴァンの目にはあたしたちが察することが出来ないほどの感情が宿っており、思わず息を詰める。


 「まずは……そうね、この間の話し合いの時には言えなかったことを私から皆へ伝えておきたいの。…………セズちゃん、ウェダ君、サリちゃん。あなたたち三人は死を見る覚悟はあるかしら?」


 「「「……!!」」」


 予想外の言葉に驚きとその意図を一瞬で理解したあたしたちは何も言えず黙り込んでしまう。ヒナタと一緒に旅をする、それはつまり神が巻きこまれるというのは理解していた。理解はしていたが、その意味について深く思考してこなったのはある種の逃げであったのかもしれない。


 「……僕は誰が何と言おうとヒナタにぃに付いていくよ。それは僕がリンリア協会に狙われいるからじゃなく、ヒナタにぃが好きで、僕もヒナタにぃを助けたいからだよ。たとえこの旅に僕の死が付きまとっていても………」


 「わ、私は…………。分かりません……私がヒナタさんと旅していたのはシュンコウ大陸の皆さんを救いたくて、だから王になるためについてきていたんです。だからウェダ君みたく死ぬ覚悟なんて……。今はまだ出来ません」


 普段とは正反対の答えを言う二人の言い分は痛いくらい理解ができた。だってあたしもヒナタに助けられたし、ユノ国の国民を守るべき王様なんだから。じゃあ、どうする? 王様なら何が何でも生きなければいけない。だけど今のままじゃあたしはまだあたしの求める王にはなれない。それにあたしだってヒナタを……ヒナタを助けたい。


 ………なら答えなんてとっくのとうに決まってるじゃない!


 「あたしは死ぬなんてごめんよ! だってあたしはこの国の偉大な王様になる女なのよ? それがむざむざと死ぬなんてこの世界にとって損害以外の何物でもないじゃない!! ……だからあたしは死ねない。死なないし、ヒナタを決して見捨てたりなんかしない。それがあたしの覚悟よ!!」


 そう息巻いてキャルヴァンを睨みつけるが、怒ることもせずただ哀しそうな笑顔でそれがあなたたちの覚悟なのね、と一言呟き自らの思いをあたしたちに零す。


 「私はもう死者だから死ぬのは怖くないわ。だけど三人はまだ生きているし、未来もあるの……。だから約束してほしい。これから先、ヒナタの旅についていくのが怖くなったら私には必ず話してね。無茶だけは絶対にしてはだめよ? 死ぬなんて何よりもダメ。だから危ないと思ったら私は問答無用であなたたちを旅から外すわ。それが私の覚悟なの」


 そんな言葉を締めに私たちの話し合いは終わり、その日の夜満身創痍のヒナタが帰ってきたのを見て、あたしたちはより一層ヒナタと旅をする意味を考えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る