第83話和解と謝罪


 サリッチの暗殺未遂事件もようやく決着がつき、俺になんの相談も話し合いもなく、何故だかサリッチが俺のたびの仲間として加わる事となった……そのちょっと前のこと。



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 ソルブさんに促されるがまま、玉座の部屋から皆がぞろぞろと出て行き、部屋には俺と淡く光を放ったままのフルルージュだけが部屋に残された。


 「……おい、おまえこれからずっとその姿で俺のそばにいるのかよ?」


 それというのもフルルージュは淡く光を放っているだけではなく、姿そのものも半透明に透けており、まるで精霊か原始種属のような薄らぼんやりさがあった。


 『……そうですね、今回の件に関してはわたくしの方も予想外の展開でした。まさかブラウハーゼが大陸を渡ってくるなど……。こうなったら致し方ありません、此度の件が収束いたしましたら出来うる限りのお話をわたくしから皆様へさせていただきたく思います。ですので今暫くはまだ物言わぬ石となりましょう』


 俺の返答には一切答えず再び姿を眩ませたフルルージュの顔は見えず、俺も何も言えないまま誰も居なくなった静かな部屋で、誰に言うでもない言葉を一つ呟き、その場をあとにしたのだった。




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 「それでは……くれぐれも今回の話は外に漏らさないようお願いいたします。それと………なにとぞ、なにとぞサリッチ陛下を頼みまする。我が国の大事な宝を貴方様に……」


 すっかり心変わりしてしまった様子のフウアさんは俺に深く頭を下げ、サリッチのことを何度も頼む姿はブラウハーゼの言葉を案じてのことだと窺い知れ、俺の心にも暗闇が差し込みいたたまれなくなってしまう。


 「これ、そこまでにせんか。これ以上言ってもヒナタ様の負担になるだけじゃぞ。おぬしも懐深いのはいいが、一旦心を許した相手に過保護になる癖はどうにかならんのか?」


 隣にいたソルブさんは身長の高いフウアさんの頭を杖で軽く小突き、なにやら二人で話し合いがあるのか、そのまま俺に一礼しアンユさんも連れ部屋を出て行ってしまった。

 そうして部屋に残ったのはサリッチとアズナさん、そしてキャルヴァンとウェダルフとセズと俺が部屋に残され、しんと静まり返る中アズナさんはサリッチに向き合い、深く頭を下げ今回の騒動について改めて謝罪を始める。


 「サリッチ陛下……今回の事件を引き起こし、大変申し訳ございませんでした。貴方様の為とはいえ刃を向けのは紛れもない真実……。どんな処罰も受け止める所存でございます」


 その言葉には暗にアズナさんを殺す覚悟を求められているかのようで、一瞬にして俺たちは息を詰めサリッチの言葉を待ってしまう。


 「そうねぇ、確かに貴方のせいであたしは暗殺者に狙われたのは紛れもない真実ね。でもちょっと待ちなさいよ……。あたしが見た暗殺者は恰幅のいい男性で、この街じゃ見慣れない薄汚い男よ? アズナはたまたまその日大事な用があってあたしの傍を居なかっただけ。……そうだったわよね、ヒナタ?」


 王宮の関係者でもない俺に何故か事実確認をしてくるサリッチの目には、強い意志が宿っているようで、口はにんまりと笑みを浮かべていた。その様子に俺も乗る手はなく、すこし大げさにあぁ、そうだったと言葉を繋げる。


 「俺がサリッチに探せと依頼された暗殺者は、そりゃあ暗殺に手馴れた熊のような男で到底女性とは思えない程の荒々しさだと聞かされたな。警備が手薄だったのも、普段と違う寝所にサリッチが誰にも告げずに行ったせいだ。けっしてアズナさんのせいではない、つまりこういいたいんだよなサリッチ」


 「なによ、あたしのせいって! ……でも、まぁ大方その通りよ。だからここであたしが間違えてアズナを暗殺者として処罰を与えようものなら、それこそ末代まで恥の王として知らしめる羽目になるわ。今回の件に関してアズナが償うべき罪があるとしたら、あたしの周りに居なかったそのことだけ。反省しているなら今後は一切あたしから離れるなんてしないこと!」


 そんなサリッチの言葉にアズナさんは目に涙を浮かべ顔を上げる。その顔は先程の悲愴感は消えうせており、目はキラキラと輝いていた。


 「ありがとうございます、サリッチ陛下……。これからもずっと貴方様のお傍に……」


 そうしてサリッチとアズナさんの間にあった気まずい雰囲気も無事解消に向かい、その微笑ましい空気に耐え切れなくなったサリッチは、顔を真っ赤に今夜俺たちを迎えるための準備といってアズナさんを部屋から追い出してしまい、そのまますこしの間扉の前に立ち尽くしてしまう。


 「おい……どうか


 「あんた達にも、今回の件で迷惑かけて……申し訳ないことをしたわ。ごめんなさい………」


 俺が声を帰る前に勢いよくそういったサリッチは首まで真っ赤にしており、俺たちに背中を見せたまま俯いてしまう。その様子に今まで様子を見守っていたセズがサリッチへと近づき、俺もキャルヴァンも一瞬焦るが、気持ちを抑え二人を見守る。


 「サリッチさん………。私貴方に二度も暴力を働いた上、傷つける言葉を言ってしまったこと今ここでお詫び致します。大変申し訳ございませんでした。……でも、それでもやっぱり私貴方がいまだ王たる器ではないと思ってます」


 謝罪をしつつも、その意思を変えない姿にセズらしさを感じ、俺は冷や汗を流しつつ、二人の仲に走る緊張感にごくりと生唾を飲む。


 「なによそれ……、あんた本当生意気ね。見た目はか弱い女の子って感じなのに、どんだけ頑固なのよ」


 「はい、私こう見えても頑固者で、貴方と同じで春の種属の王なるって決めてるんです。だから私と貴方はいわばライバルです! 今日からどっちが先に王様になれるか勝負を挑みます!!」


 「ふーん、春の種属の王ね……。ってあんた王族だったわけ?! 信じらんない! だからあたしに対してあんなにぼこすか平手打ちかますわけ?! あんたこそ碌な王になれないわよ、そんなんじゃあ!」


 言葉尻こそ荒いが、二人の間には先程のような緊張感はなくお互いをいいライバルとして認め合っているかのように言葉の応酬を始めていた。というか俺もセズがあんな頑固とは知らなかった。謝ってるのに言葉を撤回しないなんて、以前のセズだったら考えられない変化で嬉しさを覚えてしまう。俺やウェダルフとは長く旅してきた仲間とはいえ、同姓で歳の近い友達というのはやはり違うものなんだろうな。



 「ふふっ……二人とも仲良くなれてよかったわ。喧嘩してもお互いを理解しようとしたならいずれは分かりあえる……そう思える光景よね、ヒナタ?」


 音もなく、実体化もしないまま俺に話かけてきたキャルヴァンに俺はその維持の悪い質問と遠慮のない対応に、少し複雑な心境でその問いに答える。


 「そうだな。……でもそれは隠し事せず、お互いに壁を作らなかったからじゃないか? 俺とアルグとはまた違う話だよ……」


 俺はキャルヴァンの意図を正しく理解をした上で、その上で俺はもうどうする事もできないことを暗に伝えたはずなのに、俺の返答を聞いたキャルヴァンの顔は幼い頃に見たお袋のような顔で鼻でため息をついた。なんだよ、そのしょうがない子をみるような目と笑みは……。実際俺は事実を言ったまでだし、仲直りしたくないわけでもない。でも相手が俺を拒絶してしまった以上、もうどうする事も出来ないのはキャルヴァンにだってわかるだろ?


 それに今すべき事はアルグとの仲直りではなく、俺をこの世界に引き込んだ諸悪の根源……フルルージュと話す事。




 「いい加減話し合いも終わったんだし姿を現したらどうなんだよ、フルルージュ」


 俺は右腕で煌々と燃え立つ宝石をひと撫でし、次にくるであろう目が眩むほどの光に備えそっとまぶたを閉じるのだった。

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