リリー


 三日ぶりの学校だと言うのに、日直とは......。


 やあ、皆さん。こんにちは、今日からゾンンデビューした、坂本カズキです。


 今朝、レンカたちと校門前で別れた後、クラスメイトのコウジが思い出したかのように言い付けた、絶望的な一言。


 お前、休んでる間、日直だったから今日、日直な。


 その一言さえなければ僕は今頃、放送部で文化祭で生放送形式でするリポートの読み合せたっだはずなのに。

 ま、どっちも面倒くさいけど。

 とにもかくにも僕は、朝から日直の職務として、担任の先生から日直の帳簿を受け取らなければならないのだ。

 ただ今日は、その他に仕事を押し付けられた。


「そう言えばカズキくんは三日間、休んでたから知らないだろうけど今日から、私たちのクラスに新しい仲間が加わるの」

 学校で一、二を争うほどに若い女性教諭の佐藤ミキ先生が嬉しそうに言った。

「はい......」

 休んでる間の情報共有程度くらいに思いあの時の僕は、日直としての役割はないだろうって思った。

 間違いだった。

「ちょうど日直だし、彼女を朝のこの時間だけでいいから案内してあげて」

 ......。


 そして押し付けられたのが、海外から来たリリー・ミュラーさん。多分、彼女もゾンビだ。

 ......て、そんなことはどうでもいい。どうしよ、英語で話せばいいのか? いや、そもその英語が通じるのか? って言う前に、英語なんて全然わからんぞ!

 そんな調子で、コーヒーの匂いが漂う職員室の廊下で二人、立ち呆けていた。

「え、えーと、カズキ・サカモト、僕の名前です」

 英語の文法って日本語でそのまま言うとこうだっけ?

 確認するかのよう彼女を見ると、彼女は首をかしげていた。

「あ、いえ、海外の文法に合わせなくていいですよ。

 私、親が日本人で昔から日本語で話せてましたから」

 ブロンドの髪と顔立ちからすらすらと日本語で話されても、信じられなかった。

「ほら、日本人の遺伝ですよ! 身長も体格もミニマム」

 確かに、身長と体格は日本人の小柄に分類されるくらいに小さかった。

「それ遺伝関係ある?」

「ありますよ! そんな私を成長期に生活習慣がずぼらだったみたいな目で見ないでください!」

 いや、そんな目で見てないけど。

 成長期に夜更かしでもしてたんだろう。

「そう言うつもりじゃあ......。

 とにかく、案内するからついてきて」と言っても、今案内できるのは、図書館と学生ホールくらいかな。

 順に案内することにした。


校門前。

「ここ校門」

「知ってます。今朝、通りました」


校舎前。

「ここ校舎」

「知ってます。日本では、上履きに履き替えて校内を歩くんですよね。

 逆に、普通の靴で校内を歩いたり上履きで外を歩いたら、罪悪感を感じるんだとか」

「へぇー......誰から聞いた?」

「お母さんです」


駐輪場。

「ここ駐輪場」

「あー、ここかぁ」

「どうしたの?」

「いえ、お母さんから聞いたんです。

 日本は自転車通学が主流で、学校に駐輪場があるって。

 でも、駐輪場は危ない場所で強面の人たちがタバコとか吸ってたり睨まれたりするある意味、異界の入り口だって」

「へ、へぇー、一部の学校だけだと思うぞ。海外は自転車通学じゃないのか?」

「海外は、スクールバスが主流ですよ」


 学生ホール。

「ここは学生ホール。お昼は大抵の生徒がここの食堂でご飯を食べてる。

 時間がないから後は、ここで説明するぞ」

 学生ホールの柱に取り付けられた学校内の見取り図を指差した。

「最初にこの学生ホール会館は、2階建で2階は図書館だから。


 次にこの学校は、主に二つの校舎が別れてて学生ホール会館を挟んで右側が普通棟。

 これから先生が案内する僕たちの教室がある場所。


 その反対側、学生ホール会館の左側には実習棟。

 化学とか選択科目で使う特別教室の校舎だ。


 それと、学生ホールから北側は、第一体育館と第二体育館がある。

 体育の授業は2クラス合同で男女別になってそれぞれの体育館に集合だから、集合場所には注意ね。

 この前なんて集合場所間違えて、女子が使う体育館に行ったら大恥じかいたんだから。

 体育館の奥には屋内プールがあるから水泳の科目はそっちに集合ね。

 水泳の科目は、男子か女子どちらかしかないから体育の授業で科目は間違えないように。


 次にその体育の反対側の南方には、実習棟と普通棟を繋ぐ渡り廊下があってその廊下には、さっき僕たちがいた職員室とか保健室とか、各教科の準備室と生徒会室があったりして、あそこら辺でふざけたことするとすぐに生活指導の先生に目を付けられるから注意ね」

 次々と校内の説明をしたけど、大丈夫だったかな?

 彼女を見ていると、メモ帳で説明したことを日本語じゃない文字で綴っていた。

「あー、ごめん。説明早かった?」

 気にかけてみたが、彼女は困る様子もなく首を横に振った。

「じゃあ、説明は以上だけどわからなかったことある?」

「一つだけ。

 ここの生徒さん、朝から慌ただしいですよね。クラブ活動?」

 確かに慌ただしいのかも知れない。

 学生ホールにも罵詈雑言が飛び交っていた。

 理由はただ一つ。

「この時期はね、文化祭の下準備の大詰めでどこも忙しいんだよ。

 これでも、去年よりは落ち着いてるよ」

「去年より?」

「この時期は、本来なら全国大会とかインハイに向けての地区予選も被ってたから、もっとピリピリしてたよ。

 ただ今年は、ゾンビ化の影響でどこの大会も中止を余儀なくされてるからね」

「そっか」

 彼女は少し寂しそうに納得した。

 だからこそ、今年の文化祭はどこも力を入れると思うけど。

「じゃあ、そろそろ時間だしリルは、職員室で先生と会ってきな」

「あ、はい。ありがとうございます」

 彼女は来た道をたどり職員室へ向かった。


 実は、学生ホール会館と職員室の渡り廊下も直通で繋がってるんだけど。

 あだ名、リリーだからリルで合ってるかも聞き忘れた。


  僕も教室に戻るか。

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