ハロー・アンデット・ザ・ワールド
My
ようこそ、新しい世界へ
この体も悪くない。
眠気と怠さと空腹感はあるけど、普通に生活できてる悪くない。
あ、こんにちは。
この文章を読んでる皆さん、僕は坂本カズキ。
つい三日くらい前に死にました。
じゃあ、なんで生きてる! だって?
それはもちろん、神様によって好きなスキルをひとつ授かって、剣と魔法のファンタジーの世界に転生させてもらったからさ!
.......なーんて、嘘。
そんな最近の流行りに乗っても、どうにもならないのに。
僕は転生してもなければ、神様から特別なスキルを授かってもないよ。
こんな事を言うなんて最近、ネット小説の読みすぎかな?
そんなことはさておき、何で僕が生きてるかだって?
別に僕だけじゃないさ。
お父さんだって、お母さんだってお隣さんだって、お向かいの犬やペットの猫だってみんな死んでるんだから。
世界で言うなら、人口の6割はもう死んでる。
でも、みんな生きてる。
だから答えになってない! だって?
まあ、そう急かさないで今から言うから。
だって、みんなゾンビなんだから死んでも生きてて当たり前だろ?
はじめは、海外の小さな村がある片田舎の研究所から漏れ出たガスが原因らしい。
そのガスは死者が蘇る効果があったらしく、更に死者は生者を襲い、襲われた生者は死んで死んだ生者は蘇ると言った具合に繁殖していった。
これを人は、ゾンビと呼ぶ。
ゾンビは、勢力を拡大していった。
驚くべき点は、映画やゲームであるゾンビとは違って知能があること。
まあ、土葬から蘇った死者は、脳も体も腐ってるから知能も体力もないんだけど、ゾンビに襲われた生者から生まれたゾンビは、脳も体も腐る前にゾンビ化したから脳も体も生前通りなんだ。
むしろ、聞くところによると銃で撃たれても怪我の治りも早いし、病気の免疫力も上がってるからむしろ、ゾンビになった方が得。
更にここ日本は死者は火葬が主流だから、墓場から蘇る知能も体力もないゾンビが蘇ることもないし、生前だと話せばわかるゾンビが多かった。
じゃあ、何で僕がゾンビであることを選んだかって?
今は、そんなことはいいじゃないか。
とにもかくにも、僕は幼なじみの小池レンカに首元を噛んでもらってゾンビ化したわけ。
「カズキー、ごはーんー!」
おっと、朝ごはんがお呼びだ!
「はーい」
僕はお母さんの呼び出しに返事をして、一階のリビングに向かった。
皆さんは、ゾンビの食生活は気にはならないだろうか。
「学校、遅れるわよ」
「はいはい。いただきます」
食卓には、お味噌汁、白米、お野菜のおひたし、豆腐、漬物が並んでいた。
一般的な、日本食の朝食だ。
あれ、でもお肉は? お魚は? と思った方は鋭い。
そう、このゾンビ化現象が蔓延してるのは人間だけではない。
さっきも言った通り、犬や猫にだって影響が及んでるんだから、牛や豚、鳥も死ななくなってしまった。
魚はどう言った経路は不明だが、魚もゾンビ化してしまってるらしい。
まるで、B級映画にもあったゾンビシャークみたいだ。
まあ、生きとし生けるもの......じゃなくて、生きとし生けたものはゾンビ化してるから殺すことができない。
必然的に食文化も肉や魚が消え、野菜や穀物が並ぶことが多くなる。
つまり、ゾンビ社会にとって今最も、盛んで力を入れるべきなのは農業である。
そんな思いを感謝の気持ちと一緒に朝ごはんを噛み締める。
まるで、平安時代以前の食文化が退行したような気がするけど。
お肉もお魚も食べられなくなるのは、不満だけど。
美味しい!
「ごちそうさまでした」
僕は、朝食を終えると身支度を済ませた。
『ピーンポーン、ピーンポーン』
家のインターホンが響き渡る。
お迎えが来た。
「はーい」
鞄を持ち僕は、玄関を開けた。
玄関には、額の傷痕を隠すようにまとめられた前髪の女の子が立っていた。
彼女が、幼なじみの小池レンカである。
「おはよう、レンカ」
「......おは、よう」
いつもは、気丈な彼女だが今日は何故かよそよそしかった。
「あらあら、レンカちゃんいつもごめんね。もっと早く家出ろって言ってるんだけどね」
「あ、いえ、大丈夫です」
「じゃあ、行ってきます」
レンカの前でお母さんの小言は聞きたくない。
僕は無理矢理、その場を後にする。
レンカも挨拶をしたあと僕の後に続く。
「レンカ、何か言いたいことでもあるの?」
しばらくお互い無言で歩いたあと、僕はそう聞いた。
「その、あの後、三日も学校休んでたし......もしかして、やり過ぎたのかなって思って」
僕は三日前、レンカに首筋を噛んでもらい死んだ。
人がゾンビとして覚醒するには個人差があり、すぐに覚醒する人もいれば覚醒までに時間がかかる人もいる。
覚醒までの時間が長ければ長いほど、死体は腐っていき知能も体力も低い質の悪いゾンビになる。
この三日間、僕の家族は冷凍状態を維持して腐敗を遅らせていた。
そのお陰で、人としての機能を維持した状態でゾンビに覚醒することができた。
「気にしなくていいさ。それに、やっとレンカと同じになれたんだから」
そんな手間までしてゾンビになった理由は、レンカだ。
僕は、レンカと一緒になりたかった。
だから僕は、レンカの手によってゾンビになってこうして隣を歩いている。
「カズキが、元気になれてよかった」
「死者に元気って」
この先、度々出るであろうゾンビジョークは暖かい目で見逃してほしい。
レンカは、一歩前に出て振り替える。
レンカの表情は、さっきまでのよそよそしさは消えいつもの気丈な振る舞いをする笑顔に満ちていた。
「ようこそ、新しい世界へ」
そうこれから僕は、このゾンビとして新たな世界で、新たな生活を送る。
今までは、留まることを知らずに減少する世界人口4割の窮屈な人間の世界だったけどこれからは、今も拡大を続ける世界人口6割のゾンビの世界だ。
「こんにちは、ゾンビの世界」
僕はレンカの返し言葉としてそう言い。
レンカと一緒に学校へ向かった。
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