第38話密室事件
祝宴は大いに盛り上がり、酔っ払ったレイングさんに絡まれつつも、俺もセズも眠気が限界を迎えていた。これ以上女の子に無理をさせられないと、俺達は大人達にバレないようにこっそりと、先に帰ったウェダルフ親子に続いて帰ることに成功したのだった。
獣人の子達も、宴会会場から少し離れた寝室に戻っていったので、今いるのはソニムラガルオ連盟のメンバーとアルグのみで、帰らすにも皆酔っ払っており、エイナも嫌そうな顔をしつつも諦めていた。俺も酒は飲んでも飲まれないよう、飲める年齢になったら気をつけよう。
宿に戻ると、ある筈のないものが俺のベットに横たわっていた。それは見慣れた部屋に無造作に置かれており、もう戻る事はないだろうと諦めていた。
………ジェダスに奪われたはずのショルダーバックの不気味さに、最初は触ることすらもためらわれたが、なんの変化も起きないことを確認できた俺はおもむろにそれを手に取る。
いつもより軽いショルダーバックにまさかと思いつつも、中を確認すると、隕石だけが無くなっていた。誰が? とも考えたが、それ以上にどうやってこの部屋に入れたのかが疑問だった。
それというのも、この部屋は三階建ての宿の最上階にあり、もちろん窓や扉は鍵つきで、開いている気配もなかった。そんな基本的なことを確認し終えた俺は、とたんに背中からひやりとしたものが這い上がってくるが、ごく冷静な自分が待てと声を上げる。
たとえばだが、これがジェダスの仕業なら、隕石だけを持って言った理由も分からないし、俺が帰ってくるのを待つことだって可能だったはずだ。アルグも一緒の部屋とはいえ、一瞬の隙をついて攫う位なら容易に思える。となればもう一人……気になることを言って、地下から消えていったアカネがこの部屋に、わざわざ届けてくれたのだろうか? 隕石のことも気にしていた様だったし。
ともかく、だ。誰が入ったかも分からないこの部屋は、今危険に満ちており、避難をするためにも、隣のセズの部屋を軽くノックする。普段ならこんな夜遅く訪れる事がない為か、ドアの奥の方でセズの慌てた声が聞こえる。しまったな、とも思ったが、このままのこのこ部屋に戻って、居続ける訳にもいくまい。
「わっ、ええっと、ヒナタさんですか? ちょっと待ってくださいね!」
「あぁ、ごめんこんな夜遅くに。ちょっと問題? が起きたっぽくてさー……」
軽い調子で言ったのだが、セズには重く受け取られたようで、ガチャガチャと大きな音を立て扉が開かれる。
「えぇっ?! 何かあったんですかヒナタさん!!」
セズはすでに夜着に着替えていたようで、普段見ない格好に少しドキリとする。これはこれで良い……って! そんなことよりだ。
「なにか、というよりジェダスに奪われたはずの俺のバックが俺より先に帰宅してたんだ。鍵も開いてる様子がないから一応セズの部屋に避難してきたんだけど……寝るところだったのにごめんな」
「いえ! いいんです! ………良かった。ヒナタさんが私を頼ってくださって……。さぁ、ここでお話も他の方の迷惑になりますので、中で詳しいお話を聞かせてください!」
顔を綻ばせながら迎え入れるセズに、そこまで心配をかけていたのかと気付き、これまでの身勝手さに反省をする。アルグも言っていたが、仲間が頼ってくれないというのは、結局迷惑をかけることに繋がるのかもしれない。
おずおずと中に入り、部屋にある椅子に腰掛ける。内装は俺たちの部屋と変わりなく、だけれど女の子の部屋らしいほのかに花のにおいが部屋に漂っていた。何でだろうと辺りを見渡すと、窓には色とりどりの花が添えられており、手入れもきちんとされていた。なるほど……これが女子力というやつか。
「それでどんな状況だったか、詳しく聞いてもいいでしょうか?」
逸れていた思考がその一言で本題に戻され、俺もまじめに最初の状況から説明をした。勿論、アカネが隕石を気にしていたことも含めて。
「私も部屋にいって確認するのがいいような気もしますが、アルグさんが居ない今、それもヒナタさんを危険に曝すだけになりかねませんね。今日のところはこの部屋で休んで、明日はエイナさんの所へいきましょう。そのアカネさんという方が持っているかもしれませんし」
ん? なんかへんな言い回しをされたぞ、今。まるで知らない人のような言い回しに違和感を覚えたが、それ以上に色々遭った俺は、眠気で限界に近く頭が上手く回らなかった。まぁ、明日になれば分かる話だったので、俺は眠気でふらつく体を部屋から持ってきた、普段野宿で使う布を床に敷き眠りについた。
翌日はセズに揺り起こされ、アルグが待っているという俺の部屋に向かう。ノックをセズ扉を開けると、アルグが窓辺に立って色々調べていた。何か分かったのとでもあったのだろうか?
「おはよう、アルグ。何か分かったか?」
未だ覚めない目を擦りながら話しかけると、アルグはその手を休め、俺と向き合い答えてくれた。
「おはようアルグ。何かわかったか?」
「おはよう。……いんや、さっぱりわからないな。この部屋はバック以外はいじってないか?」
「そうだな……バックには金が入ってたんで、それだけは持ち歩いたけど、窓は確認のため近づいただけでいじってはない。ちなみに扉も俺が入る前から鍵が掛かっていた」
「……そうなると犯人は煙のようにこの部屋に入って、出て行くほかないだろうな。一応この宿にはそういった類の加護は使えないよう、対策がなされてるんだ。それらは協会の者であっても厳しいだろう」
そうなんか……それは初めて知ったな。毎回宿を選ぶのはアルグだったので、そんな事を考えて選んでいたとは知らされていなかったのだ。
「じゃあ犯人はそれ以外の方法で? たとえば無理やり鍵をこじ開けたとか、屋根から侵入したとか……」
「それを考えて無理に開けた痕跡を探しては見たが、全く見当たらなかった。屋根裏に行く方法はあったが、足跡一つ付いてもないからどちらも難しいだろうな」
アルグも同じことを考えていたってワケか……。でもそうなると益々この事件は難解だ。密室事件に近いこの謎……ここでうんうんと考えても分かるわけがない。さて、どうしようかと次を考えあぐねていたら、アルグが意外な解決案を言ってきた。
「というわけで、ヒナタ。次の宿は取っておいたから早く荷物をまとめて行くぞ。セズはもうそこで待ってる」
「へ? 次の宿?? そんなのいつの間に……」
「俺が帰って直ぐだ。あんなことあったんだから、ここにいつまでも居られないだろう?」
そんな事をいわれ俺もそりゃそうか、と納得した。謎解きよりも優先されるのは身の安全で、謎なんて正直な話解決されなくともいいのだ。隕石さえ見つけて、この街を後にすれば身の危険はなくなるのだから。
……でもちょっとガッカリもした。そりゃこんな密室事件のような事なんて、そうそう出くわすものじゃないので、実際起きてみると自分のことながら、好奇心はうずくのは当然に思える。地球に居た頃は結構な冊数の推理小説も読んでいたので、こんな解決法はあんまりだ……。
俺の萎んでしまった探偵魂を奥底にしまい、もそもそと自分の荷物を片付けていく。そういえば何故、隕石だけが無くなっていたのだろうか? 一緒に入っていた現金は丸々無事なのに、隕石を盗んだ理由……。犯人はこの隕石の価値を知っていて盗んだと考えるのが妥当だろう。となれば隕石はすでに売られてしまった可能性もある訳か。なんにせよアカネに会って聞いてみない事には分からない。
そこまでない荷物を手早くまとめた俺は、アルグの案内によってここから離れた場所にある、さっきの宿屋よりも幾段か高そうな宿へと足を踏み入れた。
「なぁ、アルグ……。ここさっきよりも高そうだけど大丈夫なのか?」
不安になり情けない事を聞く俺に、アルグは振り向かず答えた。
「そうだな、確かに先程の宿より高いがここは商業都市だ。賃金の良い仕事なんざ幾らでもある。三、四日働けばどうにでもなるだろう」
相変わらず男らしいな、アルグ! それはそうだと気付いた俺は、早々と部屋を後にしてエイナのところへ向かった。隕石の事を聞いたらすぐにでも仕事を探して金を稼がねば……!
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