第27話嵐の前の静けさ
レイングに連れられ、先程手伝いをしたカフェの地下へと案内される。地下は地下でバーとして経営しているのか、お酒が数多く並んでおり、そこにいた20人前後の男女が俺たちを一斉に見てきた。
そのなかでも目立つ容姿の女性がレイングを見るなり、怒った様子で駆け寄りレイングに説教を始める。
「もうっ!! 今日は会合だって言ったのはあなたなのに、どれだけ人を待たせる気なの?! あなた一応ここのリーダーなんだから、一人で行動は危険だからよしてってあれだけ……」
そういって俺に目線をずらす快活な印象の女性。高い位置でまとめた髪と涼しげな目元が知的美人感をかもし出している。そのちょっとのことでは動揺しなさそうなクールな眼差しが、俺を見た瞬間、大きく開かれレイングに詰める。
「お客様がいたのなら先に言ってほしいわ……!! おほん、先程は失礼を。私はティーナと申します、ソニムラガルオ連盟の副リーダー的役割をしております。どうぞお見知りおきを」
「あ、よろしくお願いします。おれは旅をしているヒナタって言います」
薄い笑みを浮かべこちらこそ、というティーナさんの笑顔にドキッっと胸が高鳴るが、レイングとの雰囲気を見るにこの二人は恋人同士であろうことは一目瞭然だ。残念、せっかく好みのタイプだったのに彼氏もちとは……
ソニムラガルオ連盟には他にも、宝石商を営んでいるたれ目でホクロ、そして片メガネというトリプルコンボのウェールさんに、先程レイングさんを呼びに来た医者の卵でぱっつん前髪のジェダスさん、他にもハンターの人やライターなんていう人もいたが、いっきに紹介されても覚え切れそうに無かった。
ちなみにレイングさんはなんとびっくり、街一番の商家生まれで三男坊というどこの乙女ゲームの設定かという感じで、イケメン人当たりもよしというハイスペックぶり。そして学校の先生で歴史学者という経歴のクール美人ティーナさんとは恋仲。もはや嫉妬すら生まれない。
自己紹介が一通り済み、本題だった会合がなぜか俺も同席で行われた。完全よそ者だったので、一旦は断ったが、レイングさんが是非ヒナタも聞いてほしいといわれ、なるべく邪魔にならない端のほうで聞くこととなった。
若手の商業組合みたいなものかと思っていたが、実際のところソニムラガルオ連盟は連盟の皮をかぶった、現体制に対しての反乱組織の様相を呈していた。レジスタンスというよりは、現在シェメイの経済は現在、上位の商家が協会幹部と繋がっており、協会の意思一つでどんなに金を持った、昔ながらの家柄でさえも潰されかねない状況にあるという。
議会制で王を持たないシェメイだが、その議会出席者である貴族の大半は貴族ではない商家と繋がりがあり、この国は協会の幹部数人が治めているに等しいらしい。それが正しい方法と公平さをもって動いているなら何の反論もあがらないが、なかなかどうして……権力というものは人を歪ませてしまうらしい。私欲で動く協会の幹部たちにより、彼ら若手は食いものにされるのか消されるか……それとも従うかの三択らしい。
それに対しての反乱として、ソニムラガルオ連盟は結成され、より公平性を求めて自分たち独自の商業発展を考える場として、カフェの地下で話しているとのことだった。
何故地下なのかというと、大抵のエルフの監察は風の種属を頼りなので、地下ならいくらかそれが防げるらしく、地下は秘密を共有するにはもってこいの場所だと、レイングさんは話してくれた。そんなこんなで俺がこの場に呼ばれたのは、俺の旅した話の中に何か役に立つ知識や情報があるのではないか、そう考えたうえで、人のためあれこれ動いていた俺なら変な事にならないだろうと、そうレイングは笑ってメンバーに伝える。
俺もこの国の現状を芳しく思っていはいなかった為、時間を忘れカフェの店主が声をかけるまで話し合いは続いた。
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久しぶりの地上は日も傾いており、夕日があたりを染めていた。そろそろセズも宿に戻っている頃だろうと思い、俺は人気の少なくなった道を歩いていた。両手には野菜がたくさん入った袋を持っていたため、足元を駆けていく子供に寸前まで気付かず、気づいた頃にはぶつかる寸前でよろけてしまう。
その拍子に袋に入ったりんごのような赤い身の果物を転がしてしまい拾おうと屈むと、コントのように袋の中身を次々こぼす。周りには誰もいないとはいえ、どじすぎる俺の行動に恥ずかしくなり早くこの場を離れるため、顔を俯かせたまま次々拾い集める。
ひょこん、と俺の目の前にウサギの着ぐるみのような手が差し出され驚いた俺は後ろへよろめく。その手には先程の果物が乗っており、顔を徐々に上に向けるとそこには可愛らしい、でもどこかで見たことのあるような男の子が立っていた。
服装はフリフリとした、一見すると女の子のような可愛らしい服を着ており、斜めに被られている帽子にはウサギの耳がついていた。その男の子は俺を見てにこりと笑い、袋にその果物を突っ込んだ。
「あ、ありがとう。ははっ……恥ずかしいところ見られちゃった、かな?」
頭をガシガシとかき照れ隠しをする俺を、その男の子はくすくすとひとしきり笑った後、なにも言わずに手を振って裏道へと走り去ってしまった。なんだったんだ、今の子? えらい美少年だったけど、どっかで見た事あるような……。
んー、まぁ、思いつかないしもう会うことも無いから気にしないようにしよう。
俺は頭を切り替え、再び大荷物を抱え宿へと帰ったのだった。
宿にはセズのほかにも、ウェダルフが俺の帰りを待っており、仲良くなったはずなのになんだか改まった雰囲気があたりに漂う。二人とももじもじと俺の顔色を窺っており、そんなおかしな雰囲気に頭にはてなマークを浮かべつつ、取りあえずウェダルフも交え食事に向かう。
「さっきから二人ともどうしたんだ? なにか話したいことでも……」
「あぅぅえっと……それはお食事のときにでもお話したいなと」
ウェダルフが上目遣いでそんな事を言ってくる。可愛らしさで押し切られた俺はそれ以上は聞けず、会話も無いまま料理屋に着き、向き合う形で座った俺たちはそれぞれ注文し料理を待った。
「それで、改めて二人の話を聞いてもいいか?」
「えぇっとね、今日セズちゃんと話をしてヒナタにぃに相談するのがやっぱり一番いいってことなんだけど……前話したエイナの事覚えてる?」
ヒナタにぃは以前の話のとき、そう呼んでもいいかと聞かれて以来、今初めて呼ばれたのだが……、いいな! 妹もそう呼んではいたが、何時も憎らしげに呼ぶので邪気がひどいのだ。イヤイヤ呼んでやってるんだ感半端なかったけど、ウェダルフのは実に可愛い、妹にしたいほどだ。
「あぁ、勿論覚えてるぞ。エイナとケンカしたんだっけか? あの時は詳しく聞けなかったけど、それについて何か聞きたいことがあるのか?」
「そう……それがね、なんでそうなったか僕にも分からなくて……だから今日もセズちゃんと一緒に行ってみたんだけど、やっぱり話も聞いてもらえないまま終わっちゃったんだ……」
自分で言ってその事に落ち込んできたのか、段々と顔が下向きになり目には涙がたまっていた。その様子を見てセズが続きを代弁してくれた。
「私もお話してみようと頑張ってみたのですが、相手は聞く耳を持ってくれないのです。ウェダくんは嫌われたんだ、なんて言ってますが私にはそうは見えなかったんです……」
「なるほどな、それで俺もエイナと直接会って、どんな感じなのか確かめてほしいってことか。何が出来るかは分からないけど、俺もその子達とは話してみたいとは思ってたんだ」
「ヒナタにぃ、ありがとう……! えへへ、みんなでご飯ってこんなに美味しいんだね! 僕初めてだからうれしいなぁ!!」
今日もアルグはいない。だけどその穴を埋めるようにウェダルフが終始楽しく会話をしてくれたのは、俺たちにとって救いだった。
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