第77話真犯人は誰だ
ピチョン、と冷たい刺激が俺の顔に当たり、俺はズキズキと痛む頭をおさえつつ起き上がった。
「……っったぁあ~。素人相手になんという手加減の無さ……。気絶させた後も責任もって丁寧に扱ってくれてもいいんんじゃないの?」
俺は後頭部を触り、たんこぶが出来ている事を確認した後、辺りを見渡し自身が置かれた状況を把握する。どうやら俺は目にも留まらぬ早業によって気絶させられた後、たんこぶが出来るくらい雑に地下牢へ運ばれてきたようだ。
四方は石造りの狭い部屋で、頭上には気持ち程度に開けられている窓らしきものが、俺に夜だという事を教えてくれた。だがこの部屋にはあるべきものが全く無く、俺は立ち上がりその仕掛けを手当たりしだいに触るが、どこにも扉らしきものは見つからなかった。
「出れないけど、入れもしない部屋なんて……俺どうやってここに連れてこられた訳よ?」
考えるまでも無い密室部屋に、俺は諦めて誰かが来るのを待つことにし、今後どうなるのかを俺は仰向けになり考えることにした。
……サリッチは大丈夫だろうか。俺が狙われた今、彼女がいる場所がばれるのも時間の問題だろうな。その前に仲間が気付いて彼女の身を隠してくれれば……あるいはサリッチが気付いて逃げさえしていれば後は何とかなる、はずだ。
そんな希望に近い想定をしていたら、ふと遠くからコツコツと軽い足音が響いてくるのに気付き、体を起こし音がする方向を見つめる。その姿の見えない訪問者は一人だけのようで、期待と恐怖を綯交ぜにしながらも、俺は何があってもいいようにそっと立ち上がり臨戦態勢を取る。
案の定、夜の訪問者の目的は俺のところらしく、その足音は石が積み重ねられ造られた壁一つ挟んで止まったのが、ありありと伝わり俺は息を呑み、入る事も出ることもかなわない部屋にどうやってその人物がどうやって部屋に侵入してくるのか注視する。
「……扉が動きます。近くにいると危ないので少し離れてください」
その声の人物は落ち着いた声の男性で、その安心感を誘う声の訪問に、安心よりも先に相手の思惑がなんなのか勘繰ってしまう。あれこれ考えている内に仕掛け扉になっていた石壁は、大地に飲み込まれるように下に落ちていった。
「あなたは……あの時月下美人の畑で会った…………」
「そうです、タウ・フウア様に仕えております。そして以前貴方様とお話した者ですが、覚えてくださりありがとうございます。此度の騒動、関係のない貴方様まで巻き込んでしまい申し訳ございません」
謝罪の言葉と共に頭を深く下げる男性に、敵対関係であることも忘れ、警戒を解いた俺は男性に詳しい話を聞くため近寄ることにした。
「それ、どういう意味ですか? まるで全ての知っているかのような……?」
俺がそこまで言うと、男性は落ち着いた仕草で静かに口元に人差し指を添え、辺りを警戒しながら俺に頭まですっぽり隠せるフードを差し出してきた。
「ここではいつ人が来るか分かりません。それに貴方は私たちにとって、あのお方を救ってくれた希望そのものなのです。だから貴方を真相を知るアズナ……彼女のところへまでご案内したいのです」
「アズナ……? その人が今回の暗殺騒動を知る?」
ますますもって謎が深まる今回の騒動に、新たなる人物が二人も追加されてしまい、いまだ囚われたままの俺は混乱のまま、穏やかな雰囲気の男性についていくしかなかった。
「兎に角今は僕を信じてくれませんか? 決して悪いようにはしませんから」
**********************
流石タウ・フウアに仕えているとだけあって、誰にも疑われずにあれよあれよと、屋敷の外まで出ることが出来てしまった。そうして外に出て気付いたのは俺は、いつの間にやらタウ・フウアの屋敷に場所を移されており、その大胆な行動に驚きよりも恐怖する。
「ここからは申し訳ありませんが、貴方様一人でアズナのところへ向ってください。大丈夫、ここから先は貴方様も一度訪れた事がある場所……。道に迷う事も無いでしょう」
そういって渡されたのは、見てもよく分からない地図が書かれた紙で、俺は盛大にハテナを浮かべ、紙をくるくる回し必死に目的地がどこか考える。
そのもどかしい様子に耐え切れなくなった男性は、結局街の門前まで付いて来てくれたあげく、軽く口頭で案内までしてくれた。
「本当に……ここまで案内してくれてありがとうございます! 俺に何ができるか分からないけれど、でも絶対貴方の気持ちを無駄にしないよう頑張りますからッ! では!!!」
「いえ……こちらこそサリッチ様を、フウア様を…………そしてこの国の未来を、よろしくお願いします」
俺が思うよりも大きなものを頼まれてしまった気がするが、これも巻き込まれてしまった自身の責任かと思い、その日は夜が明けるまでずっと、目的地である懐かしい風景の水田の村まで急いだ。
夜通し歩いてやっと着いた安堵感で気が緩みそうになるが、本題はここからだ。これからやっと今回の騒動に蹴りがつけられるのだと、俺は気合を込めて両頬を思いっきり叩き、落ちてきそうになるまぶたを無理やり開ける。
「さて、目的地に着いたはいいがアズナって人のことよく聞いてなかった……。どんな人で今回の騒動にどう関係してるんだ?」
まだ誰も通っていないとはいえ、俺は人目を憚らず道のど真ん中で悩んでいた俺に、突然真後ろから声を掛けられ俺は飛び上がってその人物を確認する。
「お待ちしておりました、ヒナタ殿。初めてお会いしたときはひ孫共々失礼をばいたしました。わし、いえ私はナナカマド族の一人、ソルブと申します」
後ろにいたのは以前村で言い争いをしていたご老人で、なによりその身分に俺は驚きを隠せなかった。ナナカマド族って確か、月下美人族と並ぶ王家に仕える一族じゃなかったか? そんな偉い人が俺の名前を知っていたどころか、待っていたって……どういうことなんだ、本当。
「ふぉほぉほぉ……。驚くのも当然です。なにせ今回の騒動はひ孫のアズナと、ヒナタ殿をここまで案内したあやつの使用人が全ての発端……だがどうか彼らを責めないでいただきたい」
「えぇっと、それは分かりましたが俺にはなにがなにやらまったく…………。最初から話をきいても?」
戸惑いながらもそう告げると、ソルブさんはまたふぉふぉっと笑い、家まで招いてくれた。そうして家の中に入ると待っていたのは、顔を真っ青にしながら俺を待っていた今回の騒動を全て知るアズナさんだった。
「この間は本当に失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした。あのときの非礼はまた後日じっくり致しますので、今は取り急ぎ事の真相をお話いたします」
深く頭を下げ自身の態度を詫びるアズナさんは、初めて会ったときと打って変わり、上品な態度と言葉で俺を向かいのテーブルまで案内をし、お茶まで出してくれた。
「さて……、なにから話したものか。出来るなら最初から話したいところですが、あやつは慎重な言動の割には行動に移すのだけは早い。実はこうして長話をしている時間も惜しいのだが……」
「そうね、お爺ちゃん。急いで準備をしてくるからお爺ちゃんお願いッ!」
アズナさんは青い顔のまま、パタパタと奥へと消えていき、残されたソルブさんは小さくため息を一つつき、俺へ向きなおす。
「すみません、どうもあの子は母親に似てそそっかしい性格でして……。あの子の母親もあの子も、現王であるサリッチ様のお世話をずっとしてきたのです。だから今回の件はなおさら心配なのでしょう」
「だからあんな私のひ孫らしからぬ後先考えないあんな行動を……」
そうしてソルブさんが話してくれた真相は思いもみない意外な顛末で、俺は国を思い行動を起こした真犯人の心境を思い、心が痛んだのだった。
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