第4話「異世界からの使者」

「ちょっと!何!?誰なの!?」


ホテルの6階からサラを連れ出し、サラを抱えながら落下してゆく謎の生物。暗闇に包まれ、姿はよく見えないが、四肢と頭があるため、人間のような姿だと分かる。しかし、服を着ている感触はあれど、人間の肌のような感触もない。

硬く、冷たく、ゴツゴツしている表面。まるで爬虫類の鱗のような。


「悪いな嬢ちゃん。窓を開けてたのが悪いんだぜ。」


「(人の言葉?喋れるの?そして無駄に陽気な声ね。)」


「大丈夫。まだ死なない。」


「まだって何よ!いつかは死ぬの!?」


「あはは。」


「あははって……。」


「いくぜベイベー!離れるなよ!」


「えっ……。て、落ちる落ちる落ちる落ちる!」


謎の生物はサラを抱えたまま地面に向かって自由落下。


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!!」


「おーい、クロ!」ブォンッ


謎の生物は誰かを呼んでいるようだ。その瞬間とてつもない強風が吹いてきた。


「ぶわっ!強風!?」


「……ふぅ、君はいつも乱雑なのだ。窓から飛び降りる奴があるか。」


「(え、さっきの奴とは違う声?)」


「ごめんごめんクロ。この子に抵抗されたり大声出される前に連れ出すにはこれしかなくてさ。」


サラを連れ出した生物は誰かと会話をしているようだ。そしてサラはあることに気づく。


「落ちて……ない……?」


背後からバサバサと鳥が羽ばたく音が聞こえる。どうやら後から来た者が2人を掴み飛行しているようだ。バサバサと音を立てゆっくり落下し、着地する。


「はぁ!はぁ!死ぬかと思った!」


一命を取り留めたサラ。そして街頭の光に照らされ、謎の生物達の全容を見ることとなる。

まず、サラを攫った方はやはりというか蛇人間。ゴツゴツしていた感触は蛇の鱗のものだった。しかし、蛇人間は人間に擬態していたという情報通りに、カジュアルな黒スーツで全身をキメて、これまた黒のポークハイハットで何ともお洒落な身のこなしだ。

次に、途中から現れた「クロ」と呼ばれていた者。彼は四肢は人間のようだが背中に大きな漆黒の翼が生えており、顔が鳥と人間が混ざったようになっており、大きな嘴が特徴的だ。服は蛇人間と同じく黒スーツだが、こちらはカジュアルではなくビジネススーツでビシッとキメている。帽子は被ってはいない。


「っ……!」


サラはUPCPに所属しているとは言え、生で未確認生物を見るのは初めてである。この世のものでは無いものを見ることで体が恐怖で強張る。


「楽にしてよ嬢ちゃん今からあんたを食うって訳じゃないんだからさ。」


蛇人間は気さくな感じで話しかけてくる。


「いや、来ないで……。」ズリ…ズリ…


なんとか後ずさり距離を取ろうとするが、


「逃がす訳ないじゃーん。」


蛇人間は右手を蛇の頭に変化させ、伸ばす。するとその右手の蛇はサラの全身に巻き付き拘束する。


「た、助けて……。」


「だからー、殺しはしないって言ってるじゃんか。」


「じゃ、何で私を……?」


「君、サラ・シファーだろ?」


「えっ……。」


初めて接触したはずの生物に何故か自分の名前を知られていた。


「UPCPヨーロッパ連合の代表者、サラ・シファー。」


「ヨーロッパ……連合……?それに……代表者……?」


名前はあってるものの、所属や役職が的外れなため、さらに困惑するサラ。


「あれ……?もしかして来る時代間違えた……?うーん。確かに心なしか若いような……?」


「え?え?え?え?」


何もかもが分からず混乱は増す一方。


「どうしたネクス。」


「あー……。うん。ミスだね。だって俺の姿を見ただけでこんなに混乱するなんて可笑しいなとは思ったんだよなー。」


「(どうしよう……。情報量が多すぎる……。頭が回らない……。)」


「ミスだと?ならボク達は違う時代に着たと言うのかい?」


「(えと、まず、蛇人間の方が私を連れ出して、カラスみたいな方が落ちてる私たちを拾った……。)」


「ホワイトグリーンの野郎、適当にとばしたなー?」


「(この2人に私への殺意はないと……。でも何で誘拐?そして何で私の名前を……?)」


「やはり転生人は信用ならんな。」ブォンッ


クロと呼ばれていた者は翼を広げ、自らの翼の手入れを始めた。


「どうするよクロ?」


「(とばされた……てことは何処からか私を探してやって来たんだよね。)」


「どうもこうもないだろ。時代を間違えたとは言え、説明が増えるだけだ。彼女という存在がボクらの近くにいればいい。」


「じゃ、作戦は決行てことでいい?」


「(時代を間違えた……?ということは、ヨーロッパ連合なり代表者なりは……。もしかして未来の私のこと……?)」


「おい、サラ・シファー。」


クロが話しかけきた。


「は、はい!」


「単刀直入に言う。今すぐUPCPを辞めろ。」


「えっ……?」


「お、クロってばいきなり言う?」


「まどろっこしいのは好かない。」


「UPCPを辞めろって……どういう……。それに、あなた達は何者なの?」


「おっと、ごめんね。言うの遅れた。俺の名前はネクス。蛇の亜人種。異世界から来たよ。」


「ボクはクロ……。カラスの亜人種……。同じく異世界からやって来た。」


「異世…界……?」


「まぁまぁそういう面倒臭い説明は後にして、俺らの話を聞いてよ。」


「ボク達は君が普段暮らしてる世界。つまりこの世界とは違う世界からやってきた……。君をUPCPから脱退させるために。」


「そうそう。君がUPCPに入って偉くなったおかげでこちらの世界やばいことになってんのよねー。」


「(全く持って頭に話が入らない……。何もかもがぶっ飛びすぎてて、理解できない……。)」


「君は、この土地にギルと呼ばれる男を探しに来たんだろ?」シャー


ネクスの右手の蛇が威嚇する音だわ


「!」


「君の未来を知ってるからね。あらかた調べさせてもらったよ。」


「君は数年以内に……。世界を混沌に陥れる。」


「え……。」


「君は――。」


「(????????)」


自らが世界を混沌に陥れる。そんなクロの衝撃的な発言により完全に頭が真っ白になり、その後の話が頭に入らないどころか、何も考えれなくなりついにその場で気を失ってしまった。


「……おい、サラ?」


ネクスが駆け寄るも


「ダメだこりゃ…。気絶してる……。クロー。お前何でもかんでもべらべら喋りすぎだぜー?」


「うるさいな。ボクはただ早めに話を終わらせたかっただけだ。」


「どうするー?サラちゃん。確かこの後サラちゃんに命の危険が迫るんだよね。」


「…………。」


「でも、俺らってこの世界での戦闘は禁じられているわけじゃん?」


「……ギルという者がサラを守ってくれるのを信じるしかないな。」


「そだねー。」


「取り敢えずボク達は姿を一旦消そう。明日辺りに奴らがやって来て、この町で暴れるはずだ。奴らにボク達の姿を見られたくはない。上に報告されると厄介だからな。」


「じゃ、サラちゃんはホテルに返して、置き手紙だけ置いてこうか。」


「そうだな……。話が出来なければ共にいる必要も無い。来るべき時が来るまで彼女を監視するだけにしよう。」


「できれば彼女を異世界に連れていきたいんだけど……。そうするとまた厄介なことになるもんね。」


「ネクス、彼女をホテルの部屋に戻すぞ。」


「あいよ。」



翌朝、サラはホテルの窓から指してくる日の光によって目覚めた。


「昨日のことは……夢……?」


身体中を見回しても異常はない。


「スマホは……。」


充電器の方に目をやるが刺さっていない。


「あれ、充電忘れて寝ちゃった?」


ベッドから起き上がると机の上に上がっているのを見つけた。


「あっ。あった……て、何これ?」


机の上にはスマホの他にある紙が置いてあった。それにはこう書かれていた。


『一旦我々は姿を消す。ボク達と接触したことによって君の運命は変わり始めた。これからどうなるかは君次第だ。そして、忘れるな。君は世界を変える人間だ。これから我々は君を監視していく。』


そして紙の上には黒い羽が……。


「嘘……。昨日のはやっぱり夢じゃなかったんだ……。」


思わずベッドにへたり込むサラ。


「このことを早くトーマスさんに伝えなきゃ……!」


スマホを開いてみるとそこにはトーマスからの着信履歴が大量に来ていた。


「うわわ。トーマスさんめっちゃ心配してるじゃん。」テレレレレンテーテレレレレンテー♪


電話をかけてみるサラ。


繋がった。


「……あのー。トーマスさん?」


「おおサラ!起きたかい!心配したよ!」


「あの、昨日は、その……。」


「あー大丈夫大丈夫。昨日のことは全部彼らから聞いたよ。」


「え……?」


「クロとネクス。あの後君が倒れたらしいじゃないか?そしたら、2人が君のスマホを使って僕のとこに連絡してきてね。君の安全について聞いたよ。」


「そう……なんですか……?」


「あぁ。詳しいことは全く喋ってくれなかったんだけど、取り敢えず君の無事が確認出来ただけでもよかったよ。」


「はぁ…………。」


「それで、どうする?」


「どうするって……?」


「いや、ドイツに帰ってくるかい?君も怖い思いをしただろ?ギルの捜索は止めて帰ってきてもいいんだよ?」


「…………。」


「どうする?」


「…………いえ、やります!」


「……いいの?」


「私、どうやらとても重要人部らしいんですよ。なら、私は強くならなきゃ。これほどの事で狼狽えてなんかいられませんよ。」


「おぉー。素晴らしいね。」


「トーマスさん!待ってて下さい!私、絶対にギルを探し出してみせますよ!」

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悲観者トーマス 狐狸夢中 @kkaktyd2

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