醜い少女の物語
柳
第1話
ある小さな村に、一人の少女が居ました。
全身を覆うようなローブを身に着け、決して顔を見せないように何重にも布が巻かれています。
かろうじて見えるのは瞳だけ。
それでも、少女が下を向けば誰にも見えません。
見せないようにしていました。
そんな不気味である布の塊に村の人は見向きもしません。
驚きもしません。
何年も前から少女はそうしていました。
今更驚いたりはしません。
朝から夕方まで少女は布織をしていました。
お給金の安い、生活費だけ賄える額しか支給されていません。
こんな不気味な人を雇う人などいなく、選べなかったからです。
渋々と雇った方も、この給料なら、と妥協したのです。
買い物をしても皆にそっぼを向かれてしまいます。
商品を手に取り、お代を置いていくのが常でした。
それは、少女がまだ幼い頃、母親に言われていたからです。
「あなたは醜い!とても醜い顔をしています!そんなものを人様に晒してはいけません!決してです!よいですね?セーラ」
この言葉を聞き、少女は顔を隠すようになりました。
醜い自分を見せないように。
決して鏡を見ようとはしません。
見るのが怖かったからです。
ある時、母に連れられお城にやってきました。
理由は知りません。
ただついてくるように言われたのです。
階段を上り、奥へ奥へと進んで行きます。
しばらくして母が立ち止まりました。
そこは奇麗な一室。
自分の住んでいる世界とはかけ離れた部屋でした。
少女は部屋の中央にある椅子に座らせられました。
そして、目の前に誰かがやってくる気配がありました。
「顔を、見せてもらえませんか?」
男の人の声でした。
これほど優しい声で話し掛けられてのは生まれて初めての事でした。
少女は慌てて首を振ります。
「いいのです。さあ、顔を見せてください。セーラ」
どうして自分の名を知っているのか驚いて少女は顔を上げました。
すると背後にいた母が顔に巻いてある布を取り外しました。
「お母様!やめてください!」
少女の悲痛な叫びに母の手は止まらず、とうとう少女の素顔が光の下にさらされました。
少女は泣きながら必死に両の手で顔を覆いました。
この醜い顔を見せたくなくて。
「顔を上げてはくれませんか?またあなたの顔を見たいのです」
と男は言った。
「無理です。こんな顔、見せられるはずがありません!」
そう言って少女は拒絶しました。
けれど、背後にいる母はそれを許しません。
後ろから少女の両手を掴み、顔をあげさせました。
少女は恐怖で目をつむりました。
すると、男は言いました。
「なんて美しい人なんだ」
男の言っていることが理解できず、少女はお顔を上げました。
「近くで見せてはくれないだろうか?」
醜いと言われ続けた顔を奇麗だと男は言った。
そして、目の前で少女の顎を持ち、慈しむような視線で見つめていた。
「さあ、鏡を見てごらん」
そう言って手鏡を受け取ると少女は初めて自分の顔を見ました。
そこに写っていたのはとても奇麗な顔をした人でした。
少女は驚いて後ろにいる母をみました。
「ごめんなさい、セーラ。あなたは誰よりも美しい顔をしていたから、守らなければならなかったの」
そう母は言った。
「あなたが王子と結婚するその時まで、守らなければならなかったのです。許してはくれませんか?」
母は泣きながら少女の膝にすがりました。
少女は言います。
「いいのよ、お母様。私は守られていたんですね。そう考えると、とても嬉しいのです」
少女は美しいだけでなく、心根も優しかったのです。
そんな少女に王子は言いました。
「美しい人。ああ、美しい人よ。どうかよろしければ私と結婚してはくださいませんか」
王子は膝を折り、見上げるようにして少女に告げた。
こうして醜いと言われ続けた少女は王子と結婚したのでした。
めでたしめでたし。
醜い少女の物語 柳 @yanagi0404
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