コロボックルのダンス

天鳥そら

第1話ごきげんよう


「ごきげんよう、お嬢さん」


交通量の激しい道路のど真ん中、私とトラックの真ん中で踊る小人は春の野原の真ん中で蝶や花の妖精とダンスを踊っているようだった。


「なんだ、あれ」


「静かに!」


私のそばにいるのは、クラスのバカ男子。バカもバカも大バカ。ただの考え無し。えー…こほん。私が転んで道路によろけてしまったのを助けようとして、一緒に道路に飛び出してしまった。


動くこともできず、クラクションを鳴らして必死にハンドルを切ろうとしている運転手のお兄さんを、二人してぼんやり眺めていると現れた。


軽やかにステップを踏んで、鼻歌を歌い、くるくると回る。お腹がぽっこり突き出して、白いひげが生えている。着ている服が真っ赤だったらサンタさんだと思ったかも。


ズボンは緑、上着は朱色で金色のボタンがきらりと光り、上着と同じ色の帽子を脱いで紳士のように挨拶をした。


「やっと、あなたの役に立てそうですな」


小人のまわりにきらきらとした光が集まって、小人はにっこり笑って空に向けて高く指を突き出した。


「お嬢さんの望みを叶えましょう」


誇らしげに胸をそらすと、小人は大きく息を吸って細く長く息を吐いた。


小人のまわりに集まっていた光が渦を巻いて、私や隣にいるバカ男子、トラックのまわりをくるくるまわる。小人は螺旋階段のように渦を巻いて上に向かう光の上を、軽やかなステップを踏みながら登っていく。


小人が、光に取り囲まれるようにして消えてしまうと大きく光がはじけた。眩しくて思わず伏せると、耳元で陽気で幸福の塊といった声がする。


「隣の男の子とお幸せに」


聞き取るにはあまりに小さく、それでもきちんと私の心の奥深くまで届いた。光の眩しさに目を開けていられず、やっと目を開けたら白い天井と心配そうな両親の顔が目の前にあった。


「…お母さん?」


「良かった…良かった!」


両親は私に泣いて抱きつき、少ししてから白衣を着た医師や看護師が私のそばにやってきた。しばらく私の体を診てから小さく息を吐いて、もう心配がないこと、トラックに危うく轢かれるところだったと簡単に説明する。


念のためにもう一度検査すること、他にかすり傷があるくらいで全く心配がないことを話す先生に、私は急いで尋ねた。


「私と一緒にいた男の子、クラスメートなんですけど、その子は大丈夫ですか?」


先生とそばにいた両親がきょとんとした顔をしてから、しっかりうなづいた。


「彼は大丈夫。さっきからお腹空いたって言ってるくらいだよ」


「そうですか」


安心してそばに置いてある鞄に目を向ける。いつもつけている幸運のお守り。コロボックル人形の姿はなく鎖だけになっていた。



  (お願い!誰か助けて!私、これからも一緒に生きていきたい!)



トラックに轢かれる直前、強く思った言葉を思い出していた。

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