第31話久しぶりの俺と不穏な影
「強気で来たわりにはなんじゃそりゃ……。ちゃんとした提案もなしに俺たちと渡り合おうと思ってたなんてな……。呆れた馬鹿どもだが、それで 街を変えられるってんなら………乗ってやるよ。ただし期限は一週間だ。それ以上は待たない」
意外なエイナの反応に、エゼルとシーラは身を乗り出し声を荒げた。
「ちょっと!!? エイナ様何考えてるんです?! こんなやつらが街を変えるなんて、嘘っぱちに決まってます。即刻この場で仕留めるべきです!!」
「そうだぜエイナ様!! エゼルさんの言うとおり、こいつらどうせリンリア協会の手のものに決まってる! このまま帰したら俺たち一網打尽にされちまうだけだよ!!」
言いたい放題だが、この二人の言うことはもっともで、むしろなぜエイナは俺の提案を受ける気になったのかの方が謎だ。本当にエイナという女の子はカリスマ性にとんだ性格をしている。
それを証明するかのように、二人の喧々とした声を制したのは先程まで黙って聞いていたイールだった。
「シーラにエゼル、お前達がエイナ様が決めたことにけちをつけるつもりか? お前達、エイナ様の考えが分かっての発言なんだろうな?」
そう低い声音で話すイールに、びくりと肩を揺らす二人。彼もまた副リーダーとして必要な気質を持ち合わせている。灰色の兄弟というグループは、暴走がちのエゼルとシーラを引っ張る存在として、カリスマ性あふれるエイナがおり、彼女の多少短気なところを上手くコントロールしているのが、冷静さと規律を重んじるイールで、彼はこの三人のブレーキ的役割も果たしているのだろう。
「それは……ですが、私達だって考えなしに言っているわけじゃ……」
「灰色の兄弟のルールはリーダーの決定には従うこと。それが出来ないのなら抜けてもらうだけだ」
そう端的に告げるイールに、エゼルも押し黙ってしまう。こうして俺たちの話し合いは終わり、ずっと沈黙したままで一言も喋ることがなかったアカネが、帰りの地下道を案内すると提案してくれた。後ろにはエイナがおり、少しだけだったがウェダルフとも話すようになっていた。
アカネは喋るのが苦手と最初に宣言しただけあり、終始喋ることがなかったが、この子は俺たちのアイディアに不服不満はなかったのだろうか? そのことが気になった俺は無駄かと思ったが話しかけてみることにした。
「アカネだっけ……君は話し合いには何も言ってなかったけど、俺たちに聞きたいこととか話したいことはなかったのかな?」
暗闇のなかで聞いたので相手の反応は見えなかったが、足音のリズムは変わる事無く先に進んでいたので、返事は期待できそうになかった。
「……。今、貴方が成そうとしていること、それは誰のためですか?」
不意打ち気味に言われ、っへ、という情けない言葉が漏れてしまう。
「貴方には力がある。でもそれは一つ間違えれば破壊にも繋がる力。そしてその力は記憶によって異なるとしたら、貴方が選ぶ人や選択はとても重要」
益々訳のわからない事を言われ、頭の中ははてなが飛び交ってしまう俺。何を言っているのか訳が分からず、聞き返す言葉も出ない。俺の力に記憶? まさかとは思うが、この子は俺の正体に何か気付いてこんなことを言っているのだろうか?
「君は何を……」
何を知っているのかについて聞こうと口を開いたが、運悪く出口にたどり着いてしまい、続きを聞くことはかなわなかった。そんなに長く話し合いをしたのだろうか? 外はすっかり夕方になっており、あと数分もすれば完全に日も落ち、すぐ暗闇に包まれるだろう時間になっていた。
案内役のアカネは、俺たちのお礼の言葉には反応を示さず、何も映さない瞳で右上を見上げていた。俺もそれがなんだか気になってしまい、無意識にそちらへ顔を向ける。
「ヒナタさんもアカネさんも何を見ていらっしゃるんですか?」
セズも俺たちの様子が気になったのか、ウェダルフとエイナとの会話から抜け、近づいてきたその時だった。アカネがいる側から温かい感触がして、そちらを見ると彼女の手が俺の腕を掴んでいた。
「青いウサギが動き出した。今のままでは貴方は負けてしまうわ。だけど忘れないで……貴方にはたくさんの味方がいる。それは赤鬼も例外じゃないはずよ」
温かいアカネの手のひらは一瞬で離れてゆき、エイナのそばへと帰っていく。なんだったのだろうか? そう考える前にぐらりと眩暈がし、両膝をついてしまう。なんだと思う間もなく、セズも慌てた様子で頭に覆い被さり尚の事混乱する俺。
「ヒナタさん?! ……ッどうしましょう! また姿が変わって元のヒナタさんに!! ウェダ君には見えなかったとは思いますが気配があやふやになってます! 何か、何か隠す布は持っていませんか!?」
セズに言われ俺も頭を触り確認すると、確かに元の俺の髪型に戻っていた。俺は大慌ててショルダーバックから、この時のために持っていた布を引っ張り出し頭に巻きつけた。そんな俺たちの変化に、ウェダルフもエイナと別れ俺に駆け寄ってきた。
「どうしたのヒナタにぃ!? もしかして具合悪いの……?」
心配そうに俺を見下ろすウェダルフに、俺たちは慌てて立ち上がりセズが俺の代わりに答えてくれた。
「そうみたいなんです! なので今日はここでウェダ君とお別れしてもよろしいでしょうか?!」
俺は俯いたまま頭を縦に振ると、それをいいように勘違いしてくれたのか、心配そうに分かったと言って先に帰って貰った。その後ろ姿を見守った後、俺たちも極力人に見つからないように気を遣いながら、裏道を使いながら宿へと帰っていった。
宿に戻ると、今朝方約束したとおり、アルグが部屋で待っており、慌てた様子で部屋に駆け込んだ俺たちの様子に、勘のいいアルグはすぐさま異変に気がついて、俺に駆け寄って頭を覆っていた布を剥いでしまう。
だがその反応は意外なもので、アルグは勿論、セズも俺の変化に目を丸くしていた。それもそのはずだ。なにせまた姿がエルフに変わっていたのだから。再び顔にかかる長い髪が、確認するまでもなく俺にそれを伝えており、俺はなにがなにやらもう分からない。
「なんだ、ヒナタたちが慌てて入ってくるもんだから、何かあったのかと思ったぜ。確かに気配がいつもよりあやふやな感じはするが、姿は安定してるからとりあえず飯にはいけそうだな」
冷静に言われた俺たちはとりあえず頷くしかなかった。もう何がなんだか分からない。起きたことを考えるにも今日は色々ありすぎて、頭がショート寸前だ。それはセズも同じだったのだろう、ボケッとしたままアルグの後をついて行く姿は、ヒヨコのように従順だった。
考えるのはまた明日にして、今日はたくさんご飯を食べてもう寝てしまおう……
そんな事を能天気に考えていた俺の裏で、リンリア協会が怪しく蠢き始めていた。
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「憎きウサギの言うことなんぞ聞く気もなかったが、確かに今感じた気配は聞いていたそれと同じ……。だがまさかお前が張っていた所からそれが出てくるとは……褒美は期待しておくといい」
白い装束をまとった初老の男性が、厳かにそばで傅く男へそう告げる。初老の男性よりも簡素になっている、白い装束をまとった男は顔を下に向けたまま淡々と報告を続ける。
「ッは!! それと……以前から目障りだった獣人たちもそれに利用できそうですので、近々にでも仕掛けていこうかと思っております。上手くいったら連盟も獣人も、そして神でさえも一掃出来ることでしょう……」
その言葉を聞いた初老の男性は満足げに空を見上げ、教本をパタリと閉じる。その顔は司祭にはあるまじき笑みを浮かべており、人の欲深さが目に宿っていた。それを全ての感情を削ぎ落とした表情で見つめている監察の男は、ヒナタもよく知っているソニムラガルオ連盟の"ユダ"であった。
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