第30話画期的なアイデア




 まずはじめに口を開いたのは言いだしっぺの俺で、刺さる目線の中で、当たり障りの無い紹介を済ませた。ボケをかまそうとも思ったが相手側、特にエイナの目線が射殺ぜるんじゃというぐらい睨まれ断念した。

 続いてセズの愛らしい、どもりながらの紹介とウェダルフの名前と性別だけの手短な紹介が終わり、いよいよ獣人側となった。


 「ふーん、お前らが奇人変人の集まりってのはよーくわかった。じゃあ次は俺らだな。俺はエイナ。俺たち灰色の兄弟のリーダーで狩猟担当でもある。女だからって舐めてんじゃねえぞ?」


 「「「……ンェッ?!!!」」」


 三人同時に声が上がる。いや、ウェダルフお前ってやつは……! 最初に聞いとくべきだろ、それは!! ウェダルフが男だっていうから、俺たちもてっきりそうなのかと思っちゃったジャン!? っぶねぇ、知らずに言ってたらどうなってた事やら……!


 「エイナって……男の子じゃなかったのっ……?!」


 ウェダルフ~?!! 何であえて聞いちゃうかな?! スルーしとこ? そこはスルーしとくべきでしょ!?


 「あぁん?! ウェダルフお前まさか……俺がいつ、男だっておまえにいったよ? ったく、だからいつも……」


 そう言ったきり、顔をそらして頭をガシガシとかくエイナ。隠すつもりで頭をかいているのだろうが、ちらりと見える顔は赤く染まっており、なにやら勘ぐりたくなってしまう。あれあれ~?? もしかして……もしかするのか?

 思わずにやついてしまう俺を目ざとく見つけたエイナは、ヤンキーの如くメンチを利かせてきた。いや、気付いてしまった後のそれは照れ隠しでしかないよ、エイナちゃん!


 「次だ次っ!! これ以上の無駄話はゆるさねぇぞ、お前ら!」


 その掛け声に無言で頷くイールという少年。頭は鷲のようになっており、表情が読めないミステリアスな雰囲気をかもしていた。その隣には小さな少年が、唸りながら俺たちを睨んでいた。


 「俺は灰色の兄弟の副リーダで、連絡と狩猟を担当している。この隣にいるのは血のつながった俺の弟、シーラだ。俺は弟より血が濃いが、能力の扱いが下手なためこんな姿になっている。気にしないでくれ」


 「俺はシーラ!! お前ら昨日からしつこいんだよ! どうせ俺たちのことなんてどうでもいいって思ってるくせに、善人ぶりやがって!! エイナ様も何でこんな奴等の話を聞こうだなんていうんだ」


 てっきりイールがさっきの大鷲だと勘違いしたが、どうやら弟くんの方だったらしく、イールの言う通り、彼は普通の男の子に見えるが、警戒心が半端なく全身でそれを表していた。捨て台詞のような事を言った後も、話す気がないのか体ごと横のそらして俺たちを見ようともしていなかった。その様子を利発そうな女の子がやれやれと顔を横に振り俺たちを一瞥した。


 「私はエゼルといいます。灰色の兄弟のブレーンで、下の子達の指導を担当しております。エイナ様のため、今回の話し合いが有意義なものになるよう、お互い頑張ってゆけたらと思っております」


 頭を軽く下げるエゼルは、ブレーンにふさわしい知的さを俺たちに見せ付けてきた。本音と建前が違うのは火を見るより明らかなのに、決してそれを表に出さないのには感心する。

 最後に残った子に目をやると、先程から俺を見つめていたのか、目がばっちりとあってしまう。それにそわつく俺だが、相手の女の子はそれでも目をそらさず、なにか……俺の内面を探るようなまなざしをぶつけてくる、不思議な印象の子だった。意識しなければ視認出来なくなるような危うさが、猫より大きな耳の女の子にはあった。



 「私はアカネ。灰色の兄弟では調理担当をしてる。狩るのも喋るも苦手。よろしく……」


 一通り自己紹介が終わり、いよいよ本題へと突入する。さてこれからが俺の本領発揮だろう。この異世界にきて散々先延ばしプレイをしてきたんだ、頑張るしかない!


 「それで? お前らの言う、みんなと一緒なら変えられることってなんなんだ? まさか口からでまかせって訳じゃあないよな……?」


 凄むエイナにたじろぐセズ。そのまま俺に目線をずらすセズに俺は、でまかせだが自信ありげに頷き返す。こういうときは動揺せずポーカーフェイスでいることが大切だ。


 「まず俺たちの案を言う前に、確認したいことがいくつかある。まずは灰色の兄弟のメンバー数を知りたい。それと君達が何を得意にするのか、それも教えてもらえれば助かる」


 「それは敵勢調査ということですか? はっきり言いますが、私はあなた達の事はエイナ様が話すといったから少しばかりの譲歩をしているのです。内部を知りたいというのはただ危険にさらすだけの行為に他ならない。それをしって如何するおつもりですか?」


 当然警戒されたが、知らないで話すのと知ってから話すのとでは提案の違いが出てくるので、俺もそこは負けていられない。


 「それはごもっともだ。情報は何時いかなる時も武器となるしな。だからだ、俺からも君達が知りたい情報を明け渡す。情報交換ならそっちに不利益はないだろ?」


 もっとも、彼らが知りたい情報を持っていればの話だけれど。


 「……じゃあ先にお前らが俺たちの質問に答えろ。じゃなかったら俺たちの話し合いはしまいだ」


 「わかった、俺たちが先に答える。それで君達の質問は何かな?」


 正直……先にという条件は痛いが、なしになっては意味がない。そう思い、彼らの話し合いを待つと、質問してきたのはブレーンを名乗るエゼルからだった。


 「では私から……。あなた達は最近シェメイに来たといってましたが、"監察"に会った事はありますか?」


 「監察ってリンリア教会のやつってことか? いや、俺には思い当たる節はないが……」


 「私もないですね。ここでの知り合いはウェダ君だけです」


 俺たち二人には覚えがない話だったが、ウェダルフは下を向きかすかに震えていた。


 「僕は、もしかしたらあるかも知れない……。でも確かじゃないし、可能性があるって言うだけで……」


 出生のことといい、ウェダルフの親父さんの前の発言といい、もしかしたらウェダルフは協会から狙われているのか? だけどそれはエイナも恐らく気付いているのだろう、なぜわざわざそんな事を聞いてきたのか真意が読めない。


 「ふーん、まぁいいさ。どのみちお前らには分からないだろうと思ってたからな。まぁ、知りたいことは知れたし、俺もそれなりで応えようか。それで……お前らの質問は人数と得意なことね。……イール」


 「はい、俺たち灰色の兄弟は今ここにいる5人を中心とした、全11人となってます。得意なことはそれぞれ違うのですが、獣人という気質上モンスターに変身するものや、それと同等の身体能力が備わっております。中にはモンスターを手懐けるのを得意にしている子が何人か……」


 ほうほう、成る程ね。皆が変身出来るってわけではないのね。しかもモンスターを手懐けるって……超RPG的能力だな! 俺も神様ならそんな感じの能力入らないかな……?


 「で、お前の案ってどんなんなんだ? お互い腹割って話してんだから、ましなもんじゃなかったら許さねぇぞ」


 「オッケー、こっちも判断するに材料が足りなかったんでね。まぁ悪いようにはしないから安心して欲しい。それで俺の案というのが……」


 どうしよう……。案って言う案はないので、ここで溜めるしかない。なにかないかな、こー、最近起きた出来事でなにか案に繋がるものはなにか……

 うーん…………いや、やっぱり正直に言おう!


 「ごめん、実を言うと案なんてないんだ。だけど勘違いしてほしくないのは、俺達も君達と一緒にこの街を変えたいと考えているんだ。そしてそれは今、ここにいる俺たち以外のエルフのなかにだっている。だから……すこしだけ俺たちに時間をくれないか? もしかしたら街を変えるかもしれない、そんなアイデアがあるんだ」



 ——出会いは人を変え、街をも変える。そんな画期的なアイデアが——

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