第14話思いがけず暴露
——あの子がそんな気持ちで毎日を過ごしているなんて私、ちっとも解ってあげれなかったのね。お爺さんが倒れて以来、あの子が泣く姿を見た事なんてなかったから、何も知らない子供扱いをしてしまった。
石を返すタイミングをずっと伺っていた私は、その子と見知らぬ男性が林のほうへ向かうのが見えて、それなのに私は素直に石を返しに家には行かず、彼ら……いえ、主に男性の動向が気になってしまい、こっそりと後を追いかけた。今にして思えば、それは間違いでこうして捕まるくらいなら何事もなかったかのように逃げればよかった。
だけれども、それは正しい行為といえるのだろうか? 確かに盗む気がなかったとはいえ、こうやって大事にしてしまったのは、なんでもない私の不手際だわ。
それでも、やってしまったことや、気づかないふりしたまま逃げていたらあの子の気持ちに気付くこともなく、二人して咲かない桜をいつまでも眺めているだけだったのかも。
それならこれはチャンスなのだ。私が王になるために必要な何かを得るための——
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隕石泥棒はあっけなく捕らえられ、詳しい事情を聞くために、俺たちが借りている宿の一室へと場所を移していた。キーツは何も分かっていない様だったので、知り合いの手前話しにくかろうと思い、ひとまず家に帰ってもらった。アルグも未だ帰ってきてないので、現在俺と彼女だけ。
……うーん、もっと違う状況だったら嬉しかったのに、此処に来るまでの間俺たちは一切会話せず、彼女も青い顔のままで、正直参っている。部屋に備え付けられている椅子を引き、誘導する。彼女は戸惑いがちに俺に近づき座ると周りの空気が動き、この子からふわりと懐かしい桜のような香りが俺の鼻をくすぐった。
薄いピンク色の髪と少し濃い桃色の目が、より桜みたいに可憐で思わず見とれてしまう。フルルージュも綺麗だったが、アレはどこか怜悧で冷たい雰囲気だったのに対し、この子はどこか儚げで守ってあげたい雰囲気で、なんだか落ち着かない。
部屋についてもお互いだんまりだったので、意を決し彼女についてまず聞くことにした。
「えーっと、セズちゃん? でいいんだよね? この間ケイの街らへんですれ違ったんだけど覚えてるかな」
緊張をほぐす為に言った一言だったが、傍から聞いたらナンパしてるみたいになってしまった。俺の女の子との対人スキルがばれてしまう。
セズという子も気まずそうにしている。
「え、あ、そうなんですね。すいません気付きませんでした。えっと、お名前お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうだよね! 俺の名前はヒナタ。もう一人の仲間と最近になって旅をしてるんだけど、この村にはつい昨日着いたばっかりなんだ。よろしくね」
女の子と二人きりのせいだろうか、何時もより早口でまくし立てる様に話す俺に、彼女は驚いたように目を見開かせる。そんなに変な態度だったかと少し落ち込む。
「あの、ヒナタさんとお呼びしてもよろしいですか? それと、あの、一応私もそれなりの年なのでちゃん付けは少し、恥ずかしいです」
おずおずと上目遣いで話す彼女は、見るものの目を奪うほど可愛らしく、俺の庇護欲を一層掻き立てていく。妹と同じ、いやそれを上回る愛らしいさ! いや、妹は妹で可愛いけどね!! 思わずお兄ちゃんと呼んで、と言いそうになり顔を背けてしまう。
それセズは否定に受け取ったらしく、慌てたように謝罪をする。
「いや、俺のほうこそごめんね。君と同い年位の妹がいるからちょっと懐かしくなっちゃって……。俺の事はどんなふうに呼んでも構わないよ。寧ろ……いや、なんでもない。それで、本題だけど君キーツのところにあった石、持ってるよね?」
声のトーンを少し低めに彼女を見つめ訊ねると、セズはもともと白い顔をより一層白くさせ、肩を震わせ話はじめる。
「すいません………言い訳ではないのですが、盗むつもりとかじゃなくて、最初は石に呼ばれたような気がして手にとって見てただけなんです。だけど、こっそり家に入ったから突然の声に驚いて思わず……。ちゃんとお渡しするのであの、あの子には言わないでもらえませんか? 勿論ちゃんと罰は受けるのでお願いします!」
がたがたと音が鳴りそうなくらいセズの体は震えており、俺が悪いことをしているような気分になってくる。こんなのアルグに見られたらなんて言われてしまうんだろう。ふと考えをよぎらせていた時だった。
勢いよく開いた扉の大きな音に、俺はまさかと思い顔を青くさせて振り返ると、元々赤い顔をさらに赤くさせたアルグと思い切り目が合ってしまう。
「ヒナタッ!! お前っていうやつぁ! 女将に怯えた様子の女の子をお前が無理やり連れ込んだって聞いて来てみりゃぁ……見損なったぞ!」
なんというフラグ回収速度だ! 俺はいつもそう……いやな予感が当たるのか、それとも俺がいやな予感を呼んでいるのか、まさかなと思った悪いことはほぼ回収するほどの悪運の持ち主。それで何度死にかけたことか……。俺、今日アルグに殺されるかもしれない。
「いやっ! ちが、違うんだ! 俺はただ石を持っているか聞いてただけで、決して無理やり何かしようとしてたワケじゃない! 信じてくれ、アルグ!!」
まるでいかがわしい現場を見られた胡乱な男の態度で、言い訳をかます俺。そんな俺の態度でますます顔を険しくさせ、卑しい者を見るような目つきで俺を見ていた。うわぁ、死にたい。
そんな俺たちの様子にセズが何とかしようと慌てて弁解をする。
「あの! ヒナタさんは何も悪くありません! 私が起こしてしまった事なので罰を与えるのならば私に!」
いや、間違っちゃないんだが、今それは地雷でしかないよ! 罰とか聞き様によっては怪しさ満点になっちゃうんだよ!
アルグもその言葉を深読みをしてしまったようで、俺を見る目はもはや犯罪者に向けるそれになっている。いや、本当に誤解です!!!
何を言ってもアルグの誤解はもう解けないだろう、俺は諦め目を閉じた。アルグが俺の服を掴む感覚に殴られる覚悟をしたときだった。
「ヒナタおにいちゃん! お兄ちゃんの大事な石、お庭で見つけたよ!」
空気を打ち破るかのような明るい声とともに扉が開かれ、アルグも振り上げていた右手を俺の顔寸前でとめた。かすかに鼻先を触っている拳に、俺は一瞬気が遠くなった。キーツありがとうな、お兄ちゃん………助かったよ。
ニコニコ顔のキーツは剣呑な空気も気にする事無く、俺のそばへパタパタ可愛い音を立て足にしがみつき、その様を見てアルグはやっと俺を解放し、土下座する勢いで深く頭を下げる。
「すまねぇヒナタ! お前のいってた事ちゃんと信じてやれなくて! てっきりお前がその、小さい子好きでついに手を出しちまったのかと誤解して……本当にすまん!!」
うぁぁぁ!! 謝罪に見せかけて俺の間違った性癖を暴露されたんですけど!! 誰がロリコン、ショタコンいったよ!! ただ単純に妹に重ねてただけだし、がんばる小さい子は庇護欲が掻き立てられるだけじゃい! アルグも小さい子を見るとそうなる時あるでしょうに、もうっ!
アルグの失言をよりにもよって、セズとキーツに聞かれてしまい、俺はひざから崩れ落ちる。今日は厄日か何かなのだろうか、アルグの発言にセズもキーツを俺から引き剥がし、アルグのそばへ逃げるように駆け寄る。セズは俺を警戒し、俺に近づこうとするキーツを守るように抱き寄せる。
「アルグ、お前はなんていうことを言うんだ。大分……いや全く間違った見方だぞ、それ。俺は小さい子は可愛いだけで、好みの女性は年上で胸は大きめの大人な女性だから」
なぜに自分の性癖を暴露しなくてはならないのだろうか。涙ながらに言う俺が、余りに哀れに見えたのだろう。セズの腕をすり抜けたキーツが俺のそばで座り、頭をぽんと手を置き少し悲しげに
「ヒナタおにいちゃん、泣いてちゃメッ、でしょ?」
そうだな、キーツ。男と男の約束だもんな。でも今日は無効にしてもいいか? そうじゃないとおにいちゃん、とてもじゃないけど生きてゆけないよ……
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