第40話事態の収束と新たな仲間
俺の救世主であり、女神でもあるティーナさんは、俺の話を聞くなり丁度良く募集していたという、業者の荷降ろしの仕事を斡旋してくれた。うぅ、この人には毎回の如くお世話になっているな、俺よ……。
この義理は絶対いつか返すと心に誓い、その日は紹介してくれたお礼に、先程レイングさんの居場所を教えてくれたロトスさんの店で食事を奢り、その日はティーナさんと別れることとなった。
夕食時だったので、アルグたちとの食事も考えて食べようとしたが、ロトスさんの味付けがぴったり俺に合ってしまい、思った以上に食べてしまった俺は、二人との食事は付いていくだけに留め、後は飲み物でその場を凌いだ。
翌日は日の出前に目を覚まし、急ぎ支度を済ませて昨日訪れた館へ急いで向かった。なんでも俺が今回請けた仕事は、アプロダの国で最初に訪れた港町からの荷物らしく、今日の市場で捌くためにいち早い荷降ろしが必要だという事だった。鮮魚や足が早い物が多いそうなので、俺も気合を入れてその日は一日中荷降ろしや、なぜかそのまま売り子として走り回っていた。その為、聞いていた以上の賃金が支払われ、何よりも俺の働きっぷりを気に入ってくれた商人が、俺がこの街を発つまでは雇ってくれる、とまで言ってくれたのだった。
俺のことを評価してくれた事も嬉しかったが、何よりその人と俺を繋いでくれたティーナさんには本当に感謝しかない。ありがとう、ティーナさん!!
そうして少しだけウェダルフの出生の謎や、リンリア協会の暗躍の事を忘れて働いた俺だったが、気付けば二日も経っており、このまま何事もなく済むだろうと考えていた、その日の早朝にことは動いた。
いつもより賑やかな街の人達は、口々にリンリア協会の事を話題に上げており、俺も普段とは違う様子が気になって宿で働いている子に声をかける。
「なんだか街の人達が普段とは違うようだけど何かあったの?」
年の近い青年に砕けた口調で聞くと、相手は少し気まずそうに辺りを気にしながら話してくれた。
「それが……なんでも今朝方、リンリア協会の幹部の人が拘束されたとかで……。ほら、数日前に誘拐事件あったでしょ? なんでもその真犯人、実はリンリア協会の幹部だったらしいんですよ」
な、なんだってー! とワザとらしく驚いては見たが、そんなのとっくのとうに知ってましたともよ。だけど分からないのは、絶対的権力のイメージがあった、リンリア協会にそんな事が出来るとは思いもしなかった。証拠とか残していなかったはずだが、どうやってそんなことを成し遂げたのか……。出来る、というかまず間違いなくそれをしたのはウェダルフの父親だろうな。なにせあの家の豪壮さだ。思った以上の権力者なのは間違いないが、そう考えると怖いのは、自身の犯した不始末がどんな形で返ってくるのかだった。不味いぞ、相当不味いことなっている……。
相当の権力者の息子を危険に曝したのだ、ただで済むはずがない。
噂話がとたんに他人事に思えなくなり、熱々の飲み物をがぶ飲みして、なんとか冷えた体を暖めようとしたが、寒いのは心だったのでそれも無意味だった。しかも今日は偶然なのか、それとも必然か……。仕事は休みを貰っており、何をしようかと思っていたところであった。
しかもセズとアルグはすでに出かけていて、今ウェダルフの父親が訪れたらイヤだなぁ、なんてフラグじみたことを考えてしまう。
「おはようございます、ヒナタさん。この間は玄関前での対応、大変失礼をいたしました。今日は何かご予定でも入っておられますか?」
何時もより賑やかな宿で、静かに響くダンディーな声に俺はぎくりとした。まさか、まさかと思いつつも、聞き覚えのあるその声の方に顔を向ける。やってしまった。俺は今、見事にフラグを立て、即効で回収してしまったのだ……
そこにいたのは先程考えていた人物、ウェダルフの父親だった。
「おはようございます……。今日は何のご用向きでしょうか……」
ひそかに絶望しつつ、いたって普通の対応を心がける。どんな死の宣告を受けるのか、固唾をのんで言葉を待った。
「いえ、今日は皆様にお話したい事があり、こうして貴方が泊まっている宿を調べて回ったのですが……他の皆さんはお出かけですか?」
「そう、みたいです……。ははっ、俺も朝起きたらもう出かけた後だったので、行き先を知らないんですよ」
お願いだ、二人とも! 暫く帰ってこないで!!
そんな俺の願いはむなしく、いつもなら散り散りに行動して、帰るのは夕方ごろになるセズとアルグ達がなぜかこんな日に限って、二人並んで仲良く帰ってくる。手に荷物があることから、恐らく旅に出るための買い物をしていたのだろう。もう最悪だ、俺たちの旅はここでジ・エンドなんだ……ッ!!
「あ、ヒナタさん起きたんですか! もー、今日はお買い物するので予定を空けてもらったのに、寝てたら駄目ですよっ!」
「寝ぼすけは今に始まった事じゃないからしょうがないさ。それより、ヒナタの向かいに居る方はもしかしてウェダルフの父上か?」
セズの言葉に数日前そんな事を約束したな、と思い出した。ということはこの人はそれを知っていて、俺たちの元へ訪れたとでもいうのか?
「アルグさんにセズさん。この間は息子がお世話になりました。今日はお三方にお話したい事があり、失礼かとは思ったのですが、訪れた次第。今日は皆さんお時間はおありですかな?」
アルグも噂話を知っていたのか、少しぎこちない態度で受け答えをしていたが、そんな俺たちを気にする様子もなく、ウェダルフの父親は笑顔で自宅での話し合いを提案してきた。それを拒否なんて出来るはずもなく、なすすべなく俺たちは荷物を持ったままウェダルフが住む家へと向かった。
出迎えてくれたのは以前と同じお手伝いのお姉さんで、この間と何一つ変わらない笑顔で部屋へと案内する。一同きごちなく席に着き、ウェダルフを呼ぶため俺たちから離れた父親を、会話もなくひたすらに待った。なんだろう、何で今日になって話をしたいなんて言い出したんだ? 事件が解決に向かったから? いや、それとも俺達も亡き者に……。
思考がどんどんとマイナスに陥っていき、もう残されたては土下座しかないと覚悟をしたときだった。ぎぃぃ、という重厚感ある音と、二つの足音が俺たちの左後ろから聞こえて身を硬くする。
「皆様お待たせいたしました。息子がどうしても自分の口で話したいと言うので聞いてもらってもいいですか?」
真向かいのソファに腰掛け、そう穏やかに話す父親に俺たちは軽く息を吐いた。ウェダルフの口からなら、俺たちの死刑は宣告されない、という安心感は俺たちの気を緩ませるには十分だった。
「えぇっとね、ヒナタにぃにアルグにぃ……それとセズちゃん。僕も………僕を旅に連れて行ってください!」
予想外の発言に、とっさの一言が出ない。どうしてそうなったの??
「……というわけなんです、皆様。理由は私から詳しく説明いたしますが、どうか息子をお願いします」
親子揃って頭を下げる姿に、俺は慌てて二人の顔を見やる。二人とも吃驚はしていたが、俺を見る目は覚悟を決めており、後は俺の判断次第と言わんばかりだった。
「えー、っとですね……。俺としては寧ろ、俺なんかに大事な息子さんを預けていいのかなぁ、なんて思うんですが……なんで?」
混乱のあまり最後に本音が出てしまった。いや、でもこれは仕方がない。誰だってこうなるさ。
「ヒナタさんは何か勘違いされてます……。今回起きた誘拐事件、確かにトリガーは貴方だったかもしれないですが、でもそれは時期の問題だっただけで、いずれ息子は協会に奪われる……。そういう宿命を背負っていたんです」
ぽつりと零したウェダルフの父親は、俺たちに今回起きた騒動の発端を話してくれた。不思議な恋の物語を……
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