第11話
「私ね、本当は人間じゃないの。あの小さな社の守護霊なの。」
彼女が何を言っているのか分からなかった。守護霊?何だそれは。聞いたことがない単語だった。訳が分からず、口をパクパクとしている僕を無視して彼女は話を続けた。
「守護霊っていうのは、人や物を守る霊みたいなものかな〜」
そう話す彼女は自分のことを話しているのに、他人事のように見える。そしてそのまま続けて話し出した。
「私はね、小さな子供たちが一人で遊ぶことがないように見守っているの。だからね、ここの街の中ならどこでも現れるんだ。今回はここで会ったけど、他にも街中の隅っことかで会う子もいるんだよ〜」
楽しそうに話す彼女はニコニコ笑っている。そうか。だから、一人ではないんだ。彼女が言ってたことを思い出して僕は納得した。
「でもね、その子にね、友達が出来たらもう会えないの。だって、私は一人ぼっちの子の所にしか現れないから。だからね?ケイくんにも同じことが起きたの。」
ニコニコしながら話していた彼女は、先ほどよりも声のトーンが下がった。今やっと分かった。彼女が消えた理由も、何故彼女と遊ぶ時はいつも二人きりだけだったのかを。
「でも、そうなるともう会えないじゃん。僕、嫌だよ。もっとモモカと遊びたいよ。」
すがりつく思いで彼女に言ったのだが、彼女は首を横に振った。
「ごめんね。これは、もう私にもどうしようもないことなの。今回は特別なだけ。だから、もう会えないの。」
「そんな馬鹿なこと、あってたまるかよ!僕、君と、モモカと一緒に遊んで楽しかったんだよ!?なのに、一生会えないなんて、そんなの、おかしいよ!」
「それでも、約束は守らないといけないの。でも、記憶が消える訳じゃないんだよ。だから、大丈夫。」
僕は彼女の顔を見ることが出来なかった。これ以上彼女の顔を見ると、泣いてしまいそうになったからだ。何も出来ない自分に腹が立つ。どうしようも出来ないことがあるって、お父さんが言ってたけど、そんなことないと思ってた。でも、実際に出会ってしまうと、どこにぶつければいいのか分からない気持ちが込み上げてくる。
「じゃあ、ケイくん。またね。」
モモカはそう言って笑った。彼女の周りが輝き始めた。どんどん薄くなって消えていく彼女は微笑んだままだ。空の方へと高く高く光が登って行く。
「待ってよ!まだ、いっぱい話したいことがあるんだ!」
僕は彼女に向かって叫んだ。しかし、彼女は微笑んだまま僕を見ている。
「待ってよ!モモカ!行かないで!」
彼女の元へと走って抱きつこうとしたが、するりと抜けて転けてしまった。膝が痛いとか言っている場合じゃない。僕は空に消えて行った彼女を見上げた。さっきまで微笑んでいた彼女は涙を零していた。
「ケイくんなら大丈夫。これからも、元気でね。」
「モモカーーーーーーー!!!」
あまりにも高く、青い空に彼女は僕を置いて消えてしまった。
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