@Tsuku-Kat

それはちょうどこの時期だっただろうか。

 その日はまさに熱帯夜といっても差し支えない程の暑さで、薄い夏用の掛け布団を蹴っ飛ばし、寝間着を少しはだけさせてなんとか涼みながら自分の体が眠りにつくのを待っていた。築何年なのか聞きたくないほどの安アパートの二階の角部屋の自室には冷房なんて価値あるものなどなく、壊れかけの扇風機が時々止まりながら暑く重たい空気を、窓を締め切った空間の中をかき混ぜている。

 目を閉じていても一向に眠気が襲ってこないため、何となしに住み慣れてしまった部屋を見回してしまう。すると、寝ていたから分かったのであろう。自分の目線と同じ高さの壁のある一部に小さな穴が開いているのが見てとれた。

 小さな穴といっても人差し指が第一関節は入る程度の大きさである。いくら安いからと言ってこんな穴が開いているのはなぁ、等と溜め息にならない息を吐く。するとふと気がつくと、その穴の奥から隣の部屋が見えた。見えたことに気が付くと、なぜ今まで気付かなかったのかが不思議な程ハッキリと視界に隣の部屋の様子が見てとれるようになり、少しの後ろめたさもあるものの寝るまでの暇潰しになればと、目線を背けることなくじっくりと見始めた。

 隣の部屋ではどうやら女性が一人でスマホを弄って寛いでいるようである。時折頬を緩ませ、真剣な表情でうんうん唸りながら指を高速で動かしているところを見ると仲の良い人と連絡をとっているのだろうか。ひょっとすると想い人からの連絡に一喜一憂しなんとか関係を進展させようとしているのかもしれない。そんな姿を見てほっこりしたり少しの申し訳なさを感じていながら時間が過ぎていくのを感じた。

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