第68話忠告と尾行再び







 どこぞのアニメヒロイン張りに、ツンデレを見せ付けてくれたサリッチだったが、だがやはりそこはサリッチ。自分の話が終わるや否や、俺を前回同様締め出したあげく、証拠をつかむまで部屋に来るなとすら言われてしまった。……本当に可愛げの一つもない王様だこと。

 そんな雑な扱いにの慣れが生まれてしまった俺だが、このままなれていくのはなんか癪にさわったので、あえて毎日これからサリッチの部屋に行くことにし、俺は目的自体は逸れてはしまったが、最初の目的の通り、朝顔の一族アンユについて聞いて回る事にし、おしゃべり好きそうな恰幅のいい女性に話しかける。


 「楽しいお話中、すみません。最近この街に来たばっかりなんで聞きたいことがあるんですが、ここの街の名物とかって何がありますか?」


 旅人の俺がいきなりチィ・アンユについて聞いたところで不審がられると思い、無難に名物から入って、本題について聞きだすことにした。


 「あんれー、旅人とは珍しいわねぇ! なんだいこんな美人捕まえて聞きたいことってのはこの街の名物のこと? いやねぇ、口説こうってんならもっと気の利いたこと聞きなさいな!」


 「あ、いえ俺はそんなつもりは決してなくてですね……いやお姉さんに興味ないってワケじゃないんですよ! ただ俺にはもったいないので、せめてちょっとお話でも出来たらなぁと思いまして……ははっ」


 「あらまぁ~! お兄ちゃん口が達者ねぇ! もう、おばちゃんそんな事言われたらなんだって話してあげるさね!! どれ、街の名物ねぇ……。一応この街は向日葵畑が有名でそれで作った油や料理なんかを謳ってはいるけど、あたしゃそれよりアンユ様もお気に入りの朝顔で染めた織物なんかが上品で好きだね!」


 おぉ、早速出ましたアンユ様! さすが人気者だけあって関係のないところからでも火がつき煙が立つことで。そしてぶれない向日葵批判はいったいなんなのだろうな。


 「そうなんですね、ありがとうございます。ところでアンユ様ってどんな方なんですか? いろんな人がアンユ様って言ってたのですが、この街の事は良くわからなくって……」


 「あんたっ! この街にきたらまず、アンユ様の事は知っておかなきゃだよ!! なんたってこの国一番の才女で、美人なのに決して驕る事がない、王族に一番近い貴族様なんだから!!」


 「おぉぉぅ……そ、そうだったんですね。すみません知らなくて」


 さっきとは段違いの熱量でもって、ぐいぐい近づいてくる女性に壁際まで追い込まれた俺は、間違っても触ることがないように両手を上げ、話を続ける。事故とはいえ痴漢扱いをされては困るし。


 「いや、いいんだよお兄ちゃん、あんたは旅の人。知らなくて当然だったわね。でも街に数日いるつもりなら一度は街の貴族だけが住む、あそこの一画に行ってみなさいな! 夏の種属の中でもあそこは一等美しい花を管理している方たちが住んでんだ。わたしら庶民とは比べようもないほど綺麗な花が咲いているよ」


 夏の種属にも貴族制はあるらしく、その違いは花の雅さと美麗さで決まるようだった。それは……なんだかもやっとする貴族制だな。綺麗さで決まる身分なんて、なんら国に係わりがなさそうだがそれでいいの?

 親切にいろんなことを教えてくれた女性にお礼をし、その場から離れるが、どうにも気持ちが治まらず何故こんなにももやもやするのか考えながら歩いていた。


 ふいに視界の端になにかが映り、その見覚えのある角を額に携えた人物に体ごとそちらに向け、思わず肩をつかみ足止めをする。


 「あなた、ずっと前にも会ったことありますよね?」


 驚く事もせずに俺のほうへゆっくり振り向くその人物は、アルグではない、でもアルグそっくりの雰囲気を纏った青い肌で、アルグとは違い一角だけを携えた男性だった。

 ……やっぱり似ている。いや、似ている所ではない。意識をしないと、その人物が一瞬アルグのように思えてくるほど。いや見た目は全く違うのに何故? と自身に問いかけたくなる。


 「……これは驚いた。わが主ですらいまだに見て捕らえるのが難しいというのに、まさかお前が先立って私を捕まえるとは。これはあのお方に報告せねばならぬか?」


 「は? なに、どういうこと? あなたは本当は精霊なのか? まじか、俺もう他の人と区別がつかないくらい見えてるから思わず声掛けちゃったよ……」


 てか主とかあのお方って誰? この人誰がに雇われてるの? そう思い俺が聞こうと口を開いた瞬間だった。


 「いつまで私の肩に触っているつもりだ? 私の邪魔立てしようつもりなら、遠慮なくその腕折らせてもらうが良いのか?」


 アルグに似ているのに、彼とは真逆のことをこともなげに言ってくる男性に、俺は言い知れぬ恐怖が背中に走り勢いよく手を離す。俺がわずかな時間恐怖に震えていた隙にその男は音もなく歩き出し、すれ違いざまにポツリと一言つぶやく。


 「お前の信用しているあの男は裏切り者だ。騙されたくないならお前も気をつけることだ」


 あの男? それってアルグの事か?! なんでそんなこというんだと思い、問い詰めようとして後ろを振り返るがその姿はもうなく、人ごみに完全に紛れてしまっていた後だった。

 恐怖と男の残した意味深な言葉に、俺は追いかけることすら出来ず、ただ呆然と気付けば宿に帰っていた。


 「あ! ヒナタにぃ~!! また今日も一人で遊びに出かけるなんてひどいよ! 明日は絶対僕たちと一緒に買い物に行ってもらうからね」


「あ、うん……ごめんウェダルフ。明日は一緒に買い物しような……」


 気もそぞろに返事をかわし、ウェダルフの明日の遊ぶ予定を聞き流す。そんなことをしていたせいだろう、セズとキャルヴァンの訝しむ目線に、やっと気付いた俺は慌てて普段の調子で二人に話しかける。


 「あっ……。ふっ二人も明日は何かしたい事ないか??!」


 「……ウェダ君、明日は私達三人とも別の用事があるってさっきお伝えしたじゃないですか~。ダメですよ、忘れちゃったら……。なので明日もヒナタさんはヒナタさんの用事を存分に果たしてくださいな?」


 「え、あ……あ~そうだったねぇ! 僕すっかり忘れてたよ~」


 二人のぎこちない会話に、すぐさま察してしまう俺だったがここは気付かない振りをして、キャルヴァンにも話を振る事にした。


 「そうだったのか? キャルヴァン。昨日は散々あれだけ一人で行動はするなってお説教してたのに……なんでだ?」


 「あら、そんな意味で言ったんじゃないわヒナタ。一人で行動するなっていうのは、一人で勝手に判断をして、一人で勝手に騒動や事件を解決しようとしないでって事よ? 誤解させたならごめんなさいね?」


 寸分も悪いとは思っていない笑顔で、昨日とは全く違う言い分を展開するキャルヴァンだったが、解釈が違うと弁明されてしまっては俺もこれ以上切り込む事は難しくなってしまった。さすが最年長だけあって煙に巻くのがうまい。まぁいいか。

 この三人が考えている事は手に取るように分かるし、今日みたいに隙をついて撒けばいいことだな。


 このときの俺は雑な方法だったにも拘らず、撒けたことで完全に三人を舐めていたのだ。だから三人があんな方法で俺の行動の裏をかいてくるだなんて……。



 早朝に目が覚め、隣でぐっすりと眠るウェダルフを確認した俺はほっと胸をなで下ろす。なんだ、俺の考えすぎだったかと自身の思考に反省をしながらも、やはりどこかで引っかかりを覚えた俺は昨日と同じく、弓と練習用の矢を手に取り、誰一人とすれ違う事もなく待ちの外へ出かけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る