第28話俺の後悔と話し合い
楽しかった食事はあっという間に終わりを告げ、ウェダルフを家まで送るため、俺たちは夜道を三人で歩いていた。街灯はないが、あたりには不思議な光が足元に散らばっており俺たちの行くべき道を照らしていた。
ウェダルフは夜に出歩くことが無かったようで、俺たち以上にはしゃげており楽しそうにセズと話していた。会ったばかりの二人だったが、昔からの友達のようにセズちゃん、ウェダ君と呼び合っていた。
ウェダルフの家は予想外に豪邸で、その玄関前には30歳後半の男性が顔を青ざめ、うろうろと歩き回っていた。恐らく父親であろう男性は、俺たちを見つけるなり目を怒らせながら駆け寄り、守るように俺たちからウェダルフを引き離した。
その反応から親御さんに挨拶もなしにご飯はまずかったな、とよぎったが思わぬ答えが俺たちに投げかけられた。
「私の子供が何者か分かっての行動かね、君たち……」
「え? ウェダルフくんですよね? 何者かは知らなかったですが、やっぱりご挨拶もなしにお食事は失礼でしたよね……すみませんでした」
頭を下げ自分たちの非礼をわびると、ウェダルフの父は小さく俺たちに聞かせるつもりの無い一言を呟いた。
「……なんだ、協会の手の者じゃないのか……」
本当に小さかったので確信はないが、確かに協会という単語は言っていた。どういうことだ? ウェダルフが協会に狙われる理由が何かあるのだろうか。確かにウェダルフの話の節々に、普通の子供とは違う違和感があったが、それが協会に狙われてるがゆえに起こることなんだと考えたら腑に落ちる。
「俺……というより隣にいる旅の仲間のセズが、ウェダルフ君と最近仲良くなって、今日も一緒に遊んでいたついでにご飯を一緒にしたんです。俺もちゃんと親御さんにお伝えしたのか確認不足でしたが、どうかこれからも仲良くさせていただきたのですが……やはり難しいでしょうか?」
俺のお願いにちらりと息子をみて、何かを考えるウェダルフの父を固唾を呑んで見つめるセズ。その二人の無言のお願いに根負けしたのか、ため息を深くついたのち、俺に語りかける。
「……息子は諸事情により、昔から人との触れ合いなく育ってきました。それが今回、自らこんな行動をするとは……。二人を今、無理やり引き離してもそれは息子のためにならない。なのでこれからは必ず、あなたとセットで行動するようにしてください。決して息子を一人にしないと誓ってくださるのなら、私も折れましょう」
最大限の譲歩の言葉に、二人は手をつなぎ喜び合った。その姿を横目に俺もウェダルフの父親に向き合い、必ず一緒に行動することを誓った。
**********************
翌日、俺は普段よりも早く目を覚ます。それというのも昨日から全然会えていないアルグと、きちんと話をする為であり、このまま知らんぷりで進めると戻れなくなってしまう。そんな予感がしたのだ。
まだ眠気が残る目を何度か瞬き、無理やり体を起こす。隣を見るとアルグが背中を向けて寝ているが、ただ寝息は聞こえないので恐らく横になっているだけのようだった。
「……アルグ、起きてるんだろう? 最近まともに会えてないけどご飯ちゃんと食べてるのか?」
まず気になったことを俺は素直に口にした。なんとなくのイメージでしかないが、アルグは自分の事には基本、不精ぎみで俺達がいたから毎日きちんと食事していたように思えたのだ。
その考えが見事的中したのか、アルグもこちらに向き体を起こす。
「俺のことはどうでもいいだろう。俺達魔族はほかの種属とは違い毎日腹が減るわけじゃない。魔族によっては年に一度だけ食事する者だっているくらいだからな……」
「そうはいっても……アルグはそれとは違うだろう? でなければ毎回、料理屋で大量の注文なんかしないだろう。俺の事が気に食わないのならそれでもいいけど、自分のことをおなざりにはしないでくれ……。俺も、セズだって心配する」
俺がそう告げるとアルグは一瞬悲しそうに顔を歪めた。その表情に俺も苦い思いが広がるが、ここで引くわけにはいかない。
「そんなのはオレも……ッッ! いや、それはすまなかった。今度からは一緒に夕飯を食べるから、何をしているのかについて今は聞かないでくれ。オレも、お前の事を探ったりしないから……」
目線をそらし声を硬くするアルグに、俺も本当の事が言えなくなってしまった。いや、実際言う気はなかったのだが、今ではなくてもいつか言おうと思っていたのだ。だがそれすらも止められた様な気がして心が暗くなる。
いつもより早く起きた俺たちは、昨日貰った果物を朝食にするため準備をして、セズが起きてくるのを待っていた。普段はセズに起こされることが多かったので、俺が宿のエントランスで寛いでいるのを、セズが見つけた時の顔と行動といったら………
驚きのあまり三度見していたのは、ちょっと心外だった。
セズも朝食を済ませた後、ウェダルフを迎えに昨日歩いた道を小走りで歩いていく。ウェダルフの家の前にはすでに彼が待っており、俺達がみえるとあっちも小走りで向かってきてくれる。
「セズちゃん! ヒナタにぃ! 二人ともおはようー!」
「ウェダ君おはようございます! 朝はちゃんと食べましたか?」
そんなごく日常の会話でスタートした俺達は、二人の案内のもと裏の裏道へと突き進んでゆく。はじめはきれいな外観だった道が奥に進むにつれ、どんどんとゴミや薄暗い雰囲気にかわっていく街の様子に、この国の現状をみているようで自然と眉間に皺が寄る。
街のはずれ、建物を抜けた先に俺達の目的地はあった。
あたりがひらけた場所になっており、雨風を防ぐ場所は見当たらなかった。それどころか子供の姿も無く、隣にいたウェダルフに無言のどこ? を投げかけた。
「僕もエイナたちの住んでいるところは知らないんだ。だけどここでいつも何かしてるから、今日もいるかなって思ったんだけど……」
困惑気味にこたえたウェダルフの話に、被せる様に空から声が落ちてきた。
「おいっ!!! お前ら昨日のことを懲りずにまた来やがって!! エイナ様はもうお前らと話無いんだよッ!」
声の主を探すべく建物の上を見上げるが、建物にはそれらしき影は見当たらず、まさかと何もないはずの空へと目をずらす。
澄んだ空には、大きな鷲のようなモンスターが優美に飛んでおり、どうやらそれが声の主らしかった。
「そんなこと言わずに俺達の話を聞いてほしいッ!! 君達だって毎日こうやって来られるより、ここいらできちんと話すほうがいいだろう?!」
そう告げるとその大鷲は暫く旋回した後、物陰に隠れてしまう。交渉決裂か、諦めかけたその時だった。先程の鷲が消えた物陰が騒がしくなり、一人の人物がひょこりと姿を現した。
その人物は慌てる事無く俺達に近づき、少し離れたところでその歩みを止める。この子がエイナという男の子だろうか? 服装自体は前に見た時のまま、ぼろぼろの服を身にまとい髪も乱れたままだったが、定期的に切ってはいるのだろうとわかる長さを保っていた。
「……お前らなにもんだ? そこのぐりぐりヘアーは前からしつこかったが、そこのピンクともじゃは今まで見たことないやつらだと聞いた。一体そんなやつらが俺達に何の用があるってんだ?」
冷静に俺達の姿を上から下まで見た彼は警戒心丸出しで、一歩でも踏み込もうものなら、たちまちやられそうな威圧感を出していた。
「俺達は最近この街に来た旅人で、ウェダルフの友達なんだ。それで君の事を聞いて、僕達も君とお話してみたくなったんだ」
「そうなんです! 私も最近まで旅どころか誰かと仲良くなった事なんてなくて、はじめての友達のウェダ君が大好きなエイナさんの話おきいて、私も仲良くなれたらなって……」
必死の思いで訴える俺達だったが、この街の人達に傷つけられて生きてきたエイナには、俺達はただの敵にしか見えていないのだろう。俺達には目もくれず淡々と以前にも言ったであろう言葉を放つ。
「確かに前に一度だけ俺はお前を気まぐれで助けたことはある。だけどそれは気まぐれであって、お前と仲良くなんてする気なんてもんは一切、俺にはないんだよ」
「それは嘘だよっ!! だって僕を助けた直後は色々話をしてくれたじゃないか! エイナの夢や僕の夢も、お互い話したのは嘘なんかじゃないッ!!」
泣き虫なウェダルフはボロボロと涙をこぼしてエイナに訴える。その涙に顔を顰めるエイナだったが、その顔は嫌悪とかではなく、とちらかというと怯んだようにみえた。
「……エイナ、もしかして君がウェダルフに冷たくするのには理由があったりするんじゃないか? 本当に気まぐれや、付きまとわれるのが面倒ならばもっと方法があったはずなのに、こうして話を聞いてくれるのは、それが本心じゃないように思える」
俺の言葉に体が動揺し、揺れるのを俺は見逃さなかった。暫しの沈黙が流れたが、この雰囲気に先に負けたのはエイナだった。
「わーったよッ!! 俺の負けだ。あんたらの話を聞いてやっから俺の後についてきな」
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