VS 女神フロラン の絶望 その1

「ああっ女神さま」


「女神さま……だなんて、他人行儀な。どうか名前でよんでください。フロランと……」


「う、うん……フロラン。で、でもこんなこと……。うあ、なんて綺麗なんだ」



 ここは辺境にある村の宿屋。冒険の始まりといった風情ある場所の一室だ。

 オレとパイセンは隣の部屋で繰り広げられる女神フロランの情事を、手元の魔法鏡で覗いていた。このような行為が如何なものかということは置いておいて、うちの異世界パーティメンバーはビッチしかいないのか! 再会がつねに情事スタートなんですけど! ……べ、べつに、いいんですけどね。恋愛は自由だからさ! でも……なんか許せん! 納得できん!


「あの、パイセン? こんなことをしてなんの意味が……バラエティ番組のドッキリ企画みたく隣の部屋で待機している意味もわからないですし」


「黙っていてください」そういうパイセンは、さっきから壁を背にして腕を組み、目を閉じている。



「女神の力を失ってしまった、わたくしに出来ることと言えば、勇者の貴方にこの身体を委ねることぐらい……。貴方をこんな世界に連れてきてしまって、ほんとうにごめんなさい。きっと、とても危険な目に遭わせてしまう。だから……身体ぐらいこうしないと、わたくしの気持ちがおさまりません……」


 言葉とは裏腹に、なれた仕草で誘惑する女神。衣服を脱ぐ動作のひとつひとつが、すごく手慣れている……。

 オレの時にはそんなサービス回なかったんですけど!

 むしろ、目の前に登場したのは異世界の最初と、魔王を倒した最後ぐらいで、ほぼボイスオンリーで姿をあらわさなかったんですけどね貴方フロラン


 みると相手の男はすんごいイケメンの勇者だ。そしてとにかく若い……というか、まだ幼さをのこす少年だ。くそ……イケメンとはここまで淀みなく目的地へ達してしまうものなのか。なんという人生イージーモード。っうか、そんなことしちゃぜったいダメな年齢ィ!

 イケメン人生イージーモード……。そんなこと、わかっていた。頭ではわかっていたさ。でも、こうも目の前でそのイージーっぷりを見せつけられると心の隅で炎が燃え上がるのを自覚してしまう。黒い炎ェ……。

 オレなんか数多の試練という試練。ナイトメアモードという弾幕をくぐり抜け、やっとつい最近ですよ。リエルですよ。

 あ、そういえば、ちゃんと飯くってるかな彼女リエル。けっこう身の回りのことに無頓着だからなあ。本が好きすぎてすぐに飲まず食わずになるからな。はやくもどってやらないと……って、ちゃう! そんな話はどうでもいい! 



「……フロラン」

「きて……好きにして」


 木製のベッドがきしむ音がした。たとたどしい勇者の行動を、受け入れる体勢になった女神が引き入れる。そうして全裸になった勇者と女神。否、もはや男と女になった二人は……そんな二人はぁ! ぎこちなく身体を重ね…………重ね、かっ重……かさねェ……。


「そうはさせんぞ!!!!」


 オレはおもわず剣を壁に突き立てると、高速で円形に切り裂き、蹴り押し込みながら隣の部屋に飛び込んだ!

 やらせはせん。これいじょうは、やらせはせんぞお!!


「!? えっ、えっ何?」「だ、誰だ! おまえは?」


「誰だってか? そうですオレが絶望勇者ですよ!!」


「!? タカユキ? なんでここにいるの! アンタ、地球にかえったはずじゃ……」


「おひさしぶり……女神様フロラン


「あれフロラン? 君の知り合い? ぜつぼう勇者? 勇者って、どういうこと? 僕が勇者じゃないの? 勇者って一人じゃ無いの?」


「えっと……。そ、そう……こいつは魔王の手先よ! ただの手先! たたっ切って!」シーツを身体に巻きながらフロランが指示をだす。


「魔王の手先だと? こんなところにまで来るなんて。ようし、わかったよフロラン! くらえ!」


 窓際に立てかけていた銅の剣をとると、迷いなくオレに斬りかかる現勇者。

 迷いがなさすぎて、ちょっと君こわいんですけど! 


 しかし、こんな駆け出しの勇者君(♂)にやられるほど落ちぶれては居ない。完璧に動きを見切っていたオレは、拙い攻撃を左手で軽くいなすと剣で構え合う形になった。ふふ、ようし。先に手を出してきたな馬鹿め。


「ぬんっ! 成敗!!」


 オレは両手で持ち直した剣で袈裟斬りにする。駆け出し勇者君(♂)は己の剣で受けようとするが、その構えた剣ごと真っ二つにしてやった。


「ああっ、あたしの勇者君が! なんてことを! やっと若くてイケメンを引いたのに!!」


「安心しろ……峰打ちだ」オレはキメ顔でフロランに告げる。


「いや! 真っ二つじゃない! なにが峰打ちよ! っうか、そもそも西洋剣ソードに峰ないし!!」


 ふう……いろいろとスカッとした。


 全世界……いや、世界をまたいで非モテ男のみなさん! 見てくれましたか! いま我々の悲願が果たされました! オレがみなさんを代表してイケメンに天誅をお見舞いしてやりましたよ! 非モテのみなさん! オレはみなさんと共にありますからね! 生まれついての人生ハードモードがんばって生きましょうね! きっといいことがありますからね!!


「あのさ、ごめん。何処みて手を振ってんのよ。気持ち悪いんですけど」


「大丈夫だ。あとで生き返らせてやるから心配するな」


「これ、ほんとうに蘇生できるのかな……」


 オレ勇者だから蘇生魔法の成功率は50パーセントだけどな。


「そんなことよりも、フロラン! これはどういうことだ! オレの時と扱いが違いすぎるだろ、おなじ勇者なのに! 『こうしないと、わたくしの気持ちがおさまりません……』て、オレの時はめっちゃ収まっていたじゃんか、その『気持ち』! そのことをオレは厳重に抗議する!」


「は? 無理なんですけど」


「何故に! その理由を端的に述べよ!」


「あんたみたいなフツメンの地味顔陰キャ。女神のわたしが相手するわけないじゃない」


「ぐあぁ」くっ、言葉の即死魔法とは……。

 オレの意識は水底にしずむように遠のいた。

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