第7話 不思議な彼①
今日、私は早めに学校に来た。入学式の一時間前にはもう学校には到着していた。多分、新入生の中では一番早かったと思う。朝、すべての教室を覗いたとき、誰一人としていなかったからだ。
当たり前のように、自分のクラスには誰一人としていなかった。教室の電灯はついていないのにも関わらず、朝の日によって明るく照らされていた。閑散とした教室の雰囲気を自分一人で味わう。
「この教室が私の新しい学校生活の始まりかぁ~」
誰もいないことを良いことに、自分は独り言つ。自分の声が教室全体に広がっていくのを感じる。
この高校に通うために、自分は一人暮らしを選んだ。ただ単に、一人暮らしがしたかったのもあるが、自分の地元から離れたかったからだ。理由は……まだ、言えない。自分の心の中の整理がうまくいっていないから……
「はあ。この学校でうまくやっていけるかな……」
ため息すらも教室に響く。心配だ。
まっ!私の過去なんて誰も気にしないから大丈夫!そんなことは置いておこう!
自分が無理な虚勢を張っているのを理解しながらも、そんなことを思考の端へ投げ飛ばす。
「笑顔笑顔。こんな顔誰かに見られたら大変だよ。友達出来なくなっちゃう」
そんなことを言いながら、自分の頬を軽く叩く。パシッという音が教室に響く。
「よし!大丈夫!」
少しだけヒリヒリする自分の頬の痛みを感じながら、自分の椅子に座る。苗字が秋山だから、出席番号も一番で、机も一番前の席だ。窓側の端の席なので、自分の席からグラウンドが見える。誰もいない。
しばらく、ぼーっとしながらグラウンドを眺めていると校門から誰かが入ってきたのが見えた。
あ。今誰か来た?新入生かな?今何時かな?えっ!もう七時半!学校探検する時間がなくなっちゃう!
私は急いで貴重品を手に持ち、カバンを机の横にかけ、教室をでた。
◇◇◇
教室を出た私はパンフレットに乗っている学校の地図を見ながら廊下を歩く。入学式の準備のためか、腕に生徒会という帯を巻いた先輩方と時々すれ違う。挨拶もしっかりする。
「おはようございます」
「お!おはよう!新入生かな?」
イケメンの先輩だ。背も高く、声もイケボだ。かっこいい。自分のタイプではないが。
「はい」
「そうなんだ。早いね」
「はい。実家から遠かったので、受験の時以外学校を見ることが出来てなくて、少し探検をと思ったんです」
「そうなんだ。おすすめは桜の木かな。入学式にピッタリな満開の桜が見れるよ」
そのことはパンフレットにも載っていて、見るつもりのものだ。この学校は歴史ある学校で、特にこの樹齢100年にもなる桜の木でも有名だ。
「あ!知ってます!有名ですよね」
「そうだね。あ、時間が。じゃあ、迷子にならないように気を付けて」
「ありがとうございます。準備頑張ってください」
そうして、先輩と別れた。
◇◇◇
先輩と別れた後、職員室や食堂などの自分が学校生活において使うであろう場所を地図で確認し、実際に行って調べた。そして、最後に入学式を行う体育館に向かった。結構時間がたっていたのか、ちらほらと生徒会役員じゃない生徒も見かけるようになった。
体育館には、グリーンのシートが敷いてあり、たくさんのパイプ椅子が並べてあった。体育館ではさっき会ったイケメンの先輩もいた。やっぱり人気なのか、女子生徒が話し掛けているのが遠めからでも分かった。
体育館の雰囲気を確かめた後、最後に桜の木によった。桜の木は教室と体育館をつなぐ廊下から行くことが出来る。桜の木の周りには青々とした芝生が生えていて、風が吹くたびに揺れていた。桜の木も一緒に揺れている。花びらが風に吹かれ、花吹雪になって、とても奇麗だった。
花に夢中だったせいか、男子生徒がいることに今気が付いた。彼も桜の木に見惚れていたのだろう。彼の黒い髪の毛が風に吹かれ揺れている光景は、写真に収めたいと思わせるようなものだった。
マスクをしていたのか、マスクをはずした。その瞬間、強めの風が吹き彼のマスクを飛ばしてしまった。
「あ、やべ!」
という彼の焦った声が聞こえた。私はスカートを押さえ、咄嗟に目を瞑ったので、マスクがどこに飛んで行ったのか分からなかったが、ふと足元を見るとさっきまでなかったマスクがあった。多分これが彼のマスクだろう。
彼もこちらに来ているのこれは彼のマスクだろうと確信し、拾った。彼は、少し焦ったように自分の顔を手で隠しながらやってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
彼がマスクに届こうかとしたとき、ちょっと意地悪な心が出てしまい躱してしまった。
「え?」
男子生徒から本当に困った声が聞こえた。
「あの、俺のマスク……」
「あ、ごめんごめん。ついね。はい」
マスクを渡すと彼は後を向いて、何かを隠すようにマスクをした。
「なんで、マスクなんてしてるの?風邪でも引いた?そんな雰囲気ないけど……」
その瞬間、彼は咳をし始めた。少しわざとらしい。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫。少し風邪気味なだけだから」
「良かった」
ついふざけて自分がしてしまったことに罪悪感を覚えてしまっいた。もしかしたら、人には見せられないような傷があるのかもしれない。本当にしてはいけないことをしてしまったかもしれないと思っていた。
「最初は風邪なんか引いてなさそうだったから。もしかしたら、顔を隠そうとしてるのかと思ったよ……」
少し過去に私の周りで起こったある事件を思い出しながら言った。
「え、え、そ、そんなはず、な、ないじゃないか。な、な、何を言っているのかなぁ~」
その私の言葉に、彼は少し噛みながら答えた。彼の感情を察するに、私が彼を傷つけたわけではなさそうであったことに少し安心した。
「そんなことをしていて、どんどん引きこもっていった人を知っているからかな……」
「そ、そうなんだ。ごめん。悪いこと聞いちゃった?」
「い、いや。私が悪いよ!今のは!ごめんね!」
私が空気をかなり重くしてしまったことが分かったので、パッ切り変え、明るく言った。
「じゃあ、またね」
少し気まずくなった私は、逃げるように走って教室に帰った。
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