第73話黒幕からの招待状






 セズとの話し合いは終わったが、まだまだ説明しなければいけないことは残っている。その一つがサリッチと俺がしていた事についての説明と、なぜ仲間にそのことを話せずにいたのかの言い訳をしていかなければ二人は納得しない。


 「それで、こんなところで話すのはなんだが、今回の騒動について二人にもきっちり話さなきゃいけないな。こうなった以上サリッチも何するか分からないし、俺一人だけって本当に碌な目にあわない……。本当に三人に迷惑かけてすまなかった!」


 俺は今日の疲れもありがっくりと肩を落とし、二人に心からの謝罪をする。巻き込まれる体質と分かっているのに、毎回の如く仲間に迷惑をかけてしまう自分の情けなさにしょんぼりとしていたら、キャルヴァンから思わぬ言葉を聞いてしまう。


 「そうね……。今回に関しては私もいけなかったわ。ヒナタに内緒で尾行して、挙句セズちゃんと彼女を傷つけてしまったもの。それにヒナタにも事情があったのはわかっていたのに……」


 キャルヴァンは申し訳なさそうに俺に頭を下げ、その様子をいつもの如く目に涙を浮かべ、不安そうにウェダルフは見つめていた。


 「いや、二人が謝ることじゃないんだ。ただ俺がしっかりしていれば今回の事は起きなかった。それだけだ」


 「いえ、私も……」


 『今回の件に関してお互いが謝ってばかりじゃ話が進まないわ。それよりもこれからどうするのかを決めましょう?』


 危うく謝罪祭りになりそうなところをファンテーヌさんがぴしゃりと止めてくれたおかげで、当初の目的であった話し合いが出来るようになった。

 こうして小一時間しっかりと話し合えた俺とキャルヴァンとウェダルフは、サリッチがどんな行動を取るのか分からない以上、現状維持の方向で動く事を決めて、落ち込んだままのセズを連れ立って夜ご飯を済ませることとなった。


 翌朝、事件は起こった。


 まだあたりは暗く、俺とウェダルフがいつものように寝ていたら、慌てた様子の足音が聞こえ俺達の部屋を激しくノックする音で目が覚める。

 何事かと飛び起き、扉を開けるとそこにいたのは宿屋の主人で、顔だけではなく全身青ざめた様子で俺の両腕を掴んでくる。


 「お客さん、お客さん!! あんたら一体なにしたんですかッ?!! こんなことわたしが店をやって以来の出来事で、何をどうしたらいいのやら……‼︎」


 相当慌てているのか、宿屋の主人はうわずった声で俺の両腕を強く握り締めてくる。その力強さに俺は痛みに耐えながら宿屋のご主人の話を聞き、とにかく下へとしか言わない主人の案内どおり恐る恐る下へと降りる事にした。


 「あなたがここ最近訪れたという旅人のヒナタだろうか?]


 下に降りると玄関前を占領するえらく姿勢の良い男達三、四人が俺を待ち構えており、逃がさないとばかりに帯刀していた。な、何事??


 「え、えぇ俺がヒナタですけど……なにかしました?」


 「さるお方が貴殿に会いたいと我等を遣わせた。大人しくついてこい。話はそこでする」


 いかつい男性がそういうのと同時に、男達は二手にザザッと勢いよく分かれ、俺を今か今かと待っていた。……女の子に囲まれるならまだしも、男に囲まれる俺の不憫さよ。

 相変わらず女っけがない自分の運命を呪いつつ、逆らうと真っ二つに分かれてしまいそうなので、大人しく俺はいかつい男達に挟まれながら恐怖のお出迎えを受けることにした。


 前も後ろも男に囲まれながら向った先は、昨日訪れた朝顔の屋敷で、俺は死を覚悟した。まさか俺のこと呼んださるお方ってもしかしてもしかしてチィ・アンユって人かな? そうなのかな??


 そうでなければいいと思いながら、俺は案内されるままに屋敷の中へ入り、現実を受け入れないままチィ・アンユその人と二度目の対面を果たし、一気に血の気が引いていく。しかも部屋にはチィ・アンユだけではなく、訝しげな顔で俺を睨みつける壮年の男性までいた。


 「ようこそわが屋敷へ。昨日は何も事情を知らない屋敷の者が追い返してしまったようで申し訳なかったわ。あら、そんなところで立ち止まらず、こちらへきてどうぞ座ってくださらない?」


 口調こそ優しいアンユさんだが、その顔には笑顔一つ浮かんでおらず、俺は虎に睨まれたウサギのような気分だった。俺はなるべく顔をあわせないようにソファーに近づき、躊躇いがちに腰掛けアンユさんと、別の椅子に腰掛ける壮年の男性をチラ見する。


 「改めて、私の名はチィ・アンユ。こちらに座っている方はタウ・フウア様よ。あなたの名前は?」


 「俺は……ヒナタです。今日はどのような用向きで俺みたいな平々凡々な旅人をここに?」


 獣のような目線で睨まれつつも、俺は自身が呼ばれた理由を聞いてみる。聞くのは怖いが聞かずに話が進むのはもっと怖い。


 「……今日はわが国に関わる重要機密に関する話を貴殿に聞くためだ。……この意味、わかってくださるか?」


 「い……いえいえいえいえッ??!! 全然何を言ってるか分からないです?! 国家に関わる機密なんて、俺みたいな人間が知るわけないじゃないですか~!」


 首が千切れる勢いで横に振り、全力で否定してしまう。なにこれっ?! どこまで知ってるのこの人たち??!!


 「ほぅ、この期に及んでもとぼけるとは……。まだ自身の身がどのような状況に置かれているかわかっていないようだな」


 「仕方ありませんわ、フウア様。彼は所詮一市民でしかない。今回のように、愚かな王に踊らされた憐れむべき存在の一人です」


 な、なんだこの言い草?! 市民から支持されているアンユ様って、こんな傲慢な考えの人だったのかよ!! ガンガン上から物言ってくるのになんで慕われてんだ、この人?!

 俺は二人の強烈な発言に思いっきり面食らってしまい、なにも発せられなくなってしまう。そのことを肯定と受け取ったのかフウア様と呼ばれた男性は、やれやれといったしぐさで俺に諭すように話しかけてくる。


 「貴殿は騙されているだけなのだよ。あの愚かで王たる資格も本来は持ち得ないただの子供に……そうだろう? だからもう話してはくれないか。あの愚か者が隠れ蓑にしている場所を」


 「な、なにを言ってるのか……俺には全くわからない。俺はただの旅人で、今この国で起きている騒動なんて街で聞いたことしか知らない。第一俺は俺自身、見て聞いたことしか信じないタイプなんだ。だからこの場ではっきり言うと、俺はあんたら二人のほうがよっぽど信用できない」


 言った……。言ってやったぜ!! 言ってしまった以上俺の命はどうなってしまうのか分からないが、こんなやり方でサリッチの居場所を聞いてこようとするやつらなんか信用できないのは、当然だろう?!


 「そう……、それがあなたの答えなのね。やはり愚か者の王には愚か者しか集まらないのかしら。残念ね、あなたの答え次第では私達は褒美も辞さなかったのに。こうなってしまった以上、あなたは国を転覆させる反逆者よ」


 「そうだな、貴殿……いや貴様が今回の王殺しの犯人として我々も動かざるを得ないようだ」


 「はぁぁ??!! なんでそうなるッ??! 俺は単なる旅人で暗殺者なんかじゃない!! 第一王様を暗殺して得するのはお前らのほうだろッ?!!」


 突然すぎる展開に思わず声を荒げ、暴言を吐いてしまうがそれも仕方がないことだろう。だって俺が暗殺者って……!?? 筋も何もあったもんじゃない!


 「やれやれ、見苦しいことだ。我等こそ王を殺して何の得があるというのだ? 国を想い王を支えるのが我等貴族の役目。それに王が我等を疎んでいたのであって我等は王のため尽力した」


 「王無き国は混迷するだけよ、そんな愚かな事私はしない。言いがかりにしてもなんとくだらない……。もうあなたとは話す事もないわ、皆のもの!! ここにいる大罪人を捕らえなさい!!」


 「「「「はっ!!」」」」




 ヤバイッ!! そう思ったときにはすでに遅く、俺は大男達に拘束されてしまい、そのまま気を失ってしまったのだった。

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