第3話

夕暮れの電車。車窓からは綺麗な夕陽とその光をキラキラと反射している川が見える。

結斗がそんな風景をぼーっと眺めていると電車は駅のホームに入っていく。

扉が開き、特急電車の待ち合わせを伝えるアナウンスが響いている。

結斗の隣に座っていた人が立ち上がると、コツンと音がした。

立ち上がる拍子にポケットから落ちてしまったのであろうスマホが床に転がっている。

「あ、これ。落ちましたよ。って、芽衣子?」

「え? あっ、ありがとうございます!」

落ちたスマホを拾い上げ、持ち主であろう女性に声をかける結斗。

そしてその女性の顔は芽衣子に瓜二つであった。

結斗が困惑している間、その女性はぺこりと頭を下げお礼の言葉を述べる。

「この中にカードとかも入ってるので本当助かりました! 私、斉藤楓って言います。あの、今度良かったらお礼させてください!」

そのまま結斗が困惑している中、てきぱきと連絡先を交換され、電車から降りていく楓。

車内に呆けている結斗を残し、電車の扉は閉まる。


そんな出来事があったのが2週間前。

今結斗の目の前にはニコニコした笑顔を向けてくる楓が居た。

「いやー、私が結斗さんのお友達にそっくりなんて。世の中同じ顔した人が3人は居るって言いますけど、ホントなんですね~。」

「俺も最初斉藤さんの顔見た時はビックリしたよ。てっきり芽衣子がふざけてるのかと。」

「お友達の事は名前で呼ぶのに、私の事は呼んでくれないんですか? 私も、楓って呼んでほしいなぁ……。」

楓は甘えた口調で結斗に迫る。

芽衣子に瓜二つな外見、声で甘えられるとつい口元が緩んでしまう結斗。

今日だって、お礼の食事だけのはずだったのが、そこからショッピング、映画、そして今居るカフェとついつい引き延ばされてしまっている。

店の窓から見える繁華街には浴衣姿の男女の姿が多く見える。

「今日浴衣の人多いですねぇ。あ、見てください! 近くの河川敷で花火大会があるんですって!」

店内に貼られている花火大会のポスターを指差す楓。

「あぁ、そうらしいね。か、楓さんは花火とか好き?」

白々しく相槌を打つ結斗。今日の花火大会は芽衣子を誘っていたのだったが、他の男と行くと振られてしまっていたのであった。

「えへへ、名前で呼んでくれるんですね。嬉しい! 花火好きですよ! どーっんって音が響いて、火花がキラキラと輝いて……。そうだ! お時間あったらこのまま見に行きましょうよ!」

楓の瞳はキラキラと輝き、ぴょこぴょこと揺れる身体はルンルンとした擬音が目に見えるようだった。

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