アンデット・スチューデント



 おはよう。


 学校に近付くにつれ、私と同じ制服姿の人たちもとい、ゾンビたちがそんな挨拶と共に増えてきた。

 


 こんにちは、この文章を読んでる生きてる人たち。

 私は、小池レンカです。ゾンビ高校生です。



 カズキと隣で歩いていくのがだんだん、照れ臭くなりいつの間にか少し離れて歩いていた。

 ......いつもこうだ。

 本当は、ずっと近くにいたいのに。


「レンカちゃーん! おはよー」

「おはよう。トモエン、チサ」

 校門前で私は、同じ演劇部の谷上トモエと村上チサトと会った。もちろん、二人もゾンビである。

 私は、前髪を気にしつつ挨拶した。

 二人もゾンビって言ったけど実は、この学校にもう人間は先生含めてもいない。

 強いて言うなら、三日前まではカズキがこの学校で唯一にして最後の人間だった。

「トモエにチサ、おはよう」

 噂をすればなんとやら。

 遅れてカズキが到着した。

「よっ、カズキ! 三日も休んでたけど、大丈夫だった? ......って」



「「ええぇっ!!」」



 カズキの姿を見て、二人は驚いた。

 うん、流石の演劇部。タイミングもリアクションもバッチリ!

「どうしたの、その目!?」

「それに、口も! 八重歯!?」

 二人は、カズキの変わったところの特徴を指摘した。


 私たち質のいいゾンビは、体も腐敗しないから生前の人間とパッと見ても見分けがつかない。

 でも、比べると少しだけ違うところがある。

 それは、目と口......と言うより八重歯である。

 ゾンビになると目の色が少し赤みがかって変色する。

 八重歯は、生前と比べ少しだけ鋭くなる。

 まるでドラキュラみたいって思うかもだけど、これが私たちのゾンビなの。


「とうとう僕もゾンビデビューだぜ!」

 まるで、スマホを初めて携帯したかのような軽快なノリでカズキは笑った。

「軽いなー、一度死んでるんだよ?」

 チサトはケラケラと笑った。

「それより、誰にゾンビにしてもらったの?」

 トモエの言葉に私は、ハッとなった。

 トモエの表情を伺うと私の方を見てにんまりと笑みを浮かべていた。

 ......チサト、知ってて聞いたな!

「え? レンカにだけど」

 素直に堂々と答えるカズキを私は恥ずかしくなって直視できなかった。



「おぉ、カズキ! 三日ぶり......ってお前、とうとうゾンビになったのか!?」

「どやっ! 三日も経てば人は変わるさ」

 カズキは、カズキのクラスメイトの男子と合流した。

 私とカズキは、クラスが違うから学校でのカズキは知ってるようでよく知らない。

 カズキは、手を振り私たちと離れた。

 ちなみにカズキは演劇部ではないから学校で会う機会は、朝と放課後だけだ。



「にしても、首筋を噛むとは大胆だねぇ。遠くから見ても目立つや」

 チサトは感心したように頷いた。

 私たちゾンビにとって、傷口はコンプレックスだったりデリケートな場所だったりする。

 大抵のゾンビは、目立たない場所に傷口をつけてもらうか、衣服で隠したりする。


 かくいう私もその一人だ。

 私の傷口は、額の切り傷だ。

 もちろん、あまり触れられて欲しくないから、私は前髪をピンでとめて隠してる。


 でも、私がカズキの首筋を噛んだのはコンプレックスを抱いて欲しいとか、嫌がらせとかではなくカズキ本人からの要望だった。

 私は一生残る傷だよって言ってもカズキは、首筋を噛んで欲しいの一点張りだった。


「本当だよ。家族じゃない人が作った傷でゾンビになるんだから」

 トモエは、私とカズキの後ろ姿を見比べながらにやけていた。

「まあ、私たちなりのキスの一種なんだろう」

「そうそう! あのカズキくんの首筋の傷口はいわばかレンカのキスマーク」


 ......。......!!


「......き、きき、キス!? ちょ、な、何で? い、いいや! あ、あれはただの噛み後」

 この二人は、何てことを言い出すんだ!

 私は、ただカズキの頼みを聞いただけ!

「変わらないじゃん」

「人間の頃だって、首にキスしてキスマーク付けてる男子みたよ」

 確かに、いたけど。

 それとこれとは、別.....いや、でも首筋、噛むときに口つけちゃってるし......思い出したら、カズキの吐息をかかってた気がする......。

「......ぁああぅ、ぅぅ......わ、私が......カズキにき、キス......」

「さて、部活部活!」

 私を煽りに煽って堪能したのか、チサトは気持ちを入れ換えて部室である実習棟へ向かう。

「......ま、待ってよ!」

 私もやっとの思いで気持ちを切り替えて、二人に続いた。



 私たち演劇部の部室は、実習棟一階の美術室の半分を使わせてもらってる。

 ついでに同じ教室に、美術部もいる。

「おはようございます」

 私たちは部室に入るや否や、先輩であり美術部の部長でもある天王寺トオルに挨拶をした。

「ああ」

 今日のトオル先輩は何やら浮かない様子だ。

「どうしたんですか? トオル先輩」

 トモエは、トオル先輩に歩み寄りトオル先輩の手元にあった冊子を覗き込んだ。

「この前、みんなで考えたこのシナリオなんだが.......この話し、登場人物がゾンビである必要性あるか?

 生前、ホラーとして書き上げたゾンビもののシナリオだが、いざ自分がこうしてゾンビになってみても、体は丈夫だしピンピンしてるし。

 俺たち、ゾンビになったらリアリティ溢れる演劇ができて好評だぞって思ったら、これだぞ」

 演劇部は毎年、文化祭のためにオリジナルの脚本で演劇をしている。

「んー、トオルくんは演劇にゾンビを入れるのには拘りがあるの?」

 トオル先輩と向かい合って座っていた女性、副部長の赤羽サキ先輩が言った。

「いや。ただ、この時期に美術品の変更とか難しいからできるだけ、脚本を変えたくないんだよ」

 文化祭での演劇は、私たちの学校の文化系の集大成とも言えるものだ。

「難しいよなぁ!? 高井田!」

 トオル先輩は、大声で美術部の部長らしき人に声をかけた。

「ああ、夏休みには美術部全員でステージバックの作品製作があるからな」

 そう。文化祭で行われる演劇は、私たちだけがやるんじゃない。


 演劇部を主体として書き割りや小物や美術品の数々は美術部が作り、音楽を吹奏楽部と声楽部が担当し、衣服は服飾文化部、フォグやスモークを作るのは科学部が担当する。

 また、簡単なプロジェクションマッピングとその映像製作、音響やスポットライトの演出は、放送部と情報テクノロジー同好会が制作する。


 参加人数で言うなら、おそらく50人は超える。

 学校規模の演劇は、入念に前準備が必要になり演劇部は、それまでに限りなく変更がない完成した脚本を仕上げなければならない。

 今回、先輩たちの代ではホラーとして脚本を作り上げたが当初、自分達もまさかゾンビになるなんて思っておらず恐怖対象をゾンビにしてしまった。

 そして、いざ自分がゾンビになるとそこまで怖くなくなってしまった。


「じゃあ、恐怖の対象をゾンビ以外に置き換えるのはどう?」

 サキ先輩が提案した。

「そうだな。じゃあ、何がいいと思う?」

「連続殺人犯は? ホラー映画じゃあ、ゾンビ映画と同等にメジャーですよ」とチサトは言う。

「いや、ステージ上に複数人、ゾンビが立つことになってるから連続殺人犯に置き換えると、設定的に無理がある」

 確かに、複数人が壇上に連続殺人犯が上がるとある意味、恐怖だけど客観的に恐怖心を煽ることはできない。


「あの、難しいかも知れませんけど『幽霊』なんてどうですか?

 幽霊なら、基本は変わりないとおもいますよ」


 トモエの提案にトオル先輩は、それだ! と跳び跳ねるように喜んだ。

 トモエは、トオル先輩に認められたのが嬉しいんだろう、照れ臭そうに笑う。

 まだ、本人に聞いていないけどトモエは、トオル先輩のことが好きなんだと思う。

「よし! じゃあ、演出も設定も幽霊に合わせるからみんなも手伝ってくれ」

 トオル先輩が言うと、誰一人不満を言うことなく脚本の改稿作業に取りかかった。


 そう言えば、いい忘れてたけど私たち演劇部は、文化祭でのやることは、演劇の企画提案、制作進行にキャスティング、演技指導、ディレクション、演出を行う。


 あれ? 演劇部のくせに舞台に立たないの? って思った方もいらっしゃるでしょう。

 私も去年、入部して思ったから。でもちゃんと理由がある。


 それは、たった一回の公演で動かしてる人が多い大規模な公演になったからであある。

 昔は小規模でそれこそ、音楽もなく書き割りも演劇部員の拙い出来で、舞台も端にストーリーテラーがいて配役も全員が演劇部員たちで行われる、どこにでもあるような演劇部の公演だった。

 でも何代か前の部長が、今までとは違う新しいことをしたいと言い出し実現させたのが、文化系の部活を巻き込んだ演劇だった。

 その結果、文化祭での演劇は今までとは段違いに大きくなった。

 その公演がきっかけで毎年のように次は、なんの舞台だ? と周りの部活からも次回作について制作の意欲が高いのである。

 そして、大規模で高いクオリティを求めていくうちにキャスティングもオーディションで選考するようになったのである。


 ちなみに、噂だけどこの文化祭の公演はプロの劇団員や業界の方たちも見に来ているって聞いたことがある。

 ま、本当かどうかは定かではないんだけどね。

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