第3話「夜はちゃんと窓を閉めよう」
「やっぱイタリアのピッツァおいし~(*´ч`*)」
サラはイタリアにいる異能力者コードネーム[ギル]を探しにイタリア・ナポリに来ていた。
「さー次はトルタ・カプレーゼ⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
今日一日でかなりのカロリーを摂っちゃった気がするけど……。まぁ、いつもくたびれるまで働いるから全然OKよね...♪*゚」
サラは一人での派遣ということをいい事にギルの捜索そっちのけでナポリ観光を楽しんでいた。普段ストレスを抱えて仕事している彼女にとってはいい羽伸ばしの機会ではあったが、やはり大学生。仕事とご褒美とのケジメを付けるのがまだまだ甘いようだ。
「さ、そろそろ向かいますか。」
サラが店を出ようとした時、同時に店に入ってくる大きな帽子を被った男とすれ違いざまにぶつかってしまった。
「あっごめんなさい。」
「こ、こちらこそ、だ、大丈夫です。」
男は何だか挙動不審だったが軽い謝罪をした後にさっさと店内の奥へと入って言ってしまった。
「なんか危なそうな人だなー。ナポリって治安悪いのかな……。」
サラは店をあとにした。
・
・
・
そんなサラが次のお店へ向かい歩いていると、トーマスから電話がかかってきた。
「………………。」テレレレレンテーテレレレレンテー♪
トーマスからの着信という字を見てしまったサラの機嫌はガタ落ち。
「……………………はぁ。」ピッ
このまま無視しようという誘惑へ打ち勝ち電話に出るサラ。
「はぁい。サラ君元気ー?」
「今元気じゃなくなりましたー。」
「ギルについての情報をUPCP本部に問い合せたらちょっと情報をくれたよー?」
「わざわざ問い合せたんですか?」
「うんー。なんの情報もなしにイタリアを探し回っても見つかりっこないからね。君のギルに関する情報もSNSに上がった動画だけでしょ?」
「まぁ、はい。」
「よくよく考えてみればSNSの動画だけを頼りに探し出そうなんてアホだなーって。」
「すいませんね!アホで!」
「そこがサラ君のいいとこだよ。気になったことに対して一直線。周りの事など考えない。名門大学の優等生とは思えない。最高だね。」
「なんですか。私を煽るためにわざわざ電話をかけたんですか。」
「怒んないでよ。」
「それで?情報ってなんですか。」
「うん。ギルは君の知っての通り、明らかに人間技じゃない能力で犯人を取り押さえたとこを動画に撮られSNSで拡散された警察官だね。人々がその警察官についての情報を求めようとしても、イタリア警察はそんな者はいないと否認し続けていた。」
トーマスが言うギルの動画とは、SNS上にアップされた未確認現象である。繁華街に現れた拳銃を持ったヤク中の暴漢を、そこにかけつけた警察官が謎の伸びる杖のようなもので撃退した動画がSNS上にアップされた。この動画を殆どの人々はCGや映画の何かだと言い捨て特にそこまで言及されなかった。顔も警察官の帽子を被っていたためよく写っていない。しかし、UPCPはこの動画に目をつけ、謎の杖を使った警察官をコードネーム[ギル]と名付けた。ここで覚えておいて貰いたいのは、UPCPのメンバーは基本頭のおかしい人たちであるという事だ。故に、明らかにCGのものにもやたらと力を入れてしまう。
「でね、UPCPはありとあらゆる情報に目をやっているとギルが暴漢を取り押さえた際に、その場にいたという人を見つけたのだ。」
「それ、ほんとにその場いた人ですか?嘘じゃないですか?」
「もしかしたら本当かもしれない。そう判断したUPCPは都市伝説好きな人間という名目の偽アカウントを作り、その人に接触した。」
「はいはい。それで?」
「その人が言うにはその警察官は「勘違いするなよ!俺はただ人助けをするだけだ!」って独り言を言いながら暴漢に突撃していったらしい。」
「…………は?」
「だから、「勘違いするなよ!俺はただ人助けをするだけだ!」て独り言を言ってたんだって。その警察官は。」
「もしそれが本当だったらその警察官絶対頭おかしい人でしょ。」
「そう?愉快な人じゃない?」
「あーそうだった。トーマスさんも頭おかしい人だった。」
「じゃ。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「なに?」
「それだけですか?」
「何が?」
「情報ですよ、情報!まさかたったそれだけを伝えるためにわざわざ電話したですか!?」
「あ、うん。」
「うんって……。」
「じゃ、切るね。国際電話だから早めに切らないと。電話代って経費で落ちるのかな?」
「なら最初からかけるなああああああ!」ピッ
勢いよく電話を切るサラ。
「はぁ…はぁ…。マジでなんなのあの人。電話内容の約半分が私への煽りだったんだけど。しかも有意義な情報でも何でもないし。何?独り言?絶対頭おかしい人じゃん。」
サラはテンションが下がったため、行こうとしていた店を諦め、ホテルへと、とぼとぼ歩いて向かった。
・
・
・
「あ、今日捜索してないじゃん。」
そんな事をようやく思い出した時にはホテルのベッドの上だった。
「……明日から頑張ろ。宿泊金額は経費で落ちるし。」
ベッドの上でスマホを眺めていたサラ。SNSで手がかりでも探そうと思い「独り言 杖」で検索をかけてみると、とある書き込みを見つけた。
『なんか杖持ってぶつぶつ独り言喋ってたやばいおっさんいたんだけど。』
「…………ん?杖……?」
書き込みは続く。
『それもただの独り言じゃなくて誰もいないのに誰かに話しかけてたみたいだったんだよね。』
それに関する書き込みはそれだけだった。
「これ……。トーマスが言ってたギルの情報に似てる……。いや、似てるというか本人じゃないのこれ?」
サラはその書き込みが気になり、書き込みをした人のアカウントを調べてみた。過去の書き込みも漁ってみた結果、ナポリに住んでる人と判断できた。その書き込みが書かれた時間は15時頃。写真は添付されていなかったたため、どこで目撃されたかは分からなかった。
「うーん……。嘘つくのは心苦しいけど……。」
サラは自分の裏垢を使ってその人に話しかけてみた。
『突然すみません。もしかしたらその変なおじさんは失踪中の私の兄かも知れません。私の兄は精神的な病気で支離滅裂なことを話したり、失踪癖があるのです。よろしければそのおじさんをどこで見かけたか、教えていただいて宜しいでしょうか?』
「ま、こんなもんかな。ごめんね。嘘ついて。送信と。」
サラが返信を送って数分後。
『そうだったのですか!何も知らずにお兄さんのことを変なおっさん呼ばわりしてまいすみませんでした。場所はピッツァレストランの○△です。詳しい場所のマップの画像送りますね。』
「えっ。○△って今日私がいたとこじゃん!私があの店を出たのが14時半ぐらいだからもしかしたらすぐ近くにいたの……?」
『情報ありがとうございます。兄は変なおっさん呼ばわりされても仕方のない人です。どうぞお気になさらざ。突然の返信失礼しました。本当に助かりました。』
サラはお礼の返信を送る。
「じゃあ、捜索範囲はここら辺でいいわけね……。明日はあのピッツァレストランで聞き込みから始めましょうか。」
明日の予定を決め、眠りにつこうとしたその時。
パァ~~~フォ~!パァ~~~フォ~!
パトカーのサイレンの音が町に響く。
「何?事件?やっぱ治安悪いの?」
サラは窓から顔を出してみる。
すると、
テレレレレンテーテレレレレンテー♪
電話がかかってきた。
「誰……?」
そこにはトーマスからの着信の文字。
「はぁ……。こちらサラ、どうしました……?」
「サラ君!大変だ!」
トーマスの口調は慌てているようだった。
「なんですか。今、ホテルの近くで事件が起きてパトカーが……。」
「未確認現象だ!」
「!」
「場所はイタリア。君がいる町、ナポリだ!」
「え、ええええ!?」
「どうやら人とは思えない生物の目撃情報が多数報告されてるらしい!とてつもない速さで街中を駆け回っていると今イタリア警察からUPCPへ連絡があったそうだ!」
「そ、それで。私はどうすれば……。」
「恐らく警察では歯が立たない。UPCPイタリア支部に所属している特殊部隊が到着するまで待つんだ!」
「え、特殊部隊?」
「ああ、UPCPは人を襲う未確認現象が起きた際に立ち向かえる人材が派遣できるように、各国の支部にUPCPによって形成された特殊部隊が配属されているんだ。」
「うちで言う神崎さんみたいな感じですか?」
「いや、特殊部隊の人間は異能力者でも何でもないただの人間だ。特殊部隊の中に異能力者がいるという話は聞いたことがない。ドイツ支部にもいるには居るぞ。中々出番はないがな。それに、うちの神崎は戦えるか分からない。」
「もしかして今近くで鳴ってるパトカーのサイレンって……。」
「何?君、もしかして事件現場の近くにいるのか?」
「たぶん……。」
「まず、絶対に窓を開けるな、人を見る度に襲ってくるやもしれん!」
「窓は、開いてるけど、まぁここホテルの6階だし……。その心配はないか。」
「いいか、その未確認生物は普段は人に擬態して過ごしていたらしい。報告内容によれば大きな帽子の男に擬態していたようだ。言動が怪しい人物には決して近づくな!」
「大きな帽子に、言動がおかしい……?もしかして……。」
「今日はホテルから一歩もでるな。そして知らない人をそこまで信用するな。擬態している未確認生物かもしれん。」
「は、はい。」
ガチャンッガチャンッ
何かが登ってくる音がする。
「え、嘘……。まさか……。」
「サラ……?どうした?サラ!?」
ガチャンッガチャンッ
その音はどんどん近づいてくる。
「何か……来てます!」
「何かって何だ!」
「ホテルの壁を何かがと登ってるぅぅ。」
「サラ!急いで戸締りをしろ!カーテンも閉めて身を隠せ!」
「はい、分かりま…キャアアアアアアアアア!」
「サラ!?」
「トーマスさん!!!助け」
「サラ!!!どうした、応答しろ!!!
サラッッ!!!!」
部屋の中には電話越しに響くトーマスの叫び声と窓から入る風の音だけが残った。
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