第5話 なんか同盟が出来ました

 2人がそれぞれの教室に戻るとさっきまで賑やかだった女子が静かになり、女子たちの視線が俺に突き刺さる。一言で表すと獲物を狙う狼。いや、ハイエナか。どっちでもいいか。とりあえず視線が怖い。こんな視線を浴びたことない俺は少しびくびくしながら山本と話していると、女子たちが机に一斉に集まってきた。効果音をつけるとしたらドタドタかな。山本の方を見てみると、ビビっていた。


「ねねね、さっきのイケメン二人誰?」


「早く教えなさい!」


 春斗や達樹の情報を一つでも多く俺から吸い取ろうとしている。女子高生おそろしや。質問の嵐が収まるまで少し黙っていることにした。だっていつまで騒ぎ続けるのか気になるじゃん。ま、俺は答える気はさらさらないけどな。


「何時まで黙ってるつもり!」


 黙ってたら怒られた。知らないかも知れませんが一応俺、新入生代表ですよ。そんな口利いていいんですか?新入生代表に権力はないかも知れないけど。


「い、いや、さっきから騒いでるくせに、い、何時俺が話せって言うんですか?」


 俺の返事に騒いでいた生徒たちが黙り、顔を引きつらせる。


「そ、それもそうよね。で、あの二人の名前は?」


「じ、自分で聞いてください。ぼ、僕は1人と中学が一緒ってだけで、話したことがあるのは精々3回くらいしかないので……勝手に人の名前を教えるとか、流石にできないです。自分たちで聞いてきてください」


 その返事で、クラスの奴らが俺が中学の時の立場を察したようだ。多分、この見た目から、カースト底辺で、話しかけるのも難しいと思われているのだろう。是非とも勘違いしてくれ。勘違い大歓迎だ。


「名前くらい教えてくれたっていいじゃない?」


 その一人の女子の言葉にそうだそうだと相槌を打つ声が聞こえる。


 いや、まあね。それもそうなんだけど。名前言ったらまた色々聞かれそうじゃん。でも、ここは譲歩してやろう。


「一人は一組、一人は三組みたいですよ。それ以外は自分たちで聞いてきてください」


「そんな事くらい知ってるわよ!もう、いいわ!」


 その言葉を最後に女子たちは俺を睨みながら教室を出て行った。多分好みの方のクラスに行ったんだろうな。でも、あれは怖かったな。寒気がやばかった。


「お前すげえな。あんな女子集団相手にあんなこと言い張るなんて」


 山本が感心したように言う。


「でも、実際問題人に聞かずに自分で聞けって話じゃない?」


「確かにな」


 俺たちのことを遠巻きに見ていた男子たちが会話に加わってきた。


「俊。今めっちゃ気になることがあるんだが?」


 山本が深刻そうな顔で聞いてきた。


「どうしたの?」


「あいつら運動神経いいか?」


 その質問に今度は周りの男子が集まってきた。


「それは気になるな」


「あんなイケメン。どっか弱点があるだろ」


 男子もイケメンには嫉妬するだな。こんな立場で話すのは初めてで新鮮だ。


「ごめんね、みんな」


「え!?」


 俺の謝罪にみんな驚きを顔に表す。


「神山くんは知らないけど、雨宮くんはバスケ部の元部長だったから、運動神経めっちゃすごいよ。球技会でダンク決めてたの見たことあるよ。すごかった」


「ああああああー」


「くっそーーー」


「イケメン死ねぇぇ~」


 俺の言葉に男子が呪詛をはきまくる。山本も叫んでいる。少し周りの女子が引いている感じがする。でも、すごく楽しい。


「もしかして、成績もいいとかは言わないでくれよな」


 立ち直った山本が俺に聞いてくる。他の男子もはっとなり、俺の言葉に耳を傾ける。そこで俺は突きつける。現実というものを。世の中の理不尽さを。


「中学の時の成績、三位と五位だよ」


 この時、思わず2人の順位を言ってしまった。楽しくて気が抜けていたんだろう。でも、男子たちは興奮していて、誰も気にも止めていないようだった。あぶねぇ。2人とも中学は同じだったが、あいつらの所為で逹樹だけ違うことになっていた。誤魔化すのめんどくせぇ!


「はああぁぁーー」


「どうなってんだよ!」


「神様!どういうことですか!」


「天は二物与えないんじゃなかったのかよ!」


「二物どころか三物だろ!雨宮なんかなんだ!イケメン、身長高い、成績良い、運動神経抜群!四物じゃねえか!」


「そんなこと許されてもいいのか!いや良くない!」


「一つくらい俺に分けろ!」


「世の中不公平だぁぁーー!」


 男子たちの叫びがさっきとは比べ物にならないくらい凄いことになっている。女子生徒は少し離れたところから俺たちを見ていた。男子の嫉妬はやぁね~とかでも言ってそうだ。


「俊、お前はそんなイケメンを3年間見てきてなんとも思わないのかよ」


 ある男子生徒が俺に聞く。けど、ごめんね。俺はなんとも思わないよ。でも、ここは普通の男子生徒っぽく言いたい。


「当たり前だろ!俺が中学の時、どれだけ女子にあいつと比べられたかお前らに分かるか!ことあるごとに、『雨宮くんは動けるのに、なんでこいつはこんなにも使えないかなぁ~。同じ男子だろ』って言われた時、どんなに惨めだったか!」


「そうだよなぁ~」


「うん、うん」


「同じ男子だからって出来ることとと出来ないことあるよな!」


 同情されている。楽しい。


「しっかり生きろよ」


 初めて見たぞ。そんなことを言ってる奴。


「ああ」


「桜木。俺たちはお前の仲間だぞ。なんかあったらいつでも相談に乗ってやる」


「ああ、お前も今日から『イケメン死すべき同盟』の一員だ」


 何それ。


「運動神経が良いのも成績が良いのも全て俊の中学が基準だ!まだ、諦めるには早いぞ!」


「確かに!」


「そうだ!」


 男子たちに活気が戻る。


「でも、会長!ダンクって普通出来るもんでしょうか!」


「「「「あ」」」」


 男子たちが、そういやそうだという顔をする。少し諦めが入っている。でも、諦めない同盟会長山本は違うかった。


「い、いや!別にバスケだけがスポーツじゃないんだ!自分たちの専門分野があるだろ!」


「そうだ!そうだ!」


「やるぞ!」


 その言葉に男子たちに活気が戻った。


「我ら同盟の目標は『イケメンをボコボコにする』それだけだ!異論は認めない!」


「「「「おー!!!」」」」


 男子たちが声を張り上げる。結構声が大きかったのか他のクラスの人が廊下から覗きに来ていた。


「なんとしてでもイケメンたちに勝つぞ!たとえ、あいつらがテニスが初めてでも、一回でも勝てば俺たちの勝ちだ!」


「「「「おー!!!」」」」


 狡い。女子たちの目線はもう完全に引いていた。


 なんかそんな感じ入学初日になんか変な同盟が出来上がりました。

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