第41話魔法使いと召喚師
——ウェダルフの父親である、リュイさんはシェメイの街で議員である両親のもとに生まれ、そのことを誇りにリュイさんも日々勉学に励んでいたそうだ。だがその時のシェメイは今よりも協会の力が強大であり、監察として幾人もの子供が親元から強制的に引き離され、隠したり逃げた家族には罰を与えてたりもしていたそうだ。
そんな惨い状況で、リュイさん自体は普通のエルフであり、監察になる資格は持ち合わせていなかったようだが、リュイさんの両親はそんなことは関係なく、全うな国に変えたいと、日々協会ともやりあう事も多かったようで、信者からの嫌がらせは毎日のようにあったらしい。もちろんそれは大人にとどまらず、子供であったリュイさんもいじめにあっていた。
それには両親も参っており、リュイさんを守るために以前は到底受け入れなかった、協会びいきの政にも少しずつだが屈し始めていた。
そんな両親の姿を知ったリュイさんは、自分のせいで両親が協会に負けるのがとても悔しく思え、その日から少しずつ苛めて来るやつらに立ち向かっていったそうだ。だけれど、どうしても泣きたくなる時もあったそうで、そんなときには街の壁の外にある森、つまりは国境まで赴いて自分だけが知っている綺麗な泉で時間も忘れてワンワン泣いたそうだ。
そんなときに必ず現れる秘密の友人、それが後のウェダルフの母となる、ファンテーヌさんとの出会いであり、彼女は泣いているリュイさんに何も言わず、そばで話を聞いていてくれたそうだ。
ファンテーヌさんはエルフからみても美麗な女性だったそうで、二人は自然と恋に落ちたそうだ。そうして——
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俺はここまで話を聞いて、まさかなと思い始めた。以前ウェダルフがお母さんと呼んだ半透明の女性……。そして不思議な泉で現れるファンテーヌさん。考えずとも導き出された答え………それはつまり?
「それはつまり、ウェダルフはエルフと水の種属のハーフ、という事ですか?」
俺が聞く前にアルグが聞いてしまい、おもわずアルグを見つめた。話の途中によく聞こうと思ったな、アルグさん!
「……そうです。ウェダルフは私とファンテーヌ、水の種属とのハーフ。そして協会が欲しがっている監察にもっとも適した人材なのです」
若干話し足りなそうなリュイさんは、手を組んで俯き加減でそう答えた。ほらぁ、ちょっと落ち込んでるよ、リュイさん。どうするよ、アルグ? そう思って隣をちらりとみたが、別段気にする様子もないアルグは次の質問をぶつけていた。豪気なんだか無神経なんだか……
「なるほど、確かに原始種属とのハーフは稀で、その殆どが原始種属と交流ができる者ばかりだ。だけれど、協会に見つかってもなお、攫われずに済んだのは何故なんです? 到底協会から逃げ抜くのは難しいはずです」
そういわれ、俺もエイナが言っていたことを思い出した。確かに俺たちが来る以前からウェダルフは狙われていた。なのに何故、今まで無事に過ごすことができたのだろう?
「それは、ヒナタさんならもう知っておられますよね? 今なお息子が無事な理由。それはファンテーヌが息子を守ってくれているからに他なりません」
「では、あの時みた女性はやっぱり、ウェダルフの母親だったんですね。でもそれだけじゃまだ分からない。何故今になって俺たちに大事な息子さんを預けようと?」
だがこの疑問は俺だけだったようで、俺の言葉を聞いたアルグとセズは驚き、ウェダルフの方をまじまじと見ていた。え、どういうこと?
「簡単に説明しますが、原始種属は基本的には会話はおろか、普通は見えないですよね? それが見えて会話も出来るだけでも凄いのに、ウェダ君はそれ以上の……そのお母さんを一瞬でも実体化させてしまったという事なんです。加護とはまた違う素質なんですよ!」
興奮気味にセズから説明されたが、いまいち頭が追いつかない……。じゃあ加護ってなに? 力を借りるのが加護ならウェダルフの実体化は……成る程! つまりは魔法使いと召喚師は違うという事か! RPGに置き換え初めて納得する俺の脳みそに、物悲しさを覚えたが、もう手遅れだった。諦めよう。
「セズの言いたい事が分かった、つまりは監察の加護だけでも相当に凄いのに、それを超えるぐらいの素質がウェダルフにはあるんだな。だけどそれを上手く扱う事が出来ないウェダルフでは、いずれ協会に捕まってしまう。だからリュイさんはファンテーヌさんとウェダルフ、どちらも守るため俺たちに預ける事にした、と」
俺がまとめると皆、いっせいに頷き返してきた。俺だけわからなかったのね……。とほほ、と肩を落とすがこれでやっと話が進展したんだ、良しとしようじゃないか。
「それでは改めて、息子をお願いしてもよろしいでしょうか?命を賭して息子を助けようとしてくれた貴方達にしかお願いできないんです!」
大事な一人息子を会って間もない、素性も知れない旅人に預けなければいけないリュイさんの気持ちは、如何程のものか俺にはわからないが、俺もウェダルフと係わりを持った以上、無碍には出来なかった。なら答えは一つで、それは仲間である二人も同じだと思う。
「俺たちがしっかり息子さんをお守りいたします。こんな誰とも知れぬ俺たちを頼ってくださった以上、責任は最後まで持ちます!」
まっすぐリュイさんを見つめ、俺達はウェダルフに向かいそれぞれ言葉をかけた。
「えへへ、これからよろしくね、ウェダ君!」
「ヒナタは勿論俺もいるから安心してくれ、ウェダルフ」
「まさかこんな話になるとは、あの時は思いもしなかったけど、これからよろしくな! ウェダルフ」
俺たちの言葉に嬉し涙を浮かべ、嬉しそうに答える。
「僕も、僕もみんなと一緒に旅が出来て本当に夢みたいだ! これからよろしくね!」
こうしてシェメイで起きた誘拐事件は、リュイさんの行動によって終わりに向かい、俺たちも新たな仲間としてウェダルフを迎え入れるのだった。……いまだに戻る気配がない隕石と、皆の記憶から抜け落ちてしまったアカネが最後に言った、青いウサギの謎を残して。
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長い話し合いが終わり、夕方近くまで長居してしまった俺たちは、リュイさんの夕食の誘いに甘え、外を出る頃には月も高い位置で俺たちを照らしていた。
旅の出発は呪いの隕石が手元に戻ってくるまで先延ばしになったのだが、別れ際にウェダルフが驚きの発言をした。
「そうだ、ヒナタにぃに言い忘れてたけど、アカネが言ってた石、エイナたち灰色の兄弟のおかげで見つけたんだよ! 明日には僕の所に届けるって言ってたからまた明日も来てね! ……でもみんな変だったなぁ? だって誰もアカネのこと知らないって言うんだもん……。ヒナタにぃは……覚えてるよね?」
「あ、ヒナタさんの大切なもの見つかったんですね! 良かったですけど……その、アカネさんという方はお二人のお知り合いですか?」
隕石を見つけたウェダルフにも驚いたが、それ以上にセズもアカネのことを覚えていない事に驚きを隠せなかった。今や俺とウェダルフしかアカネのことを覚えていないなんて……。そのことには何か意味があるのか、そう聞く相手もいなくなった俺はウェダルフを見やる。答えが欲しかったのはウェダルフも同じだったようで、俺たちはただそのまま見つめ合う事しか出来なかった。
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