第33話繋がる点と点




 ——ここ最近、ヒナタと話すことが少なくなった。というのも、ヒナタには俺にも言えない秘密があるようだった。でも、それはオレだって同じなはずなのに、なぜかどうしようもなくそのことが苛立って仕方がない。その結果、ヒナタを避けるような行動に走っているのは自身でもわかっていた。

 自分勝手なことだとは十分承知している。だけれどヒナタのその行動が、オレのやり直したい思い出と被ってどうしようもないのだ。また同じ事を繰り返しているようでもやもやする。


 オレはここ数日と同じように、街へ出かけ人々に話を聞く。ここシェメイに来る前に聞いた、オレと同じ姿の男を探して子供お年寄り関わらず聞きまくっているのに、一向に成果を挙げられない事に半ば諦めかけていた。そんな中、耳を掠めたとある噂話。


 「そうそう、聞きました奥さん?! なんでもたった今、シェメイ議会員のご子息が、なんと街の過激派組織に誘拐されたそうですよ! しかもその組織が街でも一等地にある、あの有名なカフェを拠点にしてたそうで……」


 以前のオレなら気になりもしなかった話題だったが、このときは何故か耳から離れず、野次馬よろしく、その場所に赴いてしまうほどだった。なんでも首を突っ込んではお節介を焼くヒナタの影響だろう、そう考えると自然に笑みがこぼれてしまう。あいつがいつもいってた、なんだったか……そう『イチニチイチゼン』とかいうやつだ。

 最初の頃は到底理解が出来ない行動だったのに、今やそれをしないヒナタに、寧ろ違和感さえ覚えるほどオレにも馴染んできていた。


 噂されているカフェには人が群がっており、どうやら先程の噂は本当だったようだ。カフェの入り口には協会の犬である、監察が二、三名程おり店主と言い争っていた。まだ入り口で済んでいるが、それも時間の問題だろう、直ぐにやつらは店に押し入り、滅茶苦茶な言い分でもってその"過激派組織"とやらを一網打尽にしてしまう。

 オレにはどうすることも出来ない。そう判断し、その場を去ろうと目線を逸らしたときだった。オレのことを熱心に見つめる目があることに気がついた。

 なんだと思うまもなく、その目はオレの背後にすばやく近づき、周りが聞こえない程度の声音で、着いて来いと一言、短く発する。魔属と知ってなおもそう告げる、そいつらの狙いが気になったオレは、大人しく着いて行く。案内されたのは人気のない裏路地で、そこには案内した男のほかに三人の男女がオレを待っていた。


 「乱暴な申し出をして申し訳ありません。貴方はご存じないと思いますが、詳しい説明も今惜しい状況なのです。ずいぶん勝手なお願いだと理解したうえで、ヒナタの仲間であるあなたにお願いがあります。我々の同志であるヒナタを、どうか此処に呼んできてくれませんか」


 そう焦った様に話すエルフの男に嘘は感じられず、仲間と思しきエルフたちも一斉に頭を下げるので、それくらいなら大丈夫だろうと判断し、ヒナタを呼ぶため宿へ一旦帰ることにした。万が一何かあっても、俺がいれば守れるとも思ったのだ。

 宿に帰る道中、慣れた気配がしあたりを見渡すと、違う裏道からセズともう一人違う誰かが、こっちに向かってくるのに気付く。セズもオレに気付いたようで、隣にいたセズと同い年くらいの獣人の嬢ちゃんに話しかけていた。そのあとオレに用件を話すセズ。


 「アルグさん! ちょうど良かったです、ヒナタさん見かけませんでしたか?! 緊急のお話があるんです!」


 こちらも慌てた様子でそんな事をいうもんだから、オレもただ事じゃないことに気付く。セズを落ち着かせる意味でも、オレもヒナタを探していると短く伝え、ヒナタと合流するため急ぎ宿へと向かうのであった——





**********************




 「……ッくそ‼︎ 約束したのに!!!」


 最悪の事態を目の当たりにした俺は、事態の把握とウェダルフを捜索する為、急ぎ宿に向かった。今頼れるのはアルグやセズしかいないと思ったのだ。獣人の子が犯人なら普通の……何の力も持たない、役立たずの神様である俺では太刀打ちなんて出来ない。あれだけウェダルフの父親に言われたのに、目の前で攫われ、なにも出来なかった自分が情けない。

 でも今はそれを後悔している暇なんかない。犯人の目的が分からない以上、ウェダルフの安全も保障なんてされていないのだから。


 息を切らし宿に帰ると、そこにいたのは意外な組み合わせだった。というより犯人の親玉がそこにいたのだ。


 「アルグにセズに……なんでエイナまで? あれは君の指示じゃないのか? ……それよりっ! たった今ウェダルフが攫われて……ッ!!」


 大慌てで早口にそう告げると、エイナとセズが苦い顔をする。エイナがここに居る事と何か関係がありそうだ。だけど俺のこの言葉に反応を示したのはアルグだった。


 「ん? ウェダルフってもしかして議員のご子息か? 今街中の噂になってるぞ、過激派組織が誘拐したとかなんとかで、街のど真ん中のカフェが摘発を受けていた」


 「ハァ?!! ……だとしたらおかしい! 攫われてそんなに経ってないし、第一攫ったのは獣人の……ッ!?」


 そこまでいって俺はある考えに行き着く。もしかして今回の事件はただの誘拐事件じゃなくもっと別の意図がある……?


 「それと関係があると思うんだがヒナタ。……お前を探しているというエルフに会ったんだが、何か心当たりあるか? オレと同じくらいの年で身なりが整った優男だが……」


 「俺が最近知り合った中で思い当たるのは、レイングさんだけど……何でアルグにそんな事を?」


 「さぁ? そこまで聞ける雰囲気じゃなかったし、第一相手さんも相当慌てた様子だったから、緊急を要することだろうな」


 ウェダルフの誘拐に続き、ソニムラガルオ連盟のレイングさんにも何か起きた……? それにアルグが一番最初に言っていた街のど真ん中のカフェってまさか……本部のことか?!

 ソニムラガルオ連盟がウェダルフの誘拐を企て、瞬く間に協会の監察にばれた……なんて、幾らなんでもそれは無理があるし、誘拐が分かったのならまずするべきは、攫われたこの身柄確保だろう! そこから考えても今回の犯人は明白だ。あとは何故獣人の子がそれに加担したかという事だけ。


 「エイナ、君がここにいる理由はなんとなく理解した。けれど君の口からも聞かせてくれないか? 今回の事の顛末を……」


 苦虫を噛んだような顔で静かに頷くエイナ。ただここだと色々駄々漏れなので、秘密話には持って来いのエイナたち、灰色の兄弟の根城で全てを話すことに。でもその前にレイングさんたちに会って、話をしなくてはいけない。



 アルグの案内で、レイングさんたちがいる裏路地へたどり着くと、そこにはレイングさんの他に、ティーナさんとウェールさんが俺のことを待っていた。その中に彼の姿はない。


 「ヒナタッ! あぁ、よかった!! 君にまで何かあったら我々はどうしようかと思っていたのだ!!! この街の騒動はご存知かな? それについて話したいことがあるんだ」


 「俺もそれについてお話したいことがあります。とりあえず此処ではいずれ捕まってしまうので、俺たちのあとに着いて来てください」


 こうして一言も会話をすることなく、エイナの案内で黙々と地下を進む。この間は真っ暗で進むことが困難だった通路は、ティーナさんの光の種属の加護のおかげで、こける事無く進むことが出来た。


 歩いて数分。獣人の子供達のたまり場だった、光が差す円形の広場は昨日とは打って変わり、誰一人としてその場にはいなかった。それどころか賑やかだった声すらも聞こえない。



 「他のやつらはもうすでに食堂に集まってる。そこであんたらの聞きたいこと……全部話してやるよ」

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