第8話 不思議な彼②

 気まずかったので私はその場から足早に立ち去った。


 廊下を歩いていると、入学式の時間がもう近くなっているのか、新入生だけでなく、先輩方も登校していた。自分たち新入生は新しい学校、先輩方は新しいクラスになるので、話し声があちらこちらから聞こえた。


 一年生の教室の前の廊下を歩いていると、ある三クラスの女子密度が異常なことに気が付いた。ちょっと気になって廊下の外から覗いてみると、それはそれはさっき出会った生徒会の先輩に負けず劣らずのイケメンがいた。


 ほお。


 心の中でつぶやく。思わず感嘆してしまった。中学ではもちろんイケメンはいたが、一人しかおらず、学年のアイドル的立ち位置にあった。もちろん、女子生徒からの人気は、一人占めしてたいも同然だった。


 巻き込まれたら大変だと思い、急いでその場から離れ、自分の教室に向かった。教室に入るとクラスにいた全員からの目線が突き刺さった。ちょっとびくっとしたが、何もない風を装って自分の椅子に座ると隣の女の子が話し掛けてきた。


「おはよう!」


「おはよう!」


 元気に挨拶して来たので、自分も元気に返す。身長は自分より小さめだが、元気な子だ。ショートカットの茶色がかった髪の毛が、元気に揺れている。


「ずっとカバン置いてたけど、何時に来たの?」


「うーん、7時半くらいかな」


「7時半!早くない!」


 実際はもう少し早いが、早すぎるとさすがに引かれる気がしたので、少し遅めに言ったことは秘密だ。


「学校を探検しようかなって思って、早めに来たんだ」


「そうなんだ!私も全然この学校分からないから、教えてくれない?」


「いいよ。あ、そういえば自己紹介してなかったよね。私は秋山紅葉。もみじって読んでね」


「もみじちゃんね!私は、小浦美月(こうらみつき)!美月って呼んで!」


「美月、これからよろしく」


「こちらこそ、よろしく!紅葉ちゃん!」


 少し、友達が出来るか心配だった私は、美月が話しかけてくれたことに感謝した。人によるかもしれないが、私は初対面の人に話し掛けるのが大の苦手だ。でも、話しかけられれば話は出来る。結構そうゆう人って多いと思うのが持論だ。だから、美月のような人を見るとすごいなぁ~と素直に感心していしまう。


「ねえねえ、紅葉ちゃんって彼氏いるの?」


「え!?」


 いきなり初対面に聞く様な質問が飛んできて、少し驚いた。


「あ!ごめんね!紅葉ちゃんすごいきれいだから、中学生の時モテてたんだろうなぁ~って思って」


 そんな過去、自分にはない。そんな輝かしい過去ではなく、もっと暗い……


「ご、ごめんね。いやなこと聞いちゃって。なかったことにして!」


 そんな感情が表に出てしまったのか、美月が慌てて謝ってくる。


「いいよ。初めてそんなこと言われたから、びっくりしちゃって」


 私も美月にはあまり重く受け止めて欲しくなかったので、明るい声で返す。そうすると美月はぱあっと顔を輝かせた。


 それから、周りの女子たちも交えて、私たちはチャイムが鳴るまで話し続けた。


 あのイケメンたちの話題が多かったたのは、もはや必然なんだろう。


 そう話をしていると、あのイケメン二人組がこの教室に入ってきたのだ。女子からは歓声が上がる。やはり、人気なのだろう。逆に男子たちはイヤーな目をしていた。彼らは、朝出会ったマスクの彼に話しかけていた。


 美月もやっぱりそうゆうことには興味があるのか、わくわくした様子で私に話しかけてきた。


「ねえねえ‼イケメンだよ!俳優さんみたい!」


 私の周りの女子たちは、その美月の言葉にうんうんとうなずいていた。確かに、俳優と言われても疑わないくらいイケメンなのは事実だ。


 彼らとマスクの彼が話しているのを聞いていると、彼は背が高い方のイケメンと中学が一緒だったみたいだ。でも、その見た目から察するに、カーストが違い過ぎたんだろう。あまり話したことはなさそうな様子だ。周りもそんな雰囲気を感じ取ったのか、「ああ、やっぱり」みたいな顔をしていた。


 話し終わったのか、イケメン二人組は帰った。その瞬間、女子たちがマスクの彼に群がっていった。どうしたどうしたと美月と一緒にびっくりしていると、どうやら女子たちは一刻も早くイケメンたちの情報を手に入れたいみたいだ。


 そんな女子たちに迫られた彼は、あまり臆した様子もなく、淡々と答えて、さらに煽りも挟んでいた。見た目からはあまり予想できない展開だった。不思議だ。


 女子たちが離れた後、今度は彼に男子たちが集まっていた。やっぱり、イケメンは憎いのか、何とか欠点を探そうとしているみたいだ。でも、運動神経もバッチリ見たいだ。


「もしかして、成績もいいとかは言わないでくれよな」


「中学の時の成績、三位と五位だよ」


 え?その言葉に疑問を感じた。彼と一緒の学校だったのは、一人だけなのに、なぜ二人の順位が出てくるんだろうか?


 そう思って彼の顔を見て見ると、「あ、やべ」みたいな顔をしていた。やっぱり、何かを隠している気がしてならない。


 もしかしたら、彼はあまり話していないわけではなく、実際は二人と仲が良かったりするのかもしれない。そして、さらに背が高い方のイケメンと一緒の学校だと言っていたが、イケメン二人と一緒の学校だったのかもしれない。彼たちが話しているとき、仲が良さそうにも感じた。でも、それを嘘をついてまで隠す必要性がない。もしかしたら、彼の言い間違いなのかもしれない。


 その後、男子たちがいろいろと叫んでいたが、彼について考えていたせいで、何も耳に入らなかった。



 ◇◇◇



 仲良くなった子たちとメアドや電話番号などを交換していると、チャイムがなり担任の先生が教室に入ってきた。


「おはよう、新入生の諸君。私が一年間お前たちの担任になる、立山春香(たてやまはるか)だ。よろしくたのむ」


 私たちの担任は、スーツをピシッと着ていて、真面目そうな印象だ。めっちゃ美人だ。


「今から入学式が始まる。メールでも通知した通りに座るように。では、移動をはじめて」


 そう言うと先生は教室を出て行った。


「紅葉ちゃん!行こ!」


「うん!」


「で、体育館ってどこだっけ?」


 私は、知らんのかい!って関西弁で心の中で叫んでしまった。



 ◇◇◇



 体育館につくと、先輩方や保護者の方で朝は空席だった場所が満席に近い状態だった。自分の席について座っていると隣の席の男の子がそわそわしていることに気が付いた。入学式で緊張しているのだろう。


 しばらくしていると、先生が前に立ち、入学式が始まった。先輩方からの祝辞の言葉で、朝あったイケメンの生徒会の先輩が出てきてびっくりした。生徒会長だったのだ。


 更に驚いたことがあった。新入生代表の挨拶で、朝会ったマスクの子が出てきたのだ。


 え!あの男の子が首席だったんだ!


 彼は、前に立ってもマスクを取らず話していた。普通はこういう場面では、マスクを外すのがマナーだ。でも、外していないということは、やっぱり何か顔に隠したいものでもあったのだろうか?さっきの彼の発言を含め、少し気になってしまった。



 ◇◇◇



 入学式が終わり、教室に戻ってくると自己紹介が始まった。普通、出席番号1番である私から始めるものだが、先生がそう言ったので後ろからになった。最初も嫌だが、最後も嫌だ。誰もがそう思うと思う。


 そして、マスクの彼の番だ。もう、新入生代表の挨拶の時に名前は知ることが出来たが、敢えてマスクの彼としておこう。


 彼は、少し緊張した素振りをしながらマスクをしながら自己紹介を始めた。


「皆さん知っていると思いますが、桜木俊っていいます。趣味は釣りで、部活はバドミントン部に入るつもりです。あまり運動神経良くないんですが、頑張ります。一年間よろしくお願いします」


 そう言って席に座った。


 あ、一緒だ。私もバドミントン部に入るつもり。


 彼を見ると何かを達成したかのような雰囲気を感じた。


 そして、美月の番が来た。


「私は小浦美月(こうらみつき)です。趣味は料理です。クラブは特に決めてないけど、運動部に入るつもりです。一年間宜しくおねがいします!」


 美月は元気に自己紹介をした。やっぱり、運動部に入るんだと自分で納得する。一緒にバドミントンでも誘ってみよう。


 そして、最後に私の番が来た。なんか少し目線を感じるなと思ってそちらを見て見るとマスクの彼と目があった。少し驚いてしまい、固まってしまっただ、すぐ何もなかったかのように自己紹介をした。


「秋山紅葉(あきやまもみじ)です。趣味は読書で、部活はバドミントン部のつもりです。一年間よろしくおねがいします」


 最後にニコッと笑って席に座る。男子たちからは歓声が上がり、そんな男子たちを見た女子たちが引いている。


「これで終わったな。これから一年間よろしく」


 そう、立山先生が言い、自己紹介が終わった。


 それから、いろいろと説明があったが、これからうまくやっていけるのか心配だった私は、あまり集中出来なかった。


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