第6話 自己紹介回

 男子と話しているうちにいつの間にか入学式の時間が迫っていた。


 そんなこんなで入学式前の朝休みを迎えた俺だったが、ここでミスったことがあった。思いっきりこのクラスの女子を敵に回してしまったことだ。モブというのは、話しかけたときに「あ、こいつ誰?」といわれる人のことだ。しかし俺は、朝からイケメンの中学の同級生で、女子を敵にまわし、新入生代表の挨拶で名前を知られる。これの何処がモブだって言うんだよ!思いっきり物語に登場しちゃってるじゃないか!少女漫画で見たことあるぞ!


 どうするべきか、ここで俺は考えた。少しモブっぽくなくなってしまったが、まだ修正は効く。だってまだ入学式すら始まってないんだから。あいつらに注意すれば行けるはず。


 そう結論付けたとき、チャイムがなり担任の先生が教室に入ってきた。


「おはよう、新入生の諸君。私が一年間お前たちの担任になる、立山春香たてやまはるかだ。よろしくたのむ」


 俺たちの担任は、スーツをピシッと着ていて、真面目そうな印象だ。


「今から入学式が始まる。メールでも通知した通りに座るように。では、移動をはじめて」


 そう言うと先生は教室を出て行った。


「じゃあ、行くか、俊」


 山本に誘われ、一緒に向かった。


 ◇◇◇


 入学式は無事、俺が失敗することなく終わった。


 最初はマスクと髪型をどうにかしろと校長先生に言われはしたけど、ちょっと見られたくないものがある雰囲気をかもし出して、マスクを取るまでに妥協して貰った。おかげで顔はバレずにすんだ。


 俺が話しているときは、クラスの女子からの視線が突き刺さりまくった。もちろん、春斗と達樹の面白がっていそうな視線も感じられた。読み終わって席の方見たら達樹と目が合って思わず笑いそうになった。あれは危なかった。


 入学式が終わった後、倉木先輩から生徒会に入らないかと言われたが断った。当たり前だ!そんなことしたら俺の普通の男子高校生活が終わってしまう!ような気がする!生徒会に入ったら部活にあまり行けなくなって、しかも周りからは首席入学できるほどの頭の良さをもった優等生扱いされる!そうに決まっている!


 そのまま教室に戻った後、また女子の視線が突き刺ささる。女子怖い。それに気づいていない振りをしながら席に座る。丁度そのときに先生が教室に入ってきた。立っていた生徒は自分の席に戻る。


「じゃあ、今から自己紹介でもしてもらおうか。名前と自分の趣味と自分の入ろうと思っているクラブでも言え。出席番号順で一番から」


 順に自己紹介が始まった。自己紹介はふざけて笑いを取りに行く子もいたり、逆に名前だけ言って終わってしまう子もいた。


 そして、自分の番になった。少しモブっぽく自己紹介をしよう。俺は一昨日から自己紹介を考え、暗記した。隙はない。


「皆さん知っていると思いますが、桜木俊っていいます。趣味は釣りで、部活はバドミントン部に入るつもりです。あまり運動神経良くないんですが、頑張ります。一年間よろしくお願いします」


 これで完璧だ。間違っても勉強も出来て運動も出来る奴とは思われないだろう。


 しばらくして、朝に桜の木の前で会った女の子の自己紹介が始まった。俺は、自分の目を疑った。まさか、同じクラスだったなんて!やばい、バラされるかも知れない。そう思っていると心臓がバクバクしてきた。


 そう思って顔を伺ってみると、たまたま目があってしまった。向こうは少し驚いた顔をしていた。少し固まった後、話し始めた。


秋山紅葉あきやまもみじです。趣味は読書で、部活はバドミントン部のつもりです。一年間よろしくおねがいします」


 そう元気に自己紹介した。男子からはおおーと嬉しそうな歓声が上がる。今の自己紹介で何人かぐらいが好きになってそうだ。


 俺はそんな気にもなれず、これからどうすれば良いのか考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る